小話⑨ずぶ濡の少女
すみません。おそくなりました。小話9話目です。
貿易都市にある、とある酒場。
ここは酒も料理も美味いと評判であり、多くの人で賑わう。勿論、オフの衛兵もいれば冒険者も。それだけ色々な人が集まる場所では、自然と騒動も起こるものだ。
その日は、雨が降っていた。雨粒が激しい音を立てて屋根に落ち、客のいない酒場に響く。時刻は夜中。1人、黙々と閉店作業をするマスター。今日も多くの客達が店に来た。明日も来るだろう客達に備えて、掃除と料理の仕込みを始める。
キィィ。
入り口を施錠しようかと扉に向かうと、扉がひとりでに開いていた。雨の音が大きく聞こえ出す。雨風と暗闇。その中で、彼は開いた扉の理由を知る。
「客か?」
「……」
視点を少し下へずらすと、雨に打たれるがままの1人の少女がいた。年は10歳くらいだろうか。肩ほどの長さで切りそろえられた茶髪。栗色の瞳はどこか虚ろで、生気が感じられなかった。ボロ雑巾のような布で身を包み、むき出しの手足には、無数の傷跡。貿易で豊かなこの都市に、不釣り合いな姿だ。
声をかけても反応しない少女に、マスターは考える。そして。
「風邪をひく。中に入れ」
そう言って半開きだったドアを、大きく開けた。なかなか入って来ないのを見て、マスターは開け放ったまま、調理場へと戻る。明日も早いのだ。仕込みを続けなくては。
パタン。
それからしばらくて、扉が閉まる音がした。
振り返れば、調理場の明かりが届かない店内で、少女が立っている。それを確認して、マスターは拭くものとりにカウンターの奥へと消えたのだった。




