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7-5 馬鹿なんかじゃない

 一週間後――文化祭一日目、当日。


 昼間のクラスでの出し物は、滞りなく進んだ。コハルのクラスは、カミラの厳格な指導のためサービスが丁寧で、そのぶん来客数も多かった。

 視聴者ロボットの来客も多かったのは、コハルとキャサリンの人気のせいもあるだろう。


 ……だが当のキャサリンはいつも通り笑いながらも、かなり不機嫌だった。特に、丈が短いスカートが苛立たしくてしょうがない。

 今までそんなことは一度もなかったのに――むしろ好みの服装だったはずなのに。同級生の視線も、群がってくるロボットたちも気持ち悪く感じられる。


 鬱陶しい。目立ちたくない。誰にも、見られたくない…………恥ずかしい。


 キャサリンは一週間前から、ダンスの練習で思い知っていた――自分は、恥さらしだ、と。


 明るく元気で、開放的――そんなのは嘘だ。ひとたび失敗すれば、みんなに笑われる役回りに転落する。ただの目立ちだがリ屋の、下品な道化役なのだ…………。


 あれから練習を重ねて、ヘレンとぶつかることはほとんどなくなっていた。だがそれでも、不安でしょうがない。


 今まで通り、俺様で明るくて自信過剰なキャサリンを守らなくては。さもないと……さもないと、自分に未来などない。


 お願いしますどうかどうかどうか、これ以上失敗しませんように。


 失敗しませんように、失敗しませんように、失敗しませんように、失敗――


**************************************



 ――キャサリンは、失敗した。


 一曲目も、二曲目も――緊張のあまり動悸が止まなかったが、今まで苦手だったパートはすべて問題なく通り過ぎた。

 だがそのせいで、つい気が大きくなっていた……最後の最後で、今まで一度もしなかった箇所でミスをした。


 ほんの少しの、ステップの踏み間違いだった――そのまま、焦ってどんどん動きがずれていく。

 そして、とどめを刺すかのように――またしても、ヘレンとぶつかった。


 あっ……………………。


 ステージに倒れ込み、頭の中が真っ白になる。


 その間に別のメンバーがキャサリンに躓き、ドミノ倒しのようにフォーメーションが崩れていく。


 数秒後――ステージは混乱し、誰も続行できなくなっていた。


 もしキャサリンがすぐに立ち上がっていれば、復帰できたのかもしれない。

 だが、彼女は動かなかった――動けなかった。


 失敗にうまく対処できず、更に失敗が重なる、どんどん悪くなって、状況は絶望的になる——この時の彼女の中には、そう言うイメージしかなかったからだ。だから、その通りになってしまった。

 

 失敗した――失敗した失敗した失敗した失敗した!!!


 音楽は鳴り続けるが、ステージ上は完全に沈黙する。


 観客も沈黙する。


 キャサリンは、顔を上げられない――だが、無数の視線が、自分に降り注がれていることはわかる。


 やめて…………お願いだから、見ないで…………!


 音楽が止み、緊急で一度退場するよう指示が放送される。


 だが、キャサリンには聞こえていない。


「……キャサリンさん、早く動いてください……。」


 ヘレンが呼び掛けて肩をゆするが、キャサリンの反応は鈍い。ヘレンの声など、聴きたくもなかった。


 だがその直後、ヘレンはキャサリンの耳元でささやく――周りには気づかれないくらい、小さな声で。


「チッ……これ以上足引っ張んないでくれる?」、と。




「…………………………………………!!!!!!」


 ああ、これもう、駄目だ。


 もう、全部壊れるしかないんだ——



 ――――キャサリンはとつぜん起き上がり、ヘレンの顔面を殴りつけた。


「――ふざけんじゃねえ!お前何様だよ!いつも人の足引っ張ってんのはお前だろうが!大体ぶつかったのもお前だろ!謝れよ!なにしれっと空気に合わせてアタシだけが失敗した事にしようとしてんだよ!」


 キャサリンはヘレンを押し倒し、馬乗りになって首を絞める。


「ていうか大体、いつもアタシがお前の面倒見てやってんじゃねえか!何様だよこの恩知らずが!」


「っ…………何言ってるんですか……失敗したあなたが悪いんでしょ…………!」


 ヘレンは息を詰まらせながらも、ヘラヘラと笑って挑発する。

 利口な反応ではないとわかっていたが、せっかくキャサリンが本性を晒したのだ。この機会に、反撃してやらずにはいられなかった。


「失敗してるのはお前の方だっての!いつもお前がそうやって馬鹿で愚図で恥ずかしい奴だから,アタシがいつもそばにいてケツ拭いて慰めて,自信無くさないようにしてやってんじゃねぇか!?」


「~~~~っ!!!ふざっ、けんな…………!」


 ヘレンはキャサリンの顔を思いっきりひっかいた。


「っ!!」


 キャサリンが思わず顔を手で庇ったところを、肩を突き飛ばして起き上がる。


「私は!馬鹿なんかじゃ、ない!ドジとか失敗とか……そんなの好きでやってるんじゃないし!それぐらいわかるでしょ!あなたにいつもそうやって偉そうに庇われるのだって、ずっと嫌だったんだからっ――!」


 いつの間にか駆けつけていたP達が、お互いに飛びかかろうとする二人を押さえつけ、鎮静剤を注射する。二人とも、「暴走」のリスクが高かった。




 ――もはや、誰も沈黙していなかった。


 数分前まで歓声に満ち溢れていた文化祭は、今や悲鳴と怒号で覆い尽くされている。配信は既に停止され、キャサリンとヘレンの声もさほど収音されていなかった――だが、コメント爛は既に大荒れだった。




 その日のステージ配信を担当していた監視員たちは全員、後に弾劾委員会に呼び出されることになる――


 フェーゲライン愛嬢希望学園史上、二番目に最悪の放送事故だった。


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