-68- 癖(くせ)
癖は他人目には異質に映りますからやめるに越したことはありませんが、無理にやめれば安らぎを損なう恐れもあります。
水崎は困った癖を持っていた。感情が安定しているときはいいが、少しでも心に乱れが生ずると爪を噛む癖があった。徳川家康公もそんな癖があったようだが、他人目には少し異質に映っていたが、代表権を持つ経営者のトップに君臨する者だったから、誰もがやめるよう忠言できないというジレンマが存在していた。
とあるとき、財界トップの夕食会が開催されたが、会長の水崎の顔色を窺って、誰もその癖を咎める者はなかった。次期会長の御機嫌伺をしている節がないでもなかったからである。当然、御機嫌伺いで夕食会に臨む他の経営者達の安らぎ感は損ねられていた。だが、その中で一人の経営者が、ついに水崎の癖を咎めた。
「会長っ! その癖、みっともないから、おやめなさいっ!」
水崎はその瞬間、安らぎを破られたが、言われたことを真摯に聞き、その場でやめた。
しばらく時が流れ、次期会長が恒例により、会長の水崎から指名されることになった。新しい会長には、水崎の癖を咎めた経営者が抜擢され、水崎から次期会長の指名を受けた。新しい会長に就任を果たした経営者は、会長室の安らぎの会長席へドッシリ! と腰を下ろした。
言いづらい他人の癖に対して苦言を呈することで、安らぎを得られる場合もあるんですね。^^




