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8-1 最高のショー

 孵化・条件付けセンター、孵化管理部門第一エリア二階。


 近隣の部門に所属する職員たちが全員集結し、一様にスクリーンに見入っている。


『この歌を……私の、大切な人に捧げます。』


 ステージ上のスイレンがそう言うと共に、デブリたちから歓声が沸き上がる。コハルのことだ、とだれもがわかっているのだ。

 選曲は、旧世界で一時期はやったアニメの挿入歌で、劇中の女性キャラクター同士のカップルの絆を歌っている。

 オットーたちは知る由もないが、古典マニアの有料会員視聴者の中には、知っている者も多い。この歌はコハルに向けた密かなメッセージでもありながら、彼らに対するファンサービスでもあるのだ。


 スイレン…………本当に大丈夫なのかな。


 オットーは素直に楽しめずにいた。配信では巧妙に誤魔化されているが、最近スイレンの様子がおかしいということは、教育部門では知れ渡った話だった。

 ドールの感情の調整がうまく行っていないときの、調子っぱずれな言動や、表情筋のわずかな痙攣――経験のある職員は、そうした微妙なサインを見逃さない。


 それに、先日のキャサリンの件もある。先日調査委員会で再び槍玉に挙げられていたのは、やはり今のドールたちは薬物の投与量が多すぎるのではないか、と言うことだった――最悪、誰かがまた暴走と言うことも有り得る。


 研究部門が強く訴えたのにもかかわらず、SIRIES管理委員会の最高顧問は沈黙を貫いた。

 それもそうだろう。あくまで顧客のニーズが第一だ……ドールの文化産業が止まったら、一般市民の不満が爆発するだろうし、最悪経済が破綻する。


 だが、特にライデンシャフト寮の2年生以上は、一年前の記憶を封印するために余計に投薬量が増やされているのだ。

 オットーはもちろん、それほど積極的でないにせよ、スイレンとコハルの関係がうまく行けばいい、と思っている。……だが、スイレンをこのまま運用することが安全だとは思えなかった。


 だって、スイレンはあの事件で……………………。




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