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*29 利用と策略

 待ち合わせの10分前。

 

普段あまりこない(必要な時にしかってこと)大学の図書館前で待つ。

 

一緒に待つ栂谷(つがや)に目をやると、何やら一生懸命に携帯の取扱説明書を読んでいた。

 

「……お前、何読んでんの?」

 

「取扱説明書。いまだによくわかんなくて」

 

 こいつはこのご時世で今まで携帯を持ったことがなかったという。

 

先週、あんまり連絡がとれなさ過ぎて困るので、ショップまで連れていって買わせたばかりだった。

 

「あー……、まぁがんばれ」

 

「うん」

 

 その素直さに毒気が抜かれる。

 

まったく、馬鹿なのか素直なのか。

 

素直なんだな、多分。

 

 特別行きたくもない合コンの為に待つのは、正直面倒臭い。

 

『暇だ』と答えてしまったがために先輩の顔を立ててるのも、待ち合わせの時間10分前に来てるのも全く馬鹿正直だな。

 

「あれ、君達だけ?」

 

 目を上げると市田さんが。

 

図書館で暇潰しをしていたらしく、片手には図書館の蔵書が。

 

「樋田さんは?」

 

「まだ来てないです」

 

 そう、と言って市田さんも俺達の並びに加わる。

 

市田さんが同じ柵に寄り掛かる際に、ギシッと音が鳴る。

 

「君等はいつから待ってたの?」

 

「そんなには。5分くらいですかね」

 

「……他に誰が来るかは聞いてる?」

 

「僕らの他は市田さんしか聞いてませんよ」

 

「「……マジ?」」

 

 栂谷の返答に思わず俺と市田さんの声がハモる。

 

この合コンは樋田さんにより樋田さんのための合コンだというのか?

 

 市田さんも同じ考えに到ったらしく、ちょっと引き攣っている。

 

「……何、考えてんだ? あの人……」

 

 俺も同意見だ。

 

だったら研究室の他の面々を誘えば良いのに。

 

『彼女ほしー』なんて言ってる奴は沢山いるじゃないか。

 

よりによって何故、このメンバーなんだ。

 

「……栂谷」

 

「なぁに?」

 

「お前、今、彼女欲しいとか思ってるか?」

 

 まさか、とは思うが一応聞いてみる。

 

「え? いや、特には」

 

「……だよなぁ」

 

 これで確定した。

 

今回の合コンは樋田さんによる樋田さんのための合コンなのだと。

 

市田さんと目が合う。

 

ほぼ、同じ考えのようだ。

 

二人、ほぼ同時に頷く。

 

「いやぁ、お待たせ~」

 

 待ち合わせよりも遅れてようやく樋田さんの到着。

 

その空気の読めない明るさについ、じとーっと見てしまう。

 

それは俺だけではないようで。

 

「え? 何、何かした? 俺?」

 

 言いながら俺と市田さんの顔を見比べる樋田さん。

 

自覚はないのか。

 

「……いいえ。何もしてませんよ、まだ」

 

「多分、まだ」

 

 うわぁ。

 

市田さん、めちゃめちゃ営業スマイルだよ。

 

しかも、青筋立ててるよ。

 

あれ、結構イラッとしてるって。

 

そう言う俺の顔も引き攣っているのに違いない。

 

 しかし、その微妙な空気が読めない(あえて読まないのかもしれない)樋田さん。

 

ひとりだけ満面の笑みだ。

 

「ところで」

 

 市田さんが口をひらく。

 

「他のメンバーはいないんですか」

 

「うん。これで全部」

 

 ……やっぱりかよ。

 

「つーか、今日の相手、市田と糸屋目当てだし」

 

「「……はぁ!?」」

 

 何勝手なことしくさってんですか、あんた!?

 

他人をだしにすんなっ!!

 

「……一体、どーゆーことです?」

 

 市田さんが笑いながら怒りながら問い詰める。

 

かえってこちらは怒るに怒れない。

 

「いやぁ、弓道部のコに頼まれてさぁ。もっと話してみたいって」

 

 ──あいつらかよ。

 

弓道部の連中には昨日も会ったが、何も言われていない。

 

ってか、なんか皆ニヤニヤしながら見てるなって思ったらそういう事かよ!?

 

 俺の百面相を見て察したらしく、市田さんが可哀相な者を見るような憐れみの目で俺を見る。

 

(見んな、このヤロー)

 

ついでに、樋田さんも見てくる。

 

(ってかお前のせいだろう、このヤロー)

 

「……栂谷くんと樋田さんは?」

 

「栂谷はついでだな、ついで。あの場にいたら誘わない訳にいかないしょ。俺は……幹事だからな、幹事。俺だって女のコと遊びたいしぃ」

 

 あんた、それが本音だろ。

 

ってか、語尾を伸ばすな、語尾を。

 

ちなみに栂谷はついで呼ばわりされた事は全く気にしていないようだ。

 

まだ、取扱説明書片手に携帯を操作してやがる。

 

「……森田さんには報告しておきますからね」

 

「えっ、それだけは」

 

「もうしちゃいました、僕」

 

 ナイス、栂谷。

 

栂谷が満面の笑みで携帯の送信履歴を突き付けた。

 

お前、マイペースなだけじゃなかったんだな。

 

退路を絶たれた樋田さんがくずおれた。

 

 しかし、樋田さんの裏工作を知っても、相手がいるだけに今更合コンを断る訳にもいかない。

 

「困ったスね」

 

「……うん。今日は仕方ないかなぁ」

 

 その間、樋田さんはくずおれたままだ。

 

地面に『の』の字を描いているように見える。

 

自業自得だ。

 

「……あのぅ」

 

「「はい?」」

 

 全くのノーガードだった背後から遠慮がちに声を掛けられ、俺と市田さんは弾かれるように振り返った。

 

 ……うわっ、かわいい。

 

思わずそんなことを思う。

 

 肩につくかつかないかくらいのふわふわの髪に、ナチュラル系メイク。

 

柔らかそうな小花柄のチュニックにヒール低めのサンダル。

 

これぞ女の子っていう雰囲気のコだった。

 

ちょっと俺の回りにはいないタイプかもしれない。

 

(工学部の時点で女子少ないし。回りにいるのが佐伯さんと森田さんだし)

 

「あの……、樋田さんと約束してたんですが」

 

 今日の合コンの約束の相手らしい。

 

その子の後ろには似たり寄ったりの雰囲気の子が3人いた。

 

声を掛けてきた子が代表で声を掛けてきたらしい。

 

「あ、俺が樋田です。待ってたよ~、皆~」

 

 あ、復活しやがった。

 

ずっとそのままでも良いくらいなのに。

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