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9-1 「愛してる」って

 文化祭3日目、最終日の夜――全校生徒が参加する、舞踏会。


 ホールに咲き乱れ、入り混じる可憐で七色のドレスの群れ――誰も彼も、何事もなかったかのように楽し気に踊っている。


 コハルはそれを、端の方で遠巻きに眺めていた。


 みんな、点数を上げるために笑わなくちゃいけないんだ…………。


 2日目のあの一件の後、キャサリンは地下の「医療棟」に連れて行かれてしまった。コハルは後から、その場にいたダンスメンバー達から、キャサリン達の言い争いの一部始終を聞いていた。


 やっぱり……二人とも、点数を上げるので大変だったんだ…………気のせいじゃなかった……。


 コハルはうすうす気づいていたのに、二人とのぬるま湯のような「仲良し」の安息に甘えてしまっていた。――その結果が、これだ。


 ……やはり黙っていないで、声を上げるべきだった、と思う。

 だが、具体的に何をすればよかったというのか。


 彼女たちの普段の言動が作り物であると喝破し、非難すればよかったのか?


 そもそも、一体どこからどこまでが「作り物」だったのだろうか。


 この学園にいる者の内、何人が「演じて」いるのか?日常で交わされる言葉の、感情の何割が「嘘」だと言えるのだろうか?


 コハルがそうだったように、「自分の本心」とそうでないものの境界はひどく曖昧なものではないか……ただの、解釈ではないか。解釈に、正解はない。

 

 だったら……私は、何を、誰に伝えたらいいの?


「コハル……どうしたの?」


 いつの間にか目の前に、スイレンが立っていた――その花の名にふさわしい、純白のドレスを纏っている。2日目のパフォーマンスの時と、同じ…………。


「…………なんでも、無いです……。」


 コハルは目を逸らす。スイレンはこの上なく美しかった。だが、コハルはいつものように褒めたりしない。


「…………踊る相手が、いないのね。」


 スイレンは、いつもコハルと一緒にいる友人たちのことを思いながら言っていた。キャサリンは医療棟に収監、ヘレンはカウンセリング中、カミラはショックで部屋から出てこない…………。だが、スイレンはエリーの存在は知らない。


「よかったら、一緒に踊らない?」


「…………はい。」


 コハルは気の抜けた返事をした。



**************************************



 よく聞く機械合成のクラシック曲が流れる中、ドールたちはいつどこのものかもわからない「お嬢様風」のダンスを踊る。まだタップダンスの時間でなくてよかった、とコハルは思う。そんな楽しい気持ちにはなれない。

 この曲調なら、気だるい体を乗せて適当にたゆたうのにちょうどよかった。


「…………ねえ。なんで、こっちみてくれないの?」


 スイレンが不意に立ち止まり、コハルの手を離す。らしくもなく、不安を隠そうともせずに、焦れたような言いぶりだった。


「っ……いいえ、ちょっと、気分が悪くて……。」


 コハルのスイレンに対する好意は、今も変わっていない。

 だが、今の彼女を素直に受け入れていいのかどうかわからなかった。


「…………やっぱり、私のパフォーマンス、良くなかったのかしら……?何が、嫌だったの……?」


「っ!ち、違います……!すごかったし、感動しました…………でも……っていうか……お、覚えてないんですか……?」


 コハルは肩を震わせながら言う。


「…………何が?」


 スイレンは今にも泣きだしそうな顔で問う。いや、いつも通りの上品な笑顔のようにも見えた……いや違う、やはり泣き出しそうだった。でも、きっとその瞳から涙は流れないだろう。笑いながら心で泣くに違いない。


 おかしい、この人は、絶対におかしい——私が思っていたような、スイレン先輩じゃない…………。


 泣きたいのはこっちの方だった……それでもコハルは、声を絞り出す。


「あの後っ……ステージ裏で、私が会いに行ったら…………先輩、私のことぎゅうってしてくれて、それで…………!『愛してる』って…………。」


「うん、覚えてるわ…………それの、何がいけないの…………?コハルはっ、コハルはっ、もしかして……私のこと――」


「――『愛してるわ、()()()』って…………!言ったじゃ、ないですか…………!」


「……………………え?」

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