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小話29 つくれない
とある貿易都市の、ある酒場。
ここは酒も料理も美味いと評判で、多くの客達が訪れる。その中には冒険者や衛兵達の姿も。それだけ人が集まれば、自然と騒動も起こるのだが。
「……はぁ」
そいつは店の前でため息をついた。
上下ダボっとした灰色の作業着。頭には煤汚れた布を巻いている。その瞳は鋭くつり上り、どこか睨みつけている様な印象。その男は店の扉を開ける事を躊躇して、その厚手の軍手をした手を引っ込めた。
「 …… 」
店に入ろうとする度、その一歩が踏み出せない。無言で立ち尽くす彼の姿に、やって来た客の1人が声をかけた。
「おっす! 何、こんなところで立ち止まっているんだ?」
「そ、それは」
「店の前で立たれちゃ、迷惑だ。ほら、ささと入れ!」
彼は男に促される様にして、中へと入っていく。その後、客の男は扉を後ろ手に閉めたのだった。




