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外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~  作者: 宮塚慶
2:王女ミンテと偽りの女神

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第37話 人助け

「ストップです」

「ん? どうした?」


 平和で退屈な道中。突然、空気が引き締まるようなセルピナの静止命令が響いた。

 俺とミンテは指示どおり歩みを止めて、彼女の顔をまじまじと見つめる。

 セルピナはゆっくりと左腕を持ち上げ、遥か前方を指差した。


「魔物です」

「マジか」


 俺にはまったく察知できていなかったが、どうやら敵を見つけたらしい。

 じっと目を凝らしてみると、たしかに豆粒程度の敵影がある……ような気がする。

 以前にもこんなことがあったな。

 彼女だけが敵に勘付くのは長年兵士として戦ってきた嗅覚なのか、それともただ目が良いのか。


「よく分かったな」

「ゴブリンの群れです。下級の魔物なので戦うのも迂回するのも容易でしょう」

「こんなところで体力を消耗するのも勿体ないし、避けていくか?」

「ただ……一つ問題があります」


 妙に勿体ぶった言い方をするセルピナ。

 こちらの、というかミンテの顔をチラりと確認してから続きを告げる。


「どうやら、馬車が襲われているようです」

「助けましょう!」


 ミンテが即座に叫んだ。

 なるほど。彼女に事実を伝えれば、迂回の可能性はまず無いだろうという心配だったのか。

 セルピナもミンテのことがよく分かってきたようだ。


「俺たちは正義の味方じゃない。金にならない仕事を引き受ける必要はないぞ」

「ちょっとオルクさん!」


 抗議の眼差しを向けるミンテ。

 一応言ってみたが、この小娘が納得するとは思っていない。あくまでも自分たちのスタンスを確認しただけだ。

 そして、その上で。


「ただし、相手がザグレーン行きの御者ならタダ乗りできるかもしれないぜ」

「じゃあ!」

「やれるな? セルピナ」

「分かりました」


 俺の判断を受けて、セルピナも背負っていた杖を取り出して構える。

 ミンテの要望を聞いてやるなんて甘い行動だが、実際のところザグレーンへの道のりは長い。

 このまま歩くよりは、馬車の一つでも捕まえておきたかったのは事実。

 ……等とアレコレ理由をつけてあげているのが、まさに甘いのかもしれないが。


「行くぞ」


 号令と共に、俺とセルピナは前方のゴブリンたちへ飛び込んでいった。


「――怒れる稲妻オルゲー・アストゥラピ


 遠距離から、セルピナの雷撃魔法が木霊(こだま)する。

 激しい光と共に空気を裂いて飛ぶ一撃。俺たちの接近を察知するより前に、数体のゴブリンが吹き飛んだ。

 そこで相手も動き出す。

 棍棒を握りしめ、こちらを取り囲むように大きく群れを展開させ始めた。


「遅い!」


 とても機敏とは言えない相手の動きを見ながら剣を振るう。

 横薙ぎに払った刃が、2体のゴブリンを巻き込んで道を切り開いた。

 セルピナも杖を構え直し、再び呪文を詠唱。


「――雷鳴の刃(ヴロンティ・マカイラ)


 先端から伸びる稲妻の刃。

 それをゴブリンの首へ掛けて喉元を引き裂く。


「まったく……どっちが死神なんだか」


 冷徹に鎌を振りかざすセルピナの姿に苦笑しながら、俺もゴブリンをさらに1体屠った。

 それにしても数が多い。既に倒した者も合わせれば、合計で20体近くが徒党を組んでいるようだ。

 俺は敵の合間を潜り抜けて、御者らしき男に声をかける。


「よう。無事か?」


 小太りで髭を生やした素朴な男性。

 これだけの魔物を相手にしていたが、幸いにも怪我はないらしい。護身用と思われる短刀を握りしめ、必死に応戦したことが伺える。

 男は涙目になりながら感謝を伝えてきた。


「助かりました! 私も馬車もなんとか……あとはお願いします!」

「分かった分かった。ちょっと待ってろ」


 今にも拝み倒してきそうな御者を制して、俺は再びゴブリンへ斬りかかる。

 こちらが話している間にも、セルピナも容赦なく相手を刻んでいた。既に半数近くが彼女の手によって始末されている。

 やはり戦闘面ではセルピナに分があるようだ。張り合うつもりはないが、少し不甲斐ない。

 まあ、彼女の強さは無鉄砲さでもあるのだが。


「……ッ!」


 セルピナが息を呑んだ。

 油断していたのか、ゴブリンの棍棒が彼女の眼前に迫っている。防御呪文も間に合わず、そのまま左腕で受け止めようとしていた。

 俺は急いで駆け寄り、大剣で敵を弾き飛ばす。


「馬鹿が! こんなところで命を粗末にしてるんじゃねぇ!」


 思わず怒鳴りつけると、セルピナはキョトンとした顔でこちらを見ていた。

 彼女には女神の加護がある。

 死すら乗り越えて肉体が再生する、勇者の能力(スキル)。ゴブリンの攻撃を受けた程度で支障はないだろう。

 しかし彼女は無敵ではない。治りが異様に早いというだけで、怪我をすれば痛いし苦しい。

 自己犠牲を厭わない戦い方が当たり前の暮らしをしていたので、癖を直すのも難しいんだろうが……。

 ゴブリンごときにダメージを受けていては精神がもたない。


「これからも俺と一緒に戦うつもりなら、余計なダメージは受けるな」

「……分かりました」


 口ではそう言いつつも、あまり納得していない様子のセルピナ。

 ひとまず説教は置いておいて、俺は残りのゴブリンを掃討することに集中した。


「しつこいんだよ!」


 迫る敵を斬り伏せながら毒づく。

 既に10体以上を始末しているので、ゴブリン側から見ても力の差は歴然のはず。

 知恵があれば撤退してくれそうなものだが、下級の魔物である彼らにそれを望むことはできない。

 なおも追いすがる敵をセルピナと背中合わせで迎え撃った。


「オルク」

「なんだ? 話なら後にしろ!」


 集団で取り囲んでくるゴブリンたちに応戦していると、セルピナが声をかけてきた。

 こんな状況で何を言い出すのかと思いつつ、耳を傾ける。


「一気に片付けます。ゴブリンたちをなるべく一か所に集められますか?」


 たしかに、いくら雑魚敵とはいえ1体ずつ処理していてはこちらも消耗する。

 残りを全滅させる魔法も、セルピナなら撃てるだろう。


「分かった。やってやる」

「お願いします」


 俺が承諾するや否や、セルピナは魔法を練り上げるのに集中して目を閉じた。

 こいつを守りながら戦えというわけだ。中々無茶な課題である。

 ただ、彼女には助けられた回数の方が多い。ヘリオとの決戦も、キュプリスに逃れた後も。

 ここらできちんと借りを返しておいた方が後腐れもない。


「おら、こっちだゴブリンども!」


 俺は叫びながら、敵の1体を薙ぎ払って走った。ゴブリンたちの視線がこちらに集まる。

 セルピナの方へ注意を向けているやつもいたが、そいつらを中心に攻撃して俺の方へ釘付けにする。

 反撃してくる敵の棍棒を避け、飛び掛かる敵を撃ち落として、俺は駆けまわった。

 なるべく素早く。ゴブリンの動体視力では手も足も出ないように。


「俺はスピードファイターじゃないんだがな……!」


 大剣を構える前衛戦士には、文字どおり荷が重い役割だ。

 相手が俺を追いかける視線を感じながら、俺は必死に剣を振るう。

 視界の端に見えるセルピナはまだ動かない。


「おい、まだか!?」


 痺れを切らして、俺は聞いた。

 それに応えるように彼女はカッと目を見開く。


怒れる稲妻オルゲー・アストゥラピ!」


 先ほどまでとは比べ物にならない巨大な雷撃が轟き、一瞬視界がホワイトアウトした。

 そして、掻き集めていたゴブリンの群れが目の前で爆発する。

 空を(つんざ)くほどの轟音が響き渡り、俺は思わず耳を塞ぐ。


「とんでもねぇ……!」


 そんな感想を漏らす程度には、圧倒的な魔法の一撃。

 やがて耳の奥に鳴り響く雷鳴が止んで静けさを取り戻した頃、周囲にゴブリンの姿はなくなっていた。

 完勝と言っていいだろう。


「お二人ともー! お疲れ様ですー!」


 遠くから、ミンテが手を振って近づいてくるのが見えた。

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