9-5 計画
ピコンッ、とまたコンソールに通知が来る。コハルはその音に過剰に怯え、椅子から落ちそうになる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………!」
例の「本」の人物だった。
『――おはようございます、コハル。』
画面にノイズが走り、文面が更新される。メッセージアプリの真似事にしては、何とも回りくどい。
『今日は監視の目がない日です。と言うより、この四日間であなたが見られていたのはせいぜい3、4回程度ですよ。警戒しすぎないでください。』
そんなこと、言ったって…………。
『気にしないでいられる訳ないじゃん ていうか、あなたが教えたせいじゃない』
コハルは目に涙を浮かべながら、怒りを込めて返信を打ち込む。だが、今のコハルにとって心の支えになるのがこの「本」だけと言うのも事実だった。
この人物の励ましや状況報告が無ければ、ここまでコハルは一人で持ちこたえられなかっただろう。
そう、一人で………いつまで一人で、頑張ればいいのだろうか。
『コハル、あなたはかなり疲れているはずです。少し、友達に相談してみてはいかがでしょうか?』
友達、って…………?
『実はこの数日の間に、私はあなた以外の有望な方にも、学園の真実を伝えて回っていました。私たちの仲間を増やすためです。』
仲間……何をする、仲間…………?ただ、知ってるってだけじゃないの……?
『そして昨日の夜から、エリーもその一人です。彼女はもう、あなたが仲間であることを知っています。』
「えっ…………!?」
コハルは思わずエリーの方を見る。エリーは突然見られて驚いていたが、すぐに何か察した様子で、弱弱しく微笑んだ。
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昼休み。人目のないバルコニーで、コハルはエリーに泣き縋っていた。
「四日間も……つらかったよね。……ごめんね、そんなに大変だなんて、知らなくて…………もっとお話、聞いてあげればよかったね……。」
「うぐっ…………今、聞いてくれたから、それでいいよ……。」
エリーの肩に顔をうずめていたコハルは、顔を挙げて涙をぬぐう。
だが、すぐに自分が言ったことが白々しく感じられる。自分はまた、「コハル」らしいことを言っているだけなのかもしれない。
……それに、エリーの親切心だって、結局はどこかで訓練されたものかもしれないのだ。
そんな風に思ってしまった自分にも、また嫌悪を感じる。
だって、しょうがないじゃん……もう、何も信じられないよ…………。
「それで、エリーちゃんは……あの『本』の人に、なんて言われたの?」
エリーは学園の真実以外にも、何か伝えられたことがあるらしい。
「うん…………ある計画に、参加して欲しいって……。」
「計画?」
「……この学園を、終わらせる、計画。」
エリーは少し躊躇しながら言った。
「終わらせるって…………どう、やって……ていうか、なんで……?」
「『私は今の学園やドールの扱われ方は許せない。こんな理不尽な世界を変えたい』、みたいなことを言ってた……本心じゃないかもしれないけど。」
エリーは『本』の人物に対して懐疑的だったが、一方でかなり真剣に、その計画のことを現実的に考えていると言った。
エリーはコハルのようにショックで打ちひしがれてはいない。むしろ、この現状を変えることを積極的に考えている。
「私たち自身がやるべきことは、そんなにない……放送室を使って学園中にこの真実を伝えるだけ。P達が妨害してくるだろうから、廊下で待機する人たちが、用意しておいた武器で足止めする……ほうきとか竹刀とかしか、ないけど……あとは、学園の外から助けが来るのを待てばいいって。」
「…………それだけ?」
「それだけ、だけど……大変だとは思う。P達がどんな対抗手段に出るかわからないし。…………それでね、決行が三日後なんだって……。」
もう既に、「本」からメッセージを受けたドールたちは、配信が止まっている隙を見て、決行の計画を話し合っているらしい。
「それで、色々考えたけど…………私も、参加しようと思う。」
「…………………………………………。」
「どのみち、ドールが参加しなくても、学園は破壊されるらしいし……もう知ってしまった以上、このままじゃいられないって思うから……コハルちゃんは、どうしたい?」
「…………私、は――」




