10-1 みんながみんなのために
オットーたちはそのニュースを、朝食時のニュースで知った。
『この館長は、旧世界の知識を人類の発展のために活かさずに、くっだらねえ自分の好奇心のために勝手に私物化していたんです!』
『許せねえですよね!まして、ジオフロンティアがこんなに大変な時に!』
『でも、不幸中の幸いもお伝えします……!この欠陥品野郎はもう、我らが最高裁様の正義の鉄槌により!』
『廃棄されてこの世から消え去りましたから!』
『いい気味です!』
『ざまあみろ悪党!なのです!』
『『アハハハハハハハハッ!!!』』
金髪で双子の薔薇の子達が、楽し気に楽し気に、デイビッドの死を宣言した。
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「————つー訳で、デイビッドが死んだ。」
エリックが怒りを押し殺した声で、読書会の面々に伝えた。
ここはとある居住区の路地裏。暗闇の中、ドブネズミたちが足元をかけぬけていく。もう図書館への裏道は使えない。
「いま管理委員会はてんやわんやだから、俺たちのことまでバレるには相当時間がかかるだろう。それより俺たちの決行日の方が早い。全部予定通りだ。」
エリックは淡々と、当日の流れを確認していく。孵化・条件付けセンター、ドール総合文化センター、整備員たち――
「……作戦については以上だ。……何度も言うけど、これを受けて参加するかどうかはお前ら次第だ。まだ迷ってる奴もいると思う…………。」
ハンナは下を向いており、マサルは頭を掻いた。
「だけど、せっかくだから全員平等に、ある事実を知っておいてもらいたい。これを知った上で、もう一度どうするか考えてくれ――デイビッドが、文字通り命と引き換えに手に入れた秘密だ。」
エリックは暗闇の中、全員の顔を見渡す。
「お前らはさ、考えたことあるか?なんでSIRIESはわずかな素材で、錬金術みてえにたんぱく質を延々と生産できるんだ?」
「……特殊な方法での窒素固定と培養、じゃないのか?」
「そんなんで足りる訳ねえ。まあ、それができてるから魔法の技術だって思われてたわけだが、実際は違う…………そしてここに、もう一つ謎がある。各施設にある、廃棄部門。『廃棄』部門なのに、なんで『廃棄物』が一切出ないんだ?」
どんな廃棄物でも完全に分解し、ゴミも二酸化炭素も一切出さない魔法のエコ技術。
「まあ要するに簡単なことで、本当は廃棄なんてしてねえんだよ。」
その場にいる全員が、困惑で数秒沈黙する。
「…………っ!?おい、まさか、それって……!」
オットーが最初に気づいた。
「そう。廃棄する代わりに、新しく素材として再利用してるって訳だ。デブリもドールも、欠陥品共はみんな潰してすりつぶして分解して、俺たちのメシや新しいドールの材料に変えられてるんだとよ……!」
まさに、「みんながみんなのために」――SIRIESの有名なスローガンの一つは、物理的な意味でも実践されていた訳だ。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」「うぷっ――おえぇぇぇっっ!」
今度の沈黙を破ったのは、整備員の一人が嘔吐する音だった。
ハンナが彼女の背中をさする中、エリックは無視して話を続ける――だが、その声は震えていた。
「……デイビッドも、同じ目に遭ったって訳だ……もしかすると、今日の、俺たちの飯にも、さ、数ミリグラムくらい、あいつが混ざってるかもなっ…………。」
「おい、エリック――」
「―――以上だ、解散!よく考えとけよ、お前ら…………!」
オットーが怒鳴るより先に、エリックは足早に路地裏を立ち去る。
それを聞かされて、今のままでいいと思える者はいないはずだ――だが、そんな打算を抜きにしても、エリックにとっては言わなくてはならないことだったのだろう。言わずには、いられなかったのだろう。
オットーは背中で壁をこすりながら、力なく座り込む。
「っ~~~~~…………!!!クソッ…………!クソッ、なんなんだよ…………!誰が……誰がそんな事決めたんだよ!昔の人類は、それでよかったのかよ…………!クソサイコ共がぁっ!」
ほとんど生まれて初めて、オットーの口から汚い罵詈雑言がほとばしった。傍にいたハンナが一歩後ずさる。
「あ…………ごめん。」
「ううん、大丈夫…………怒って、当然だよ…………。」
「………………………。」
……誰も、エリックに続いて立ち去ろうとしなかった。
30分以内にあと2話投稿します。




