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外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~  作者: 宮塚慶


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第12話 猶予

 セルピナの言葉が重くのしかかる。

 確かめるようにゆっくりと俺は問いかける。


「……ターゲットは、最初からアンタ自身だったってことか」

「はい」


 驚きはしたが、内心腑に落ちる感覚もあった。

 彼女は最初から「勇者を殺してほしい」としか依頼していない。

 それが因縁の相手だとか、トリストリア王国の内部に潜んでいるかもなんてのは俺やミンテの予想に過ぎなかった。

 そう考えると分かる。旅の中で覚えていた違和感の答えが。


「勇者殺しという依頼があるにも関わらず、旅をしたいなんて言い出した時点でおかしかった」

「最期に一目見たくなったのです。自分の故郷かもしれないロクザの村というものを」

「事前に金貨20枚。さらにここまでの旅代と、始末後にも莫大な金額を出す案件だったのも頷けるな」

「私の全財産を差し出すつもりでした。死んだ後には不要ですので」


 確認作業に対して淡々と肯定するセルピナ。

 ミンテは言葉もなく、自身のスカートをギュッと握っていた。


「昨日、ターゲットの始末を躊躇うなと俺に言ったのも?」

「握手をして不安に思ったのです。情が移ると困ります」

「とんだ甘ちゃんだと思われてたんだな。俺はそんなことで手加減しない」

「それは申し訳ありません。でも、あの言葉は私自身の覚悟が曇らないようにするものでもありました」

「……そうか」


 つまり、自分の命を終わらせる覚悟は昨日の夜に完了していたというわけだ。


「じゃあ、もう言葉は不要だな」


 静かに剣を抜き、セルピナに向けて構えた。

 大丈夫だ。俺は最初から、仲間であっても見捨てる覚悟がある。

 ミンテだろうがセルピナだろうが、復讐の障害になるなら排除する。その非情さは持ち合わせていないといけない。

 それが今、正しくセルピナに向けられるだけのこと。

 ――<勇者殺し(スキルブレイク)>を持つ<死神オルク>として。


「ま、待ってください!」


 そんな俺の覚悟に、ミンテが割って入った。


「こんなのおかしいです! だってセルピナさんは言ってくれたじゃないですか、賑やかで楽しい旅だったって!」


 必死に叫ぶミンテ。

 その発言に、セルピナは素直に首肯する。


「はい。お二人との旅は非常に興味深く、愉快なものでした」

「じゃあなんで死ぬんですか!? まだまだこの先も、楽しいことはたくさんありますよ!」


 その言葉は悲痛に近いものだった。

 生きて、これからも楽しいことを経験していく。たしかにそうできれば尊いものだろう。

 しかし、セルピナの思いは変わらない。


「私は不死の能力(スキル)によって戦いの道を余儀なくされました。物心ついてから今まで、戦争以外の場所に身を置いたことはありません」


 冷たい瞳がミンテを真っ直ぐに射抜いている。

 エリバを始末した時にも見せた、冷酷なほどに力強い視線。あれがセルピナの覚悟を示した表情なのだろう。


「戦って、戦って、戦って。痛くても辛くても、肉体は再生し続ける。どんな無茶でもできる。そうして心を消耗しすぎてしまった私は……」


 無感情なままに見えるのに、セルピナはどこか哀しそうに見えた。


「もう、疲れてしまったのです」

「……」


 その確固たる意思に、ミンテは押し黙ってしまう。

 説得は失敗だ。それほどまでにセルピナの思いは強い。いくら言葉を重ねても、出会って一週間も経っていないミンテでは心を動かせないだろう。


「死ぬことのできない私のもとに、勇者の能力(スキル)を無効化できる暗殺者がいるという噂が流れてきました。私を殺すことのできる人間がいるかもしれない……彼に会うとすぐに決めました」


 そうして、エトールの酒場で俺たちは出会うことになる。

 最初に依頼を聞いて、エリバ暗殺でセルピナの実力を見た時は、何故自分で対象の勇者を始末しないのだろうと思っていた。

 けれどなんてことはない。そいつは不死の力を持っていて、俺以外には手出しできない代物だったわけだ。

 俺はミンテの肩に手を置く。

 すっかり俯いてしまったミンテは、こちらを見ることもなく小さく呟いた。


「……なんですか?」

「ミンテ、もう一度言う。俺は人殺しだ。これまでに多くの血を流してきた」


 先ほども彼女に告げた言葉だが、今度はターゲットが目の前にいる。

 より説得力を増して聞こえているはず。


「セルピナからは依頼の前金も貰っている。あとは仕事を果たすだけだ」


 宣言して、再びセルピナに向き合う。

 死を前にしているというのに顔色一つ変えない女だ。生から解放されて清々しいのか、ここにきて死を恐れる気持ちがあるのか。俺には一切読み取れない。

 しかし感情移入する必要はない。これまでに屠ってきた暗殺対象と変わらず、俺は仕事としてこいつを始末するだけ。

 そう思っていたが、さらにミンテが口出ししてきた。


「お願いしますオルクさん! 今日一日、明日の朝まででいいんです。待ってくれませんか!」


 追いすがられても、答えは出ている。


「いい加減にしろミンテ! 少し距離を縮めたからって、暗殺対象に肩入れするんじゃ足手まといになるだけだ!」

「分かっています! 今日だけ、セルピナさんと話をさせてください!」


 しつこい。俺は思わず、ミンテに向けて手のひらを構えていた。

 反射的にミンテが目を瞑る。

 その瞬間。


「……分かりました。今日一日待ちましょう」


 こちらの言い合いを止めたのは、意外にもセルピナだった。

 俺も、目を開いたミンテも困惑して彼女の顔を見る。


「ミンテは話をすると言いました。最期ですし、そのぐらいは聞き届けます」


 振り上げた手の所在もなく、俺は力を抜いた。

 依頼主本人が一日待つと言っている以上、深追いはできない。

 ミンテは弱々しく笑顔を向けて、セルピナに歩み寄っていった。


「ありがとうございます、セルピナさん。少しだけ、外でお話しませんか?」

「分かりました」


 セルピナの手をとり、教会の扉に向けて歩き出すミンテ。

 何か声をかけようと思ったが、俺も上手く言葉にできない。二人が扉を開けて外に出ていくのを黙って見送った。

 バタンッと扉が閉じて、教会内が静寂に包まれる。


「……ふう」


 息を吐き出してみると、想像以上に体全体が強張っていたことに気がつく。

 顔を合わせてたった五日の相手なのに、始末するとなると俺自身緊張していたらしい。

 情に流されないよう努めていたつもりだったが、所詮は俺も未熟だということか。


「やらないといけない」


 ミンテがどんな話をするかは分からないが、おそらくセルピナの考えを変えることはできない。

 猶予は明日の朝まで。そこで俺はセルピナを殺す。

 セルピナだけじゃない。勇者はすべて始末する。それが俺に与えられた力、俺の成すべき復讐なのだから。


「なのに、なんでこんなにムカつくんだ?」


 気分が晴れないまま、俺は長椅子に腰かけて瞳を閉じた。

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