11-4 おめでたい子たち
「……あ、あの……これってもう、映ってますか…………?」
コハルは近くに座っている放送委員達に尋ねる。彼女たちは黙ってこくこくとうなずく。
部屋の後ろの方には、長刀で武装したヘレンたちが待機している。エリーはどこか別の場所で安全確保のため、ドール達を廊下から退去させているところだろう。
そう、放送はもう始まっているのだ――全世界に向けて。
コハルは深呼吸をして、モニターに映る自分の顔に向き合った。
『あなたは今、視聴者の間でスイレンに続く人気でしたから。これ以上ふさわしい役は無いでしょう。』
数日前に「本」の人物にそう言われたときは、まさか自分が、と思っていたが、今ではもうすっかり決心ができていた。
学園のドールたちに対して、そして、今まで自分たちを操り、監視してきた人間たちに対して——コハルの中にある今の気持ちを、全て、伝える。
「……学園の皆さん、こんにちは。一年生のコハルです。今日は学園の皆さんに、大事なお話があります。……この学園で皆さんは、今まで色々な思い出を作ってきたと思います。勉強とか、部活とか、友達のこととか……楽しかったことも、悲しかったことも……。それはみんなの人生にとって、かけがえのない宝物だと思います。私にとっても、そうです。」
コハルは笑みを浮かべた――嘘偽りのない、心からの笑みだった。
「……でも実は、その学園について、誰かが今までずっと、嘘をついていました。学園だけじゃありません。私たちドールのこと、全部――」
コハルは、自分が知った真実について、語り始めた。
「――いつどこで、どれくらい『見られて』いるのかは、わかりません。むしろ友達と嫌なことがあった時とか、エッチなことをしている時ほど、それを見て喜ぶ人が多いみたいです。」
コハルはできるだけ、声が震えないように努める。
「――自覚している人がどれだけいるかわかりませんが、私たちは生まれた時から、ただひたすら点数を上げるように考え方を訓練されてきました。でもそれは、社会に出てから役に立つためだけじゃなくて、私たちをのぞき見している人たちを喜ばせるためでもあります。」
「――点数を上げるために、できるだけ『自分らしく』ならないといけない。そんな風に考えるのが、苦しかった人もいるんじゃないでしょうか。私もそうです。でも、ずっと自覚できなくて――」
廊下の外で、カミラたちがP達と争う音が聞こえる。
「――それだけじゃありません。人間の中には、今の私たちより、もっと大変な目にあってる人がたくさんいます。みなさんは、『スラム街』って言葉、知ってますか――」
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廊下ではP達が、生徒たちのバリケードを突破するためにテーザーガンを持ち出していた。
だが、メイメイら科学部が作った盾が電流を防ぐ。
「ハッハッハ!どんなもんだ!いくら先生だって、私たちには勝てないよ!」
「そうだ!ドールだからって舐めるな!」
校長はずっと、前線から一歩引いたところで黙ってたたずんでいた。だがその時、応援に駆け付けたP達と何かやりとりすると、ため息をついた。
「ずっとオレたちのこと見下してたんだろ!今ここで降参して、さっさと謝れ!」
「…………はあ。全く、おめでたい子たちですね……可哀想に。」
校長は片手を挙げて、P達を後ろに引かせる。それを見てドールたちは歓喜の声を上げる。
「『ケースレッド』です。殺傷を許可します。」
「「「――御意。」」」
P達はそう言って、各々ローブの中から新しい武器を取り出す。そのうち一人は、何か小さな円盤状の物をドールたちの足元に投げた。
それに最初に気づいたのは、盾を持ったメイメイだった。
「…………なんですか、これ」
――その直後、メイメイの体は爆散した。
廊下に爆風が、続いて七色の血液、破片、臓物が広がる。
ドールたちは悲鳴を上げ、パニックを起こす。
盾を持った者たちがいなくなり、ドールたちはPのレーザー銃の前に身をさらすことになった。
頭に腸がぶら下がった生徒が、力なく仰向け倒れこんだ。
「さあ皆さん、暴走する前にさっさと気絶させてください。」
P達がテイザーガンを乱射し、生徒たちは次々と床に倒れる。
「アハハ……可愛くけなげに団結して戦えば、私たちに勝てると思ったんですかぁ?学園ドラマの考え方がやっぱり抜けなかったんですね~。まさかこんなひどいことされちゃうなんて、想像もできなかったでしょう?」
校長はにこにこしながら、生徒たちに歩み寄られる。彼に視線を合わせられた生徒は、がちがちと歯を鳴らしながら立ち尽くしていた。
「でも残念!これは現実です!ドールって本当に死ぬんですよ~。皆さん。わかりましたね?どうせもうドラマは壊れてしまいましたから!我々はあなた達を、躊躇なく殺しますよ。死にたくなかったらどいてください。ああ、ついでにちょっとビリビリしますから、気絶しておいてくださいね~。」
ほとんどの生徒たちが、校長たちのために道を開ける。そしてテーザーガンで攻撃されるがまま、廊下に倒れていく。
「……カミラさん。そこをどいてくれませんか?」
カミラは放送室の扉によりかかるようにして、震える両足で踏ん張っていた。
『――ジオフロンティアでは戦争が起きています。一部の人間の人たちが、このままじゃダメ、って思って、人間もドールも自由にしてあげたいって思って、戦い始めました。もうすぐ、この場所にもその人たちが来ると思います。』
コハルの声が二人の上を通り抜ける。
「…………部屋に入って、どうするつもりですか…………?」
「コハルさんとお話をするんです。みんなの迷惑だからやめてくださいって。これ以上続けるなら、お友達もみんな死んじゃいますよ、って。」
「…………それで、コハルを、どうするんですか…………?」
「……プッ、それ、聞く意味ある?」
カミラの顔が一段と引き攣る。
「…………そんなの、駄目…………!私は、絶対にここをどかな」
――カミラの頭部は、レーザーで吹き飛ばされた。
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「あ……………………。」
廊下の映像をコンソールで共有していた放送委員たちは、メイメイたちが爆破される瞬間を見て凍り付く。だが、コハルはスピーチに熱中していて気づかない。
「――ジオフロンティアでは戦争が起きています。一部の人間の人たちが、このままじゃダメ、って思って、人間もドールも自由にしてあげたいって思って、戦い始めました。もうすぐ、この場所にもその人たちが来ると思います。」
「カミラ、さん…………。」
カミラの頭が吹き飛ばされるのを見て、ヘレンが床に崩れ落ちた。
「――人間の皆さん!こんなのもう、終わりにしませんかっ!?自分らしさとか平等とか言いながら……私たちに何も相談せずに、全部勝手に決めて!酷いこといっぱいして…………。おかしいって、思わないんですか……!」
「あぁ…………あああああぁぁぁ…………!!!!」
「……え。どうしたの、ヘレンちゃ――」
コハルは怪訝に思って振り返る。
「あ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
――P達がロックを解除し、扉を開ける。
そしてほぼ同時に、ヘレンの体が閃光を放ち、大きく膨れ上がった。
…………え、何っ――
その直後、コハルは何かに体を弾かれ、意識を失った。




