小話18 人気の理由。3
「はい、甘いお菓子も最高よ」
会話に割り込む様に、女性の声がして記者は振り向く。ちょうどカウンター席の後ろ、テーブル席の女性が身を乗り出して声をあげた。
「え? 酒場なのに甘い物も売っているんですか?」
「そうよ。お酒と同じく、こっちも珍しい物ばかり。何を食べるか迷うくらいよ」
「マスターの飯も美味いぞ」
「毎日、店開いているのもいい」
女性客の飛び入り意見を皮切りに、酒場の良い所を挙げる客達。記者は質問より、羽根ペンをひたすら走らせる。
「いい感じに情報が集まって来た。よし、マスターにも質問」
場が温まってきたのを察して、マスターのいる厨房を振り返った。しかし。
「って、マスターがいない! どこ」
振り返った厨房には、誰の姿も見られない。焦って覗き見ると、初めに質問してきた男性客が「わはは」と笑う。
「あぁ、おそらく地下倉庫だろう。たまに店空けるんだよな」
「店の主人がいなくて大丈夫なんですか!?」
「この酒場の常連どもは、犯罪を侵す輩はいねぇ。起こすのは大抵、初めて来るやつか…」
「「おいおい! なんだこの寂れた酒場は!?」」
どがっ。
酒場の扉が激しい音を立てて押し開き、ダミ声の男の声がした。現れた人相の悪い3人組に、客達の視線が突き刺さる。音に驚く記者。そして、3人組を睨みつける常連客の男の姿。彼は人差し指を彼らに向け、口を開く。
「あいつらみたいな、バカ共だ」
「へ!?」
「おい、そこの冒険者男。聞こえているぞ?」
発言に驚いた記者の隣に向けて、ダミ声の男が唾を飛ばしながら喚く。額に青筋を浮かべ、かなりご立腹な様子。今にも乱闘騒ぎに発展しそうだ。
「ちょっと、何挑発してるんですか」
「店をけなす発言だぞ? ここは俺達の心の拠り所だ」
「悪く言う”バカ”は、許せないわよ」
「更に挑発してるんですけどっ!」
バカの連発で、堪忍袋の緒が切れたのかダミ声の男は、腰にさしていた剣を引き抜く。店の明かりが反射して、鈍く光を放つ。後ろにいた男達も、抜剣して構える。
「そんなに死にたきゃ、殺してやる。行くぜ、お前ら!」
3人組が駆け出す。瞬間。
突如、店内に疾風が発生。風圧に驚いて誰もが目をかばう。3人組も思わず目を背けた。そして。
「喧嘩、だめ」
風が止み誰もが顔を上げると、レイピアの切っ先をダミ声男に突きつけた1人の少女の姿があった。喉の数ミリ上、少しでも動かせば突き刺さるだろう。少女の長い紫色の髪がさらりと揺れた。
「ここの規則。剣を、しまう」
3人組は震える手で剣をしまい、少女の指示に従う。
「そのまま、出て行って」
「うぐっ!?」
恐怖心が募り、3人組は恥も外聞もなく酒場を出て行く。
酒場には沈黙と謎の少女が残った。
「あの。あなたは?」
沈黙を打ち破ったのは、常連客ではない。記者の男。
「 …… 」
しかし少女は無言を貫き、再び突風と共にその場から消え去る。
「凄い。なんだこの酒場は」
記者の男は興奮した様子で、頬を上気させた。羽根ペンが紙の上を走り、次々埋まっていく。事態の収束と記者の行動に、毒気を抜かれた常連客達は呆然と状況を見守るだけだ。
「どうした?」
そこへ、地下倉庫から戻って来るマスター。
『あ、マスター』
救いの主とばかりに、マスターへ視線を向ける常連客。
「あの、マスター! 取材協力ありがとうございました」
「……あぁ」
「おかげでいい記事、書けそうです。それじゃあ、またよろしくお願いします」
記者は挨拶もそこそこに酒場を出て行く。
こうして、騒動は鎮静化したのだった。
ーその後。
この都市で新たな新聞が発行された。その記事の中には、酒場の特集記事がデカデカと書かれている。その見出しにはこう書かれていた。
「世界で一番安全にくつろげる酒場」と。




