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10-3 「いただきます」

 オットーはテーブルを離れ、一つ先のテーブルにいるエリックとマサルの元に行った。

 二人とも、普通にスープを食べていた。

 むしろマサルは、いつも以上にがっついている……泣きながら。


「……………………マ、マサル?」


「…………うぅっ。本でさ、読んだんだ…………狩猟で暮らしてる、人間たちのさ、獲物を食べると、獲物の魂が自分の一部になるって考え方があるって……。」


 マサルは嗚咽しながら小声で言う。


「それでまた、自分たちも……死んだら土に返って、そこから植物が生えて、それを食った獲物をまた捕らえて……そうやって、命が回っていくって……そうやって、違う生き物の魂に生かされてる、から、獲物に、感謝して……儀式とか、やってたんだってさ…………。」


「……………………。」


 オットーは目の前のスープを見下ろした。


「動物殺して食うなんて、気持ちわりぃっていう奴もいるけどさ……デイビッドが言うにはさ、そう言う、魂とか、宗教とかが、人間らしさだって……俺はそう言うの、すっげえいいな、って思ってて……。…………でも、人間を食うのは、野蛮で、人間らしくないって考え方もあるんだってさ…………でも今は、こうしないと、食うもん足りねえし……。」


 野蛮――「文明」の、対義語のようにも用いられる言葉だ。文明的な美しいものは正しく、野蛮なものは非倫理的で、間違っている。……本当に、そうだろうか?


「俺には、わかんねえよ……!何が人間らしさか、なんてさ…………!俺たちより、ドールたちの方が人間らしいのか?」


 大スクリーン上で、いつもと違う、別の学園の映像が流れている。フェーゲラインと似たような、七色の笑顔が満ち溢れる文化祭。


「何も犠牲にしないで、さ……綺麗なものだけでできてる、人生でっ!そう思い込んでいられるから、幸せで…………でもそれは、違う気がすんだよ!誰かを食って生きるのは、汚いことかもしれないけど…………でも、だから無価値だなんて、思いたくないんだよ……!だから、俺は、デイビッドの……死んだ奴らの魂にっ、『いただきます』、って…………!」


 ……本で読んだ、マサルの祖先の言語だった。

 エリックが、マサルの肩に手を置く。


「わかった、マサル……もっと声おさえろ。誰かに聞かれたら困る。」


「うん…………。」


 いつも通りの喧騒と、配信のBGMの中だ。誰も、マサルの心の叫びを聞く者はいない。みんな、ドールたちに夢中だろう。


 オットーは、スプーンを握る手に力を込めた。


 …………いただき、ます。


 大きく息をついてから、スープを口の中にかきこみ始める。とっくに冷めているはずなのに、胸の奥が熱い。

 にじんだ視界に、デイビッドの顔がもういちど浮かび上がる。もう気持ち悪くなどなかった。


 そうだ……無価値なんかじゃないっ…………!人間らしくないからなんて理由で、絶望してたまるか……!


 涙をぬぐって顔を上げると、そこにはスクリーン上のドールたちがいる。


 お前らももう、ニンゲンサマでいるのに疲れたよな……。


 


 ――大丈夫、もうすぐ全部、終わるせるから。

次回(明日投稿)から、最終章です。

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