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*21 気付かない

 どこまで行っても人は独りでしかないのだ。

 

たとえ、二人でいたって。

 

 気付いてしまったら、もうダメだった。

 

独りで過ごす夜が堪えられなくなってしまった。

 

気付いた時には昔からの友人に電話をしていた。

 

一緒にいて、と。

 

狡いのはわかってる。

 

あたしは、誰よりも狡くて、醜い。

 

それでもいいと彼に縋ってしまった。

 

「佐伯?」

 

 今、自分が降りた電車が最終だというのにホームは凄い人で。

 

その中で朝倉に見つけて貰えた。

 

 いつも通りのオレンジが鮮やかな髪に、よく合う紺色のパーカーを身につけた彼は、相変わらずでなんだかほっとした。

 

自分の知っているままの朝倉純也だと。

 

その表情はかなり慌てていたみたいだったけれど。

 

 側に近付くなり、その腕の中に抱きしめられる。

 

驚いて、思わず声を上げる。

 

「あ、朝倉っ?」

 

「わりぃ。なんとなく」

 

 間近に見上げた顔は、その髪に負けないくらい真っ赤で。

 

つい、からかってしまう。

 

「朝倉はなんとなくで抱き着くの? まずいよ、それ」

 

 朝倉は、かもな、なんて笑い、腕を緩めた。

 

その暖かさにもう少し浸っていたいような気がした。

 

言える立場なんかじゃ、ないのだけど。

 

「じゃー、ウチいっか」

 

 ほらよ、と右手差し出してくれた。

 

昔のように。

 

 ──あたしはその手に触れてもいい?

 

触れる資格なんてあたしにはない。

 

他の男と同棲しているあたしなんて。

 

 躊躇しているあたしに向かって、彼は手を差し出し続けている。

 

 手が触れるか触れないかの所で、その手を捕まれる。

 

そして、指を絡められる。

 

 ──こんな大きかったっけ?

 

暖かい、というより熱くて、大きな手。

 

手の大きさに、昔とは違うのだと思い知らされる。

 

「いくぞ。ってか、ウチ、マジで狭いけどいい?」

 

「あたしこそ、ごめん。いきなり押しかけて」

 

 いきなり行ってもいいか?と言い出したのは、あたし。

 

迷惑だったのではないだろうか?

 

「いや、いいんだ。それは」

 

 彼はなんでもない、と笑って見せた。

 

その笑顔がまぶしくて、殊更申し訳なく思う。

 

彼の、彼との思い出を利用しようとしているみたいで。

 

 彼の手に引かれて、一度も来たことのない街を歩く。

 

昔、こんなことがあったような気がする。

 

既視感というやつなのか、本当にあったのか。

 

「古いって言うなよ?」

 

 朝倉がそう言って笑う。

 

そうして案内されたアパートは確かに古いようだった。

 

アパートというよりは、アパートメントと言ったほうがいいような。

 

狭い階段を上り、3階の俺の部屋へ。

 

「散らかってるけど、どうぞ」

 

「ありがと。お邪魔します。……何年振りかな、純也(すみや)の部屋に入るの」

 

 パンプスを脱ぎながら言う。

 

玄関には彼の趣味らしいスニーカーの箱が詰まれている。

 

「……いきなりだなぁ、オイ。中学以来じゃね?」

 

 呆れたように朝倉が答えた。

 

それでもそんな風にでも返してくれるのは、彼が優しいからなのだろう。

 

彼の、少し傷付いたような表情には気付かずに。

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