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10-2 不適切な情報

 昼食時。オットーはいつも通り、フレッドやアリーと一緒にテーブルに着く。

 みんなの前で怒鳴って以来、二人との会話は減っていたが、今日のオットーはいつにもまして無口だった。


 目の前で湯気を上げる、葉物と「人口肉」のスープ――地上に住む一部の富裕層は、本物の豚や牛を食べていると言う。

 ……彼らは、この人口肉が何でできてるか知っているのだろうか?


 ……どのみち、食べるしかない。この先ずっと肉だけを避けることはできないし、それ以外の添加物や調味料に含まれているアミノ酸もすべて同じなのだ。


 そう、分かっている……分かってはいるが、気が進まない。


 オットーは意を決して、肉を一口すくって口に運ぶ。口の中にいつも通りのまろやかな味が広がった。


「うぐっ――」


 目の前にデイビッドの顔がちらつき、喉が勝手に飲み込むのを拒絶した。


「オ、オットー!?大丈夫……?」


 アリーが尋ねてくる。


「なんでも、無い……。」


 オットーはごまかしながら、口の中でソレを転がし、慣れようとする。


 大丈夫……今までずっと食べてたんだ。何も変わらないさ……それに、気色悪いのはドールの性教育と同じだ。慣れればどうってことない。


 結局オットーは何度か試した末、なんとか肉を飲み込む事に成功した。


「――やあオットー君、お疲れ様。隣に座ってもいいかい?」


 そこにガブリイルが声をかけてきた。


「……いいけど。」


 ガブリイルはいつも通り張り付けた様な笑みと共に席に付く。オットーはただでさえ気分が悪かったのに、ますますうんざりした。

 調査委員会で知り合って以降、彼は食事の度にオットーに話しかけてくるようになった。


「君の前回の報告は素晴らしかったよ。前任者の記録まであれほど詳細に調べられるなんて、教育部門とは思えないくらいだったよ。」


 ……などと言いながら、仕事のことを根掘り葉掘り聞いてくる。オットーは怪訝に思っていたが、要するに教育部門の訓練に関するミスをあぶりだそうとしているらしい。


 管理の甘い部分やちょっとした失敗の話などになると、突然熱心にメモを取り始める。……嫌な奴だ。


 もっとも、彼が必死になるのも無理はない。ガブリイルは当時のあれやこれやの記録の発掘と整理に追われて、職場と孵化・条件付けセンターを行き来し続けている。

 どうやら研究部門の面々は今になって、ドール総合文化センター第2支部――特に生体管理課の体制に問題あり、と考えているらしい。原因はともかく、キャサリンにスイレン、二体のドールが暴走しかけるまで異常を看過するなど、誰がどう見てもおかしい。


 だからガブリイルは、別の施設のあら捜しでバランスを取れないか画策していたわけだ。

 だが、そうしている間に文化祭の惨事が起きたせいで、もはや彼が監視課に戻ってもするべき業務はなくなった。……この数日間、彼には本部からの指示は一切なく、ただ無意味にこの場留めおかれている。


「……ところで、先日廃棄された資料館の館長のことだけどさ――」


「…………っ!」


 オットーの手が止まる――なぜこの話の流れで、デイビッドのことを?まさか、自分とデイビッドの関係がバレたのだろうか。


「君の話を思い出して、思ったんだよね。教育部門だと、ドールたちに旧世界のテキストを読ませるだろう?いや、決して君たちが悪いって言いたいわけじゃないんよ。でも…………もしその過程で、何か不適切な情報が混入して暴走の遠因になった、とか。そう言う可能性って、あると思う……?」


「え……?どういうこと?」


 オットーは眉をひそめた――「不適切」とは、どういう意味だ?ソフィの暴走は明らかに、哲学やら思想やらとは何の関係もないだろう。


「ああ、まあ僕もそう思うよ。ただ、あの館長がただの好奇心から、無価値な上に有害な禁書を読んだなんて、どうもナンセンスとしか思えなくてさぁ。……もしかすると誰かと結託して、禁書を使ってドールたちの精神に意図的に奇形を生じさせてたんじゃないか、なんてさ…………。」


 オットーは身構えていたのに、ガブリイルの言うことはあまりに的外れだった……いや、実際は当たらず遠からず、と言ったところだったが。


 オットーも一瞬、ガブリイルの違法な「貸し出し」のことを思い出して動揺しかけたが、それを暴走と結びつけるのは、あまりに短絡的だ。むしろ聞いている内に怒りが湧いてくる。


 ふざけんなよ、こいつ……!まるで本が自動的に脳をバグらせる毒か何かみたいな言い方しやがって…………!

 デイビッドの本は、そんなものじゃない。お前なんかにはわからないんだ、お前なんかにはっ……………!


 オットーはそこまで言うのを我慢しつつも、ごく自然に怒りをあらわにした。


「……あのさ、お前。何?教育部門の誰かがその館長とか言う奴と協力して、ソフィを暴走させたっていうのか?しかも、ただ本のデータを送り付けるだけで?大体、誰が好きこのんでそんなことしなきゃいけないんだよ……!お前、ただ誰かのせいにしたいだけなんじゃないのか?」


「あ、いやだから、その……悪かった。君たちを疑ってる訳じゃないんだよ、うん…………。」


 そう言いながらもガブリイルは、明らかに苛立っている様子だった。

 オットーはガブリイルをにらみつけ、席を立つ。これ以上こいつの顔を見ていると、怒りに任せて余計なことまで口走りそうだった。


「――もういい。お前とは話したくない。」


すぐにあと一話投稿します。

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