11-8 怪物共
「はぁっ、はぁっ……!」
オットーはベルトコンベアの影に座り込みながら、息を抑えようと努める。
培養液に浮かぶドール達の間を、死神達のレーザーポイントが飛び交う。
銃の残弾も少ない。仲間ともはぐれてしまった――もはや助かる道はない。
オットーは音を出さないように、今は全ての通信を切っている。
なんだよ、応援なんていつになっても来ないじゃないか…………!
「おいっ!観念して出て来いよクズども!」
大して活躍もしていないガブリイルが、挑発的に叫ぶ。
「全く、何が『自由を要求する』だよ!努力もせずに出世できないからって人様を妬んで、迷惑ばかりかけてさぁ!恥ずかしいと思わないのかい!?」
勝手なことばかり…………お前こそ、自分の出世のことしか考えてないんだろ!
オットーは歯ぎしりする。言われるがまま、このまま耐えるしか――
「ねえっ!オットーくぅん!?」
「っ~~~!?」
培養ポッドの隙間から、ガブリイルがこちらをのぞき込んでいた。オットーは跳ね起きて逃げ出す。ポッド越しに撃つことはしなかった。
だがガブリイルは、容赦なくドール達を打ち抜きながら、オットーを追いかける。
「逃がすかよクズがッ!」
オットーに気づいた死神たちが、遠くから集まってくる音がする。オットーは頭を低くしながら、機械類の隙間に転がり込む。
その向こう側に抜けて辺りを見渡すと、ちょうど一人の死神とすれ違うところだった。
向こうの反応速度はすさまじいが、視認したのはこっちの方が早い。オットーは彼を撃ち殺し、再び走る。
今のは本当にまぐれだった。彼らとまともに戦える訳はずはない。
もう、隠れる場所は無い。脱出しないと——
だが、ガブリイルの弾丸がオットーの肩を打ち抜き、オットーは倒れ伏す。
ガブリイルは得意になって満面の笑みを浮かべた。
よぉし!初めて当たった!
やはり、この仕事は監視員よりも楽しいかもしれない。
ガブリイルは食堂でオットーに怒られたことを逆恨みしていた。ここで最後に、鬱憤を晴らしてやろう――そう、余計なことを考えた。
オットーは銃に手を伸ばすが、ガブリイルはそれを蹴り飛ばした。
「っ~~~~~!!」
「ハハハッ!ざまあみろ!委員会を占拠したって?何の意味もないじゃないか!政府軍も大量に投入されて、戦況は君たちの方が不利になってるだろ。……けっきょく、権力に盾突いたって無駄なんだよ……!」
「お前はっ…………本当に大事なものを、何もわかってない……!権力とか、お金とか、もう聞き飽きたんだよ……!」
「ハッ、負け犬の遠吠えだろ!君たちは所詮、生産性のないクズッ!そして僕は君を殺し、まともで進歩的な人生を送る――それが現実さ。」
ガブリイルはオットーに銃を突きつけた――その次の瞬間、辺り一帯の空気がびりびりと震えた。
「っ!?な、なんだ…………?」
バリンッ!バキバキッ!バーンッ――!次々と、培養ポッドが割れる音が響く。
死神達が何事か叫び、発砲音、そして無数のおぞましい金切り声が続く。
オットーの判断は早かった。銃を拾い上げ、後ろを見ているガブリイルに向けてぶっ放す。だが、腕を負傷していたせいで狙いが外れた。
「っ!!?てめぇっ!よくも——」
銃を突きつけ合った二人の頭上から、数体の怪物が飛びかかった――それらはさっきまで、胎児の姿で培養ポッドで眠っていたナニカだった。
オットーよりも先に、ガブリイルが標的になった……先ほど胎児達を撃ち殺したせいだろうか。
「なっ――!!?うわああぁぁぁっ!!!」
ガブリイルは銃を撃つ暇もなく、怪物たちに踏みつけられ、噛みつかれる。
「あ゛あぁぁっ!やめろっ、やめっ、あ゛あ゛ぁぁぁああっ!!!」
ふざ、けんな……僕は、副センター長に、なるんだ……こんな、所で…………!
ガブリイルの目の前に、幻の栄光が無数に煌めく――そして、儚く消えていく。
残るのは、ただの暗闇のみ。
――彼の命は、無慈悲にむさぼり食われて果てた。
19:00台にあと2本投稿します。




