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異世界酒場小話集  作者: 愛組
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小話⑧獣人族は、飲む。3

「貴様がいい加減な仕事をした所為で、俺が文句をつけられたんだぞ!? わかっているのか!?」


 早口でまくしたてる、灰色の獣人。対して床に転がった獣人の男は、殴られて床にぶちまけてしまった麦酒の残骸を見て、大きなため息をついていた。まるで取り合わない男の姿に、灰色の獣人の怒りが蓄積されていく。

「いいか!? 大体、貴様は」

「マスター、もう1杯麦酒をくれ!」

 しかし、獣人の男は話をスルーしてマスターに再注文。傍観していた客達の方が、ハラハラと落ち着きが無い。注文を受けたマスターは、ちらりと灰色の獣人を確認してから、床に転がったままの獣人の男を見る。

「これ以上、騒動を起こさないのなら承る」

「あぁ、それに関しては問題ないぜ?」

「……いいだろう」

 マスターは了承すると、新たな麦酒のジョッキをカウンターに出す。

 立ち上がった獣人の男は、ジョッキを掴む。そして未だに怒り心頭中の彼に向け、勢いよく口へ押し込んだ。


「ごふっ」

『 !? 』


 突然の暴挙。訳のわからない事態に、周囲の驚く。しかし灰色の獣人は、押し込まれたにも関わらず、ごくりごくりと喉を動かす。しばらくして、空になった木製のジョッキがカツン、と床に落ちていった。静まり返る夜の店内。そして。



「あれ? 僕は何を?」



 その場には、首をかしげる灰色の獣人がいた。先ほどまでの剣幕がまるで嘘のように、殺気や血走った目はなりを潜めている。大きな変化に、客達は一斉に獣人の男を凝視した。


「お前、しばらく酒を飲んでねーな。酒を飲んで酔っ払うどころか、正気に戻る体質なのに」

『酒を飲んで正気に!?』


 客達の心の声が見事に一致する。


「ほら、席に座れ! 今日は2人で飲み明かすぞ」

「えっ? いいんですか、先輩」

『先輩……だと?』


 酒が切れると酔っ払い、飲んで正気。加えて攻め立てていた側が、まさかの後輩。一般常識を壊された気分に陥る、客達。


「次の酒、いくぞ」

「はい! 先輩!」


 上機嫌な様子で、獣人の2人組は次々と注文していく。それから客達は、ただ呆然と彼らの豪快な飲みっぷりを見届ける事となった。



ーーその後。

 閉店間際まで残った彼らの周囲には、100本近い酒の空瓶が転がっていたという。 

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