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迷宮竜と不思議な動物園  作者: かっぺとM田
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プロローグ

かつて、この国には『迷宮ダンジョン』と呼ばれる広大な地下洞窟がいくつも存在していた。

そこは人の世界とは異なる、生命たちの領域だった。

迷宮には『魔物モンスター』と呼ばれる危険な野生生物が棲み、人類の侵入を拒んでいた。

しかし同時に、その身体や分泌物、器官の一部は、人の文明を大きく進歩させる価値を持っていた。

人は魔物から作られた道具を『魔道具まどうぐ』と呼び、やがて迷宮へと潜る者たちを『冒険者』と呼ぶようになった。


__そして。

俺は今、初めて迷宮へと足を踏み入れている。

憧れの先輩との、初めての冒険だ。

胸が高鳴る。

恐怖もあるが、それ以上に興奮が勝っていた。

「おう……こっちだ」

先輩がカンテラを掲げながら、横穴へと入っていく。

カンテラの中では、小さな花が淡く光っていた。

それは迷宮で採れる特殊な花__『夜光草ヨヒカリソウ』。

その光を利用した魔道具『万能カンテラ』は、鉱山や夜道を照らす灯りとして、今や世界中に広まりつつある。


俺は先輩の背中を追いながら声をかけた。

「……先輩、道間違えたりしないでくださいよ?」

暗い洞窟の奥を見つめながら続ける。

「俺、迷宮初めてなんですから……」

奥に進んでいくと興奮もすっかり冷め、いつ何が飛び出してくるか分からない。そんな恐怖が闇にべったりと貼り付いている気がした。

「怖ェならハナから迷宮になんて来るンじゃねェよ……」

先輩は振り返りもせず、ため息をつきながら言う。

「……ほんとに危ないときは守ってくださいね~」

俺が軽口を叩いた瞬間。

先輩が急に立ち止まった。

カンテラを高く掲げ、横穴の奥をじっと見つめる。

そして__

「あったぞ」

穴を抜けた先に、空間が開けていた。

そこに広がっていたのは__

光の花園だった。

洞窟の床一面に咲く、眩く光る花々。

幻想的な光景に、俺は思わず息を呑む。

カンテラの中に入っているのと同じ花。

『夜光草』だ。

「すげぇ……ほんとに自生してるんだ」

俺は思わず、光の中へ歩み寄った。今までは千切れた花びらしか見たことがなく、生きている姿は初めて見た。

こんなに美しいものが迷宮にはあるのか。

手を伸ばし、花に触れようとした瞬間__

「うわぁ!」

右足が、地面に沈み込んだ。

「なんだこれ、超痛い!」

足を抜こうとするが、何かが足首に刺さって動かない。抜こうとするとより強く痛みが体に伝わる。

「おいおい……」

先輩が呆れた声を出した。

手を伸ばしてくる。

俺はその腕を掴み、強引に引き上げてもらった。

足を抜くと、靴に深い歯形が残っていた。

そこから血が滲んでいる。

「迷宮内で不用心に魔物に近づくンじゃねェ」

先輩が低く言う。

「夜光草は光で生き物を誘き寄せて、草の下に隠した口で食う魔物だって入る前に説明しただろ」

……そんな話もあったっけ。

先輩が俺の初めての探索に付き合ってくれる嬉しさで、迷宮の説明を全く聞いていなかった。

「……聞いてなかったのか?」

とても怖い。

厳つい顔が、ずいっと近づいてくる。

「いや……まぁ……」

「全く……深層だったら死ンでたな」

先輩は呆れながら布を取り出し、傷口に巻きつけた。

応急処置を終えると、剣を抜く。

「見てろ」

夜光草の根元に刃を差し込む。

「こうやるンだ」

ドンッ!

土ごと花が吹き飛んだ。

夜光草は壁に叩きつけられ、地面に落ちる。

根元から、肉のような口がぱっくり開いていた。

しばらくのたうち回り__

やがて動かなくなった。

「……ほらな」

その後は簡単だった。

二人で花園に入り、次々と夜光草を掘り起こしていく。

光の花が次々と吹き飛ばされては落ちていく。

やがて花園は跡形もなく消えた。

残ったのは、土と切り株のような根だけだった。

作業を終え、俺たちは岩に腰掛ける。

先輩は慣れた手つきで花を分離し、袋に詰めていく。

俺はその手元をチラチラ見ながら、不器用に真似をしていた。

しばらくして袋が膨らむ。

俺は口を開いた。

「オニキス先輩」

「ン?」

「全部取っちゃいましたけど……大丈夫ですかね?」

先輩は、かつて花園だった場所を見る。

そこにあるのは、無残な土と草の残骸だけだ。

先輩は肩をすくめた。

「知らン。魔物なんていくらでもいるからな」

袋の口を縛る。

「それに、早い者勝ちだ」

荷物を担ぐ。

「俺らが採らなくても、いずれ誰かが見つけるさ」

カンテラの灯りが揺れる。

「もう充分休憩しただろ?次に行くぞ」

先輩は立ち上がり、闇の中へ歩き出した。

俺は慌てて立ち上がり、その背中を追う。


__その頃は。

俺も先輩も。

そしてきっと、この国の誰もが思っていたんだ。

迷宮の魔物は、決して尽きないのだと。

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