8-2 意気地なし
ステージショーが終わり、集会所からデブリたちが退出していく。そのほとんどが、恍惚として呆けたような笑みをたたえている。
「…………いやあ、最高だったね、本当に……。」
オットーに友人のフレッドが同意を求めてきた。
「……………………。」
「オ、オットー?なんで何も言わないの…………?」
「あ、ごめん……ちょっと考えごとしてて……。」
「……キャサリンちゃんのことでしょ。」
アリーがぼそり、と言う。
「きっと、処分されちゃうんだろうな…………。うう、なんで、なんでだよ…………!あんなこと言う子じゃ、なかったはずなのに……。」
「…………そ、その話もう、やめようよ……みんな、辛くなるだけだろ……?あ、ああいうことだって、たまにはあるよ。10年以上前には、結構退学者もいたらしいし……。」
「だからどうでもいいってのか!?そんな訳ないだろ!だって、なんだよみんな!他のドールのパフォーマンスに没頭して、彼女のこと忘れようとしちゃってさ!酷くない!?」
アリーは涙と鼻水を垂らしながら喚く。
「きっとただ、どこかの誰かが訓練に失敗しただけで、彼女自身は何も悪くないんだ……!ほんとだったら、優しいキャサリンのままでいられたはずなのに……!」
「――そうだなぁ。頭の中の理想のキャサリンちゃんがもう、現実では見られないんだもん、マジで悲しいよなぁ?」
突然サイモンがアリーの後ろから、肩を組んできた。
「でもさぁ、逆に考えて見ろよ?あの個体はただ、その理想のキャラを身に宿すのに失敗しただけだってさ!いつかきっと、あいつとよく似たもっと質の良い個体がでてきてくれるって……!ほら、一年前のあいつと一緒だよ、今はあいつの代わりに、コハルがいるだろぉ?アハハハハッ!」
アリーは唖然として口をつぐむ――もはや、怒りすら湧いてこない。
サイモンお得意の皮肉と嫌がらせだが、さすがにこれは度を越している。オットーは今までは無視していたが、今回は見過ごせなかった。
「おい、そんな言い方ないだろ……!キャサリンはキャサリンだし、コハルはコハルだ……。誰かが代わりになれるからって、どうでもいい存在なんかじゃない。」
「あぁ……?ブハッ、何だお前喋れたのかよ……そうかぁ、やっぱりお前もドールたんが大好きなんだねぇ。感情移入なんかしちゃってさぁ、お前ら全員ほんっとに馬鹿だよなぁ!」
「何だとお前!」
「どういう意味だよ!」
周りから怒気を帯びた声が飛んでくる。
「だってそうだろ!?代わりができるなら価値が無いに決まってんだろ!なぁにが個人の尊厳だよっ、SIRIESのきれいごとじゃねえか!そんなこと言ったら俺たちデブリはどうなんだよ、なあ?交換可能なただの道具!それに価値なんてあると思ってねえよな……?だったらドールも一緒だよ!ただみんなのお楽しみのために都合がいいから、替えが効かないからもてはやされてるだけ!固有の価値が無くなったらそれまでだろ!」
「そ、そんなことない!ドールは一人一人みんな違うよ!か、髪の色とか、キャラ属性とか、そう言う表面的なことしか見てない、君みたいな審美眼のない人には?わかんないのかもしれないけどさ。実際あるドールの個性を完全に再現するなんて、どんな熟練の訓練者でも――」「――だーかーらっ!」
フレッドが早口でまくし立てるのを、サイモンはさえぎった。
「それはお前が『好き』だからだろ!?お前にとってはその『違い』に需要があるってだけ!お前が全然知りもしないドールがどっかで処分されてても、別に悲しまないだろぉ?」
「っ……………………。」
その言葉に「NO」と返せないのは、その場にいる全員が同じだった。沈黙に乗じて、何人かがサイモンに同意し始める。
「そうだよ。別にいいじゃん、ドールに同情なんてしなくてもさ。」
「俺たちデブリは美少女でもないし、社会的地位もない……でもドールにはそれがあるんだから、可哀想なんかじゃないだろ!」
「自分磨きを頑張らないと落ちこぼれるってだけだしな……。」
「そうだよ、ほんのちょっとの代償って言うか、有名税だよ……ついでにアレもコレも晒し者にされるってだけでさ、アハハ……。」
誰も、敢えて言い返そうとはしない。
何だよ、お前らはドールが「好き」なんじゃないのか……!?
オットーはこぶしを握り締めた。
彼らも結局、現行のシステムが提供するドール文化を愛しているに過ぎないのだ。自分たちを惨めにしているのはSIRIESだ。しかし、そのSIRIESが与えてくれる餌への依存はやめられない。だからドールを憎むこともできず、かと言って憐れむこともない――
「ふざけんなよっ!どいつもこいつも…………!『自分はどうでもいいからドールのこともどうでもいい』っていうのかよ……!?『誰にでも価値がある』って思うんじゃ、いけないのかよ!?」
サイモンを中心に、失笑が広がっていく。だが、オットーは止まらない。
「そんな綺麗事、馬鹿馬鹿しいって思ってるか!?違うだろ、お前らが意気地なしなだけだ!自分に失望するのが怖いから?だからどうでもいいってふりするのか!?それでまた、画面の向こうのドールに逃げるのかよ……!?」
「——おい。その辺にしとけ。」
オットーの肩をエリックがつかんだ。
「でも、エリック…………!」
「おいおい、もっと言わせてやれよ……せっかく面白くなりそうなんだから。」
サイモンが両手を広げて肩をすくめる。
「俺はそもそもドールが大嫌いなんだよ……お前も知ってるだろ?聞くに堪えねぇんだわ……ぶん殴りたくなる。」
「おー怖い怖い……。」
「――オットー、これ以上はまずい。話はあとでしよう。」
エリックがオットーの耳元でささやく。
「っ……………………。」
オットーはしぶしぶ黙り込んだ。
周りのデブリたちが、オットーから白い目をそらして歩き始める。オットーもその波に流されるように、エリックの後を追うことにした。




