小話22 双子の悪夢2
店内を走り回りながら、子供達は上を見上げる。天井ははるか遠く、大人達は巨人みたいに大きい。視線は、戸惑いを含み、眉を寄せて2人の子供を見下ろす。子供達はその視線が気に入らず、不機嫌そうに頬を膨らますと、近くにあった男の足を蹴りつけた。
「イテッ!?」
「もんすたーにかこまれた! こうげきだ!」
「こうげきだ!」
「ちょっ、痛い。地味に痛い!」
ゲシゲシと続けざまに足蹴にされ、イスに座っていた常連客の男はたまらず腰を浮かす。そして腰に手を当て、叱りつけようと子供達の目線に立つ。しかし。
ズポッ。
「ふがっ!?」
タイチョーと呼ばれた子供が、木の枝の先端を男の鼻の穴に突き刺したのだ。生木の枝の香りとジンジンと襲い来る痛みに、顔を両手で覆い、後ろにたたらを踏む。痛みに悶える男の姿を見て、大人達の背筋に冷や汗が伝う。
『え、えげつねぇ!!』
近づいて来る大人の撃退に成功した事で、少年達は互いの手のひらを打ち付け合った。小気味いい音が響いて、再び駆け出す。
大人達はこのまま放置していては、第二、第三の被害者出るのではないかと考え、総出で子供の捕獲に乗り出す。けれども子供達の身軽さは、歴戦の冒険者や衛兵達でさえも形無しであった。飛びかかる様に追いかければ、机の下に潜り込まれ顔面強打。挟み撃ちされたら、股の下を通って回避。残った大人達が額をぶつけ合うだけ。しかし、少しずつだが子供達を追い詰め始め、ようやく壁際にまで至った。
「観念なさい、悪ガキ共」
子供達の前に、優しい笑み浮かべる常連の女性が立ち塞いだ。にじり寄る女性。次第に背後にの壁に追いやられ、子供達の顔に焦りが浮かぶ。どうしようと瞳をキョロキョロさせる。その時、2人の視線は女性の「ズボン」に気がついた。
「さぁ、おとなしく」
「「いろけ、ないんだよ。”おばさん”」」
「!!」
その言葉に女性の足が止まる。それどころか周囲の客達も金縛りにでもあったか、動きを止めた。喉の奥で絞り出す様に声を出す女性。
「お、おばさんじゃないでしょ? おねぇさ」
「とうさんがいってた。おねぇさんとよばせる人は、おばさんだって」
「それにズボンには、ろまん……がないって」
子供達の澄んだ瞳で言われて、女性は額に青筋を立てる。子供達を叱りつけるより、その言葉を教えた父親の存在に怒りを覚えたのだ。女性に対して「禁句」の言葉を。
「君たちのお父さん、どこにいるのかな?」
必死の笑みで尋ねる女性。子供達は周囲を見渡して、ある一点に目を留めた。
「「あのひと」」
彼らが指差す先。誰もがその先を追っていく。そこには。
『マスター!?』
驚愕の事実発覚。
子供達の事は記憶から吹き飛び、客達はマスターに詰め寄った。
「まさか、マスターにお子さんがいたのですか!?」
「おい、初耳だぞ?」
「自分の子供に何を教えている!」
驚きは勿論、非難めいた声も向けられるマスター。だが無愛想なマスターの顔は、動じない。
「何を言っている。俺に子はいない」
『え?』
再び固まる客達。その背後で、元気な声がした。
「「やーい! ひっかかった!」」
いつの間にか姿を消していた子供達が、舌を突き出し挑発していたのだ。
「たのしかった!」
「また、あそぼーね!」
子供達はそれだけ言うと、一目散に外へ駆け出す。呆然と見送っていた客達は、ため息と共に床に座り込む。結局のところ、子供達に遊ばれていたのだ。散々振り回されて、最後の最後に「大嘘」で逃げ切った。疲労も尋常じゃない。だが同時に、ようやく悪夢の様な子供達に解放されて、安堵する自分達もいる。
「あぁ、なんかもう疲れた」
一番振り回された女性は、怒りの矛先を見失ってため息をつくしかなかったのだった。




