表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~  作者: 宮塚慶
2:王女ミンテと偽りの女神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/38

第38話 旅は道連れ

 戦闘を終えて安堵するミンテとセルピナ。俺もふっとひと息吐き出す。

 そこへ、御者の男が手揉みしながら歩いてきた。


「いやあ、助かりました」


 口元のちょび髭が印象的な、物腰の柔らかい人物。

 俺たちが早期に発見できたからか、本人は怪我一つなく元気そうだ。

 荷車には多少損壊があるが、馬は無事だしこの程度なら少しの補修で問題なく走れるだろう。


「最近物騒になったとは聞いていましたが、まさか街道で魔物に襲われるとは思いませんでした」


 男はハンカチで額の汗を拭いながらそんな感想を漏らす。

 下手すれば命の危機だったと言うのに、随分と呑気なコメントをする人物だ。


「アンタ、行商人か?」

「ええ。ザグレーン王国へ向かうところだったのですが、運が悪かったです」


 この道を進んでいるということはもしやと期待していたが、本当にザグレーンへ向かうところだったのか。

 俺たちが徒歩で向かうにはまだまだ長い道のりだし、これは同伴のチャンス。

 交渉は苦手だがどうするか。

 頭を捻っていると、先にセルピナが前に出た。


「私はコレーと言います。まだまだ駆け出しの冒険者ですが、お役に立てて光栄です」

「ほお! 新人さんでしたか。鮮やかな身のこなしでしたので、歴戦の猛者かと思いましたよ」

「そう言っていただけると励みになります」


 セルピナ改め、冒険者コレーは恭しくお辞儀をする。

 熟練の魔法捌きなので新人を名乗るには無理があるが、行商人は特に疑問を挟まない。

 そのまま襟を正して挨拶してきた。


「私は行商人のトクラです。助けていただいて、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げるトクラ。


「馬車と荷物は大丈夫そうですか?」

「ええ。敵に遭遇してすぐに助けていただきましたし、修理してすぐに出発します」

「でしたら……。不躾にはなりますが、ザグレーンまで同行できるとありがたいのですが」

「もちろんですとも! この先も魔物がいるかもしれませんし、守っていただけるならむしろ大歓迎です!」


 ボディーガードを兼任するという名目で、あっさりと乗り合いに成功。

 トクラはそそくさと馬車の状態を確認、荷台に乗せていた木材を取り出して車輪を補強し始める。

 俺はセルピナに近づき、そっと話しかけた。


「上手くいったな」

「はい。私たちの運も向いているかもしれません」


 魔物に狙われていたトクラには悪いが、おかげで俺たちの旅は順風満帆と言っていいだろう。

 足を確保できたことで、故郷を憂うミンテも少しだけ表情を緩ませていた。


 ◇


 売り物と思わしき荷物が詰め込まれた荷台は狭苦しいが、歩くよりは何倍も楽になる。

 俺たちは特に文句も言わず、身を寄せ合いながら車内にお邪魔した。


「コレーさんたちは、何しにザグレーンへ?」


 運転席に座るトクラが、背を向けたまま軽い口調で話しかけてくる。

 俺とミンテは直接名乗っていないので、すっかりコレーことセルピナをリーダーとして認識したらしい。

 ……こういう時のために、俺たちも何か偽名を考えていた方がよさそうだな。


「ザグレーン内に羽振りの良い任務が多いので、街のギルドでクエストを受けられればと思っています」

「なるほど。たしかに最近の治安ですとザグレーンの仕事は多そうですなあ」


 こちらの行動に納得した様子で答えるトクラ。

 その言葉に顔をしかめて、ミンテが問いかけた。


「あの! さっきも、最近は物騒になったと言っていましたよね。ザグレーン王国は今危ないんですか?」


 焦った表情を見せるミンテ。

 だが、顔を見ていないトクラは世間話の一環だと思ったらしい。

 変わらずのんびりとした声色で返事をしてくる。


「ええ。一年ほど前に、第二王女のミンテ様が殺されてしまったでしょう?」


 その言葉にビクりと反応するミンテ。

 もちろんトクラは彼女がミンテ本人だとは知る由もない。気前よく雑談を続ける。


「婚約相手である勇者様も一緒に亡くなりましたから。戦力が減って今は魔物の侵攻に手を焼いているようです」


 どうやら、思った以上にザグレーンの内情は良くないみたいだ。

 トクラの説明を聞いて、狭い車内でミンテがガバッと立ち上がる。


「そんなこと……!」

「おい」


 俺は抗議しようとしている彼女を静止する。

 感情任せに動いた自分自身の行動に驚いたのか、ミンテは言葉を濁しながら再び着席した。


「どうされました?」

「い、いえ……。なんでもないです」


 スカートの裾をギュッと握り、歯噛みするミンテ。

 トクラに聞こえないよう小声で訴えてくる。


「ザグレーン軍は確かに完璧ではないですけど、勇者が一人いなくなっただけで困るほど貧弱じゃないんです。魔物によって治安が悪化しているなら、きっと何か別の問題があるはず……」

「そうは言っても、今はまだ状況が分からん。それに、あのトクラとかいう行商人に文句を言っても仕方ないだろうが」

「そうなんですけど……うぅ……」


 反論する言葉が浮かばず、肩を落とすミンテ。

 自ら見限って家を出たとはいえ、彼女は故郷であるザグレーン王国を誇りに思っている。

 だからこそ、国が弱体化しているような言い方に怒りを覚えたのだろう。

 それは分かるが、ここで憤って下手に正体がバレる方が問題だ。今はおとなしくしているべきだろう。


「トクラさん、ザグレーンの治安について詳しく教えていただけますか?」


 セルピナが冷静な口調で話を聞き出そうとする。

 それにもトクラは緩やかに返事をした。


「魔物の侵攻は激しくなっていますが、最近は新しい勇者様がやってきたという話もあります。怯えるほどではないですよ」


 その言葉に、今度は俺が顔をしかめる番だった。


「新しい勇者だと?」

「ええ。なんでもお綺麗な女性勇者だとか。いや、皆様も美男美女ですがね。がっはっは!」


 豪快に笑い、冗談話を終えようとするトクラ。

 トリストリア王国で勇者を始末したばかりだというのに、もう新しい勇者と邂逅する可能性が出てくるとは。

 やはり今の世界には勇者が増えすぎている。女神アプナが何を考えているのか知らないが、人物の選定は慎重に行ってほしい。

 無論、その新しい勇者とやらが正義に燃える正しい人間の可能性もゼロではない。ないが……。


「戦うことになるかもな」


 小声でセルピナに告げる。彼女もそれに同意するように頷いた。

 勇者の能力(スキル)を正しいことに使える者は少ない。強大な力を持てば、人はどうしてもそれを私欲に利用してしまうのだ。

 セルピナは不死の力で一国の軍力になっていた。一見すると治安を維持する善い行いに見えるが、戦力のバランスが揺らげば国家間の立場も変わってしまうもの。

 俺だって、自分の力を個人的な復讐を果たすために使ってきた。それを絶対的な正義とみなすことはできないだろう。


「勇者……」


 魔物の被害が増えているザグレーン王国。それを隠していた第二王子ネイロスの手紙。そして新たな勇者の存在。

 旅路は順調だが、待ち構えるものに不安を感じる。

 ……というのは、俺の疑いすぎだろうか。

読んでいただいてありがとうございます!

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★もよろしくお願いします。

感想コメントや誤字・脱字の報告、応援のポイントなどもお気軽にお待ちしています。


これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ