表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/12

5.発見

その日の夜。


私は研究室に残っていた。

机の上には、アルメリアに関する文献と、実験動物の経過観察記録が広げられている。

根に毒素が存在することは分かっている。


(…どうやって無害化する?)


私はペン先で机を叩いた。

アルメリアの文献を何冊見返しても、有効成分の抽出方法ばかりで、毒素の処理についてはほとんど触れられていなかった。


私は椅子にもたれ、目を閉じた。

前世の記憶を辿る。なにか、なにか手がかりになるものはないか。


製薬会社で働いていた頃。似たような植物由来の毒素を扱ったことがある。確か、あれは花弁に含まれる成分だった。


そしてーー。


(アルカリ処理?)


私は顔を上げた。うまく思い出せない。植物の名前も、論文のタイトルも。

けれど毒素を失活させるために、アルカリ処理を行っていた記憶が、脳裏を過ぎる。


(アメルリア…薔薇科…)


その瞬間。

別の記憶が浮かび上がった。


学生時代。

薬草学の課題研究で、薔薇科植物の花弁色素の変化について調べたことがあった。


(その時に、確か…)


私は研究室の、棚へ向かう。


「S1-023……024……025…あった」


奥に押し込まれていた古い箱を引っ張る。

学生時代の、研究ノートだった。

懐かしい文字を追いながら、頁を捲る。


『薔薇科植物の花弁色素について』


植物分類。

成分分析。

色素評価。


そして。


『ベルローズ。』


私はその頁で手を止めた。


『花弁に微量の毒素あり。色素への影響は確認できず。アルカリ処理により花弁の変化を確認


「これだ…」


思わず呟く。もちろん、ベルローズとアメルリアは別の植物だ。だが同じ薔薇科である以上、共通する性質を持つ可能性はある。


(もし、花弁色素の変化が、毒素の失活だったら。もし、アルメリアにも同じ性質があるとしたら。)


ーー試してみる価値はある。


私は必要な箇所を手早く書き写し、ノートを閉じた。


その時だった。

ひらり、と一枚の紙が床へ落ちる。


(あ……)


拾い上げる。古いメモ書きだった。


『生育環境と温度による薬効有効率の分布について』


(懐かしい……)


それは、学生時代、仮説を立てて独自で調べていた研究内容だった。

ーーそして、何より。


『面白い研究だね』


そう言ってエルヴィンが興味を示してくれたテーマだった。

だからよく覚えている。

懐かしさに想いを馳せながら元の場所へ戻そうとして、私は違和感を覚えた。


七十八。七十九。ーー九十七。


頁番号が、飛んでいる。

何度か前後を見比べる。間違いではない。

数頁分が、ごっそり無くなっていた。


「……?」


当時の私は、薬草の有効成分について調べていた。植物ごとに決まった部位だけが薬効を持つ。それが当時の定説だった。


けれど私は、『生育環境や季節によって、有効成分の分布は変化するのではないか』という仮説を立てていた。


何よりエルヴィンが興味を示してくれたテーマだ。よく覚えている。それなのに、肝心の研究内容が書かれていた頁だけがなくなっていた。


製本部分には、紙を破ったような跡が残っている。


(こんなことしたっけ……)


しばらく考えたが、思い出せない。学生時代のことだ。整理の際に自分で破ったのかもしれない。

私は首を傾げながらノートを閉じた。

今はそんなことよりも優先すべき事がある。


アメルリアだ。


もしベルローズと同じような性質を持つなら。アルカリ処理によって毒素に変化が起きる可能性がある。

私は実験台へ向き直ると、新しい試験計画書を引き寄せた。


翌日から、私は空き時間を見つけては検証を進めた。

アルメリアの根を細かくすり潰す。煮沸の段階で、アルカリを使用する。


(毒素は…残ってる。まだダメだ)


アルカリ濃度を変える。処理時間を変える。加熱条件を変える。

空いた実験台を借りては、ひたすら記録を取り続けた。


数日後。

ようやく一つの結果が出た。


「……減ってる」


毒素反応が明らかに低下していた。何度測定しても結果は同じだ。私は思わず拳を握る。


(やっぱり…!)


仮説は間違っていなかった。アルカリ処理によって、毒素は失活する。前世は正しかったのだ。興奮したまま、有効成分の分析結果を確認する。


そして。


「………え?」


思わず声が漏れた。

有効成分まで、減少していた。


毒素は減っている。

だがそれと同時に薬効の核となる成分も失われている。私は何度も計算をやり直した。測定ミスではない。結果は変わらない。

毒素を消せば、有効成分も消える。


これでは、意味がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ