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外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~  作者: 宮塚慶


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第14話 ザグレーンの姫君

 ミンテ・ザグレーン・メリーノは、ザグレーン王国の第二王女として生を受けた。

 ザグレーンは決して裕福な国というわけではなかったが、魔法による教育が盛んで他国からも一目置かれた場所。

 魔物による被害も少なくない中、懸命に生きる人たちの活気に溢れていた。


 そんな国に生まれたあたしには、上には兄二人と姉一人がいる。揃って優秀な人物で、国の将来を背負う逸材として扱われていた。

 一方、あたしは不出来な人間だった。体力もなく、魔法の扱いにも秀でていない。内政を執り仕切る頭脳も足りていない。

 取り立てた才覚のないあたしは、幼い頃から周囲に憐れみの目を向けられていた。


「大丈夫よミンテ。あなたにもきっとできるようになるわ」

「はい! 頑張ります、お姉様!」


 優しく声を掛けてくれるのは、第一王女のポプラお姉様。

 魔法の扱いに長けた人で、王国の魔法学校を事業的に拡大させて国を豊かにしようと考えている賢い人だ。

 実際、その政策は既に成果を上げ始めていて、あたしはお姉様を心の底から尊敬している。

 そんなお姉様に優しく指導してもらうたび、逆にあたしは自分の不出来を呪ってしまうのだった。


 兄や姉は末っ子であるあたしに甘い。

 けれど一歩外の世界に出てみれば、誰もがあたしの不出来に陰口を叩き、嗤われているとすぐに気がついた。

 だからだろうか。

 気づけば、どんな時にも愛嬌を向けて相手の下心に取り入ろうとする癖がついてしまった。

 父、母、教育係として就いてくれる大人たち。果ては召使いたちにも良い子の仮面を貫き、見捨てられないよう振る舞う。

 それが、王族社会で暮らしていくための生存戦略だった。

 そしてもう一つ。


「確実に魔法の素質が伸びているよ、ミンテ」

「……ありがとうございます、お兄様!」


 他人の顔色を(うかが)いすぎた結果、人の放つ嘘に敏感になり、それを見抜ける観察眼を身につけた。

 今も、あたしに魔法を教えるお兄様の言葉が素直に受け取れない。お兄様はただ優しく接してくれているだけなのに。

 目線や息遣い、癖。人は嘘の裏で何かしらの変化を見せるもの。

 こんなものは知りたくなかったけれど、気づいてしまうのだから仕方ない。


「あたしもお兄様のように、立派な魔法使いになれますか?」

「……ああ。もちろんだとも」


 第二王子のネイロスお兄様は、嘘をつく時に自分の髪の毛を触りがち。

 そんなお兄様の可愛らしい癖に、あたしは屈託のない笑みを返した。


 ◇


「ミンテ。お前に縁談の話がある」


 父がそう切り出したのは、あたしが9歳になった時。

 まだ結婚なんてとても考えられない。兄や姉だってそんな話は受けていないのに、何故あたしにだけ?

 理由はすぐに分かった。


「相手は、先刻ザグレーン王国を魔物襲撃から守った勇者クリーズだ。知っているな?」

「はい、お父様。氷の勇者様ですね」


 政略結婚だ。

 相手はどんなものでも凍らせる絶対零度の能力(スキル)を持つ勇者、クリーズさん。

 少し前にザグレーン王国が魔物の侵攻を受けた際、身を挺して彼ら勇者パーティが国を救ってくれた。


「勇者クリーズは、今後もザグレーン王国を守りながら魔王討伐に向けた情報収集をしたいと言ってくれている。この場に軸足を定めてくれることは我々としても歓迎すべきことだ」


 お父様は淡々と事実を述べていく。

 ザグレーン王国は魔物の被害を受けやすかった。国も軍を配備しているものの、度重なる襲撃で戦力は消耗しつつある。

 だから、勇者様が国に定住してくれるのは喜ばしいこと。

 勇者が扱う女神の加護は、魔物に対して絶対的な効力をみせる。何十人の軍隊よりも、勇者一人の方が平和に導けるように出来ている。

 あたしはその見返り。役立たずな娘の唯一の使い道。


「どうだミンテ。受けてくれるな?」


 実の子をあっさりと嫁に出すんだ。

 動揺一つ見せないお父様。何処かで嘘を感じ取ることができればよかったのに、残念ながらこの政略結婚は思惑どおりみたいで。

 嘘だけじゃなくて、本当を見抜けるのも悲しいんだとあたしは知った。


 ◇


 クリーズさんは紳士的な人物だった。

 短い金髪の爽やかな青年。王国に訪れた当初から人当たりがよく、魔物討伐も率先して尽力してくれる。

 おかげで、婚姻の噂が流れてすぐ国民に受け入れられた。あの勇者クリーズがザグレーン王国を守ってくれるなんて素晴らしいことだと。

 良い人だし、あたしとしても喜ばしい話。

 けれど、彼とは10歳以上離れている。どうにも結婚というものは上手く想像できない。

 彼に対して、上手く心が開けないでいた。


「大丈夫か、ミンテ?」

「は、はい。ありがとうございます、クリーズ様」

「そんなに畏まらなくていい。今日の社交場は、半分お遊びみたいなものだ」


 彼が手をとり、あたしは引っ張られるようにして共に歩く。

 その日、あたし達は王族や貴族が来席する社交会にお呼ばれしていた。

 婚姻はまだ公にしていないが既に噂は出回っている。そんな中でこうした場に出るのは初めてだったので、つい緊張してしまった。

 慣れない正装のドレスも動きづらく、あたしは終始借りてきた猫状態。

 そんなあたしを、クリーズさんは常にリードしてくれる。勇者であり冒険者だった彼がどこでマナーを覚えたのか不思議なぐらい、大人の立ち回りをしてくれた。

 二人でダンスを踊り、食事を楽しみ、終始和やかな空気で会は進行していく。

 途中、夜風に当たるために二人でテラスに出た。

 飲み物のグラスを片手にひと息ついているところで。


「君が望むなら、俺は婚姻を急ぐつもりはない」

「えっ?」


 唐突に、彼はそう言った。


「君はまだ子どもだ。結婚なんて考えられないだろう?」

「……そう、ですね。正直まだ受け入れられてはいません」


 その言葉はとても穏やかで、あたしは救われた気持ちになる。

 やっぱりクリーズさんは良い人だ。彼と結婚できるのはきっと幸せなこと。

 彼は微笑みを浮かべながら、そっとあたしの頬に手を触れる。


「あ、あの……!」

「大丈夫、君の嫌がることはしない」


 たぶん、目を閉じて受け入れる場面だったのだろう。待ってくれるという彼に、今すぐ妻にしてくださいと体を差し出すのが王女としての正解。

 それを無下にするなんて聞き分けの悪い子どもだ。頭では分かっている。

 なのに、何故だろう。


 ――彼の不器用な笑みの裏に、底知れない不安を感じてしまう。

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