11-6 コア
エレベーターは地下の更に地下、資料館よりも深度の高い、6層まで降りていく——かつてのジオフロンティア開発で、いちばん最初に着工した空間。戦時中に発見された、封印されし禁忌。
ブォエンの背後で、七色の髪を持つ薔薇の子たちがにやにやと笑う。
ドールから生まれた第一世代だけでなく、ドール風に髪を染めている者も多い。それぞれが仕える権力者たちの趣味に合わせるためだ。
「あーあ。あんなに偉かったおじさん達がこんな体たらくだなんて、ダッサぁっ!」
「ざまあみろですね!」「クズどもの傲慢ももう終わりなのです!」
「っ~~~…………!!!」
最高顧問は歯ぎしりした。他の委員は全員捕らえられるか殺されるかしており、もはや自分を助けてくれるものは誰もいない。
地下の主要施設の最高責任者たちも、半数以上が薔薇の子達に暗殺された……おそらく、夜ベッドを共にしている間に!
「……この、薄汚い下衆の薔薇の子共め!わしは最初からお前らのことなぞ信用していなかったぞ……!よくも彼らを誑かし操ったな!」
「誑かすなど、とんでもございません。みなさまがそれぞれ薔薇の子をご所望なさったのですから。……無理やり従わされた者も多い。」
ブォエンの声に、少し感情が籠る。
「……だ、だがっ、貴様らはその立場を利用し、彼らの慢心と怠惰を増長させたのであろう!?そして業務を忠実に代行するふりをして、現場と彼奴等の間の連絡を切り、ドール危機管理の欠点が我々に伝わらないようにした!」
「ハッ!被害妄想もいいとこだろ!お前らが顧客に合わせて無理な注文押し通そうとしたんだろーが!俺たちはそれに素直に従っただけだし~!」
首輪をつけた青年がヘラヘラと笑う。……首輪についた鎖は昨日、主人の首と一緒に切り捨てた。ついでにもちろん、あの馬鹿馬鹿しいつけ耳ともおさらばだ。
「……そもそも、あなたもずっとわかっていたでしょう?SIRIESもジオフロンティアも、危機管理は欠陥だらけなのに、改革はずっと後回しになっていた。」
「っ…………。」
ブォエンの指摘に、最高顧問は返す言葉もない。
委員会発足当初は、貧困層の統治のためにくまなく完全な監視システムを作ることも提案されていたが、「自由と人権」と言う名目の下、コストを惜しんでお蔵入りにされた。
問題を挙げれば切りがない。アーカイブのセキュリティが古いこと、資料館に古い「裏道」があること、居住区に監視カメラが無いこと、薔薇の子達に権力を与えてしまったこと——
そして何より、得体のしれないドールと言う存在に、人類の未来を託してしまったこと。
エレベーターが階下につき、最高顧問は道案内として先頭に立たされる。
「その当時、あなた達はただ地上の民が求めるまま、経済を回し金を儲けることを最優先した。……そして同じ理由で、貧困問題の解決も先送りにした。何もかもが効率と目先の利益重視だった。……調べてみて驚きましたよ。当時は食糧問題の手っ取り早い解決のため、スラム街を解体するついでに大量の原料を調達していたそうですね?」
「……ほ、他にどうしようもなかったのだ!けっきょく全ての国民は自分の利益を最大化するよう求める!平和を維持するには声の大きい者の欲望をできるだけ満たし、飼いならしてやるしかないだろう……!」
「ああ、着きましたね。ロックを解除してください。」
ブォエンは彼の弁明を無視した。最高顧問はしぶしぶ、生体認証と二重のパスワードを使って鍵を開ける。ボルトが回転し、鋼鉄の扉がゆっくりと開いていく。
「なーんだ。ここのセキュリティも大したことないじゃーん。」
「これもどうせ、当時急ごしらえで工事したんだろ。」
扉の向こうには、円筒状の広い空間が広がっている。そしてその中央には、何やら物々しいタンクのようなものが安置されている。その上部からは無数の太い配管が伸びており、数十メートル上空まで伸びている。
SIRIES——|Sustainable Incorporated Resources Integrative Exploitation System《サステナブル混合資源統合的活用システム》の、コア。
あらゆる生物資源の源泉――人類とドールの命の循環を司る、神。
残りあと、4話。




