6-3 資料館
資料館――旧世界で言うところの、図書館のようなもの。古今東西のありとあらゆる情報が保存されている場所だ。
その中には、一部の人間しか閲覧できず、貸出禁止の「禁書」も含まれる。
来訪者は円環状の廊下から、ガラスを通して中央の巨大コンピューターを見ることができる。巨大なケーブルが生き物の様に四方八方に伸びており、それぞれ分類ごとの閲覧室に資料を転送している。
オットーはIDカードを使い、「ドール」に関する閲覧室に入る。オフィスのように向かい合わせになった席が、縦に列をなして並んでいる。ほとんどの列に人がおらず、閑散としていた。
オットーは席に着いて検索システムを起動し、「ライデンシャフトの悲劇」と検索した。この程度のことは既に他の上級職員たちが調べているだろうが、これは実のところ、調査のための来訪ではなかった。あくまで、オットー自身の好奇心。
ホログラムに映った検索結果の一番上に、当時の中央部門における報告書があった。
ざっと目を通してみた結果……これと言って奇抜な情報はなかった。オットーが気になっていた、肝心の「該当ドールの暴走」がどのようなものだったかについて、具体的なことが一切書かれていない――公式の報告文書にしては、おかしい。
やっぱり上層部か、さもなきゃ、SIRIESの委員会が隠してるのか…………。
だが、それがわからなくては調査は進まない。そのため、研究部門の人員が業を煮やしていると聞いた。
オットーは仕方なく、今度は「ドール 欠陥」と調べてみた。……欠陥品の廃棄手続きについての情報はあったが、「ライデンシャフトの悲劇」に類する欠陥のケースは見当たらない。
続いて恐る恐る、「ドール 技術」と調べてみた——数千もの学術的な文書がヒットした。あまり、こういうことを下級職員が嗅ぎまわるべきではないのだが……。
…………駄目だ、どれもこれも全然わかんないし……。
それにみたところ、ドールの「孵化」過程のことしか書かれておらず、肝心のドールの起原のことがわからない。「SIRIES」で検索しても似たようなものだった。
「ドールとは何か」「ドールはどうやって発明したのか」――いずれも、歴史的背景の説明しか出てこなかった。
こういうことばかり調べていると、上層部に危険視されるかもしれない。検索履歴がいつチェックされているのか、わからないのだ。
この辺にしておこう――と思ったその時、
「――おい、お前。」と、後ろから声がかかった。
オットーがぎょっとして振り返ると、そこには浅黒い肌の、ドレッドヘアーの少年が立っていた。確か、オットーと同じ教育部門の……そう、エリックだ。
「お前、名前オットーだっけ?」
エリックはぶっきらぼうに尋ねる。
「あ、うん…………。」
「そうか……お前、ドールが何なのか気になってるのか?」
エリックは読めない表情で言う。
どうする?下手な答えを返したら、副部門長に報告されるかもしれない……。
オットーは警戒しながら、
「……いや、俺いま、一年前の、例の事件の調査委員会に入ってて、それで原因を調べなきゃいけないから……その、基本的な知識だけでも、つけておこうって思ってさ。」
「…………基本的、だと?『ドールがどうやって発明されたか』なんて、知る必要あるか?研究部門の連中だって詳しくはわかってねえらしいしな。」
エリックは目を細める。
「――それとも何か、個人的に興味でもあるのか?」
「っ…………!」
「お前、前から見てて思ってたんだけど……もしかして、今のこの世界自体に疑問があるんじゃないか?ドールを中心に回ってる、この世界に――」
エリックは顔を寄せながら、直球で切り込んできた。
マズイマズイマズイ…………!
「……ち、ちがっ、俺はっ、別に…………!」
オットーは声にも顔にも、完全に動揺が出てしまっている――だが、それに対するエリックの反応は、意外なものだった。
「……やっぱりな…………じゃあちょっとお前、ついて来い。」
「…………え?」
「安心しろ。チクったりしねえから……ちょっと向こうで話すだけだ。ついでに、『ライデンシャフトの悲劇』のこと調べてるなら、いい奴らに会えるしな。」
「いい奴ら、って…………?」
エリックはようやく、仏頂面を崩して微笑む。
「――あの事件の『関係者』だよ。」




