7-1 ウスノロマ
フェーゲライン愛嬢希望学園の文化祭まで、あと数週間――
1日目の午後は、団体でのステージパフォーマンスが行われる。キャサリンも例のごとく積極的に、友人たちとダンスパフォーマンスでエントリーしていた。
……とは言っても、キャサリンはことさらダンスに自信があるという訳ではない。初等教育教室で最低限習った程度だ。
彼女の役回り的に、参加しない選択肢はなかったのだが、思っていたより難易度の高い選曲が多い。それでも、何とかなるだろうと思っていた。
……ただ、問題がひとつ。
「っ!」「うわぁっ!?あ痛たたっ……!」
「はい、いったん中断!大丈夫、二人とも!?」
「お前、またかよおいっ……!」
キャサリンは自分と同じく床に転がっているヘレンを見てため息をつく。
「ふえぇ……ごめんなさい…………ダンスは得意だと思ってたんですけど……。」
「ったくしょうがねぇなぁ……泣くなっておい~、頑張ればなんとかなるって!何度でも付き合ってやるからさぁ!」
涙目になるヘレンの背中を叩きながら、キャサリンは心の中で舌打ちする。
今更ポジション変えてとか言えねーしな……クソッ、なんでよりによってこいつなんだよ……。
1か月近く練習を続けているにもかかわらず、その間ヘレンは、何度となくキャサリンにぶつかり続けている。キャサリンのストレスは最高潮に達しているが、本人は自覚しないように努めている。
頭が鈍くて、ぶりっ子で、ウスノロマ――倒れる際にいちいち下着をさらすポーズがキャサリンをますますイラつかせる。
それでもキャサリンは、ヘレンの保護者役でなければならない。
クソッ、落ち着け。どうしたんだよおい。アタシは、みんなのことが大好きなんだろ……!
そう私はヘレンのことが好き私はヘレンのことが好き私はヘレンのことが好き私はヘレンのことが好き私はヘレンのことが好き私はヘレンのことが好き…………私、アタシ、は…………。
自分が何に怒っているのか、決して考えてはならない。ただひたすら、リズムに合わせて体を動かし続ける――だが、それすらもそもそも不愉快なのだった。
そのことにも気づいてはいけない。キャサリンはいつでもやりたいことしかやらないのだから。
ていうかなんで最近、こんなにイラつくんだ……!?ちゃんと薬飲んでるのに……。
と言うよりむしろ、ここ半年で処方される薬の量は倍増していた。それは半数以上の生徒たちに当てはまることだった。
感情の調整、抑圧、気分の高揚――マンネリ化を防ぎ、視聴者の期待に応えるため、「物語」は複雑化し、演出の調整はますます細分化されてきていた。
「っ~~~~!ああぁッ!またかよクソッ――!」
ようやく一曲通してうまく行きそうだった所に、最後のサビでまたしてもヘレンと動線が交差した。
「あっ…………ご、ごめん、なさい……………………。」
ヘレンの怯えた目を見て、キャサリンはようやく自分が悪態をついていたことに気づく。
周りのドールたちがみんな、ぎょっとした顔でキャサリンを見ていた。




