閑話 常連客のつぶやき5
とある貿易都市の、ある酒場。
ここは酒も料理も美味いと評判で、多くの人々が訪れる。中には冒険者や衛兵達の姿も。その為に色々と騒動も起こるのだが。
「あー、疲れた」
朝の酒場に、そんな疲労感を伴った男の声がした。そこへ新たに女性客が訪れ、男の隣りの席に座る。
「朝っぱらから、何を嘆いているのよ?」
女がため息混じりに尋ねて、マスターに朝食の注文をした。男はちらりと女に視線を送り、カウンター上の樽から器に水を注ぐ。
「嘆きたくもなる。この酒場じゃ、普通に静かに入り口通る奴は少ないからな」
警戒心むき出しの奴らに、自尊心高い若者。果ては入り口どころか、空から天井を破壊して登場した奴だっている。変な客が来るたびに、男がマスターの代わりになって事情を聞く。そんな構図が出来上がっていた。
「まぁ、あんたのお気楽さが丁度いいんじゃない?」
「それ、褒めてんのか? けなしてんのか?」
「はいはい。大変ですねぇ」
「はぐらかすなよ!」
男は舌打ちして、器の水を飲み干す。ダンッと器を置いて、口元の水を腕で拭う。
「それにしても、ここの酒場の噂ってなんだろうな?」
「そうね。何かお酒と料理が美味い、ってだけじゃない気はするわ」
パンの焼けた香りを漂って、女の前に皿が置かれる。女は真剣な表情から満面の笑みへと変えて、すぐさまパンを頬張った。その隣りで未だ眉間にシワを寄せたまま考え込む男。
「お前さんもそう思うか。その噂、マスターなら何か知ってそうだけど」
自分の仕事に打ち込むマスターの背を見つめながら、男は呟く。
「まぁ、いい。降りかかる火の粉は、蹴散らせばいいだけだ!」
「私も同意。それじゃ今は、考えるのはやめましょう」
考える事を一時的にやめ、男も料理を注文する。
こうして2人は、料理を楽しむ事に全力を注いだのだった。




