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6-1 お前はなんだ?

 孵化・条件付けセンター、教育部門第三エリア。オットーは担当のドールの「乙女の時間」を監督していた。


『おいで、――ちゃん。大丈夫よ、優しくしてあげるから……。』


 ARホログラムで姿を変えた愛着元型マザーロボットが、幼女の上衣の中をまさぐる。こうやって容姿や言葉遣い、性格など、ある程度将来のパートナーの「傾向」を刷り込んでおくのだ。


 オットーは相手の反応を見ながら、少しずつロボットの台詞を変え、行為を進行させていく。


 ひるむ仕草、あえぎ声のトーン、細かい台詞――反応が少しでも規格に合わなければロボットは不機嫌そうになり、それらの行動を消去する。

 オットーはこの業務を始めて2年になるが、一番面倒かつ、気が進まない仕事だった。


 男性型のロボット相手の方が楽だが、ロボットの視界で組み伏せられている少女を見るのは、罪悪感を感じやすい。最近は同性愛型のドールの需要が高まっているので、以前ほど男性への「サービス精神」を植え込む必要もなく、多少気が楽になった。


 そうは言ってもやはり、10才児に成人のドールが性的に興奮するように振る舞わせること自体非効率的だ。

……だが、芸術に必要なのはリアルよりもリアリティ、である。

今の内から一挙手一投足まで訓練しておかなければいけない。同性愛型であるならばむしろ、三人称視点から見た完成度が求められるのだ。


 ……大体、全ての強化履歴や内面の事情を統制するなんて無理に決まってるじゃないか……。まして、ランダム性を重視する環境に放り込むんだからさ……。


 オットーは調査委員会の報告を思い出しながら憂鬱になる。


 『ある一定の条件下で感情が極端に高ぶると、ドールは暴走する――』。


 研究員は『誰の失敗でもない』、とは言っていたものの、やはり間接的に暴走を起こしやすくする「ある条件」は存在するのだ。それはドールの性格でもあり得るし、特定の行動の訓練でもあり得るし、薬のせいでもあり得る……もちろん、その全てと言うことも。


 事件当時の状況的に一番怪しいのは、やはりこの性愛に関わる心理パターンだろう。何とかしてできるだけ()()()理想の恋をさせるために、中途半端に複数の技術を組み合わせ、無理やり道のりを踏み均す。

行動を感情を身体を愛着パターンを――ただひたすら、ツギハギが見えなくなるまで細かく塗り固める。


 その結果、むしろ当のドールの内心は完全にブラックボックスになる。

 そしてある時、誰にも知られず密かに、全てが破綻する――


 俺にはわからないよ……君たちは何を考えているんだ?ていうかそもそも本当に、俺たち人間みたいに、感情や思考を持っているのか……?


 ……いや、あるいは本人さえも気づかない内に、無意識に破壊衝動が溜め込まれているのだろうか。


 そうは言っても単純に、心の表と裏などと言う話でもないのだろう。そう言うものも含めて、あらゆる面で設計されているはずだったのだから――


『はい、よくできました。……良い子ね、大好きよ。』


「…………セッション終了。」


 オットーはそそくさとロボットを退室させ、カメラの画面を落としていく。

 この後の夕食もまた、食が進まなそうだった。


 最後の一つのカメラに、紫色の髪を振り乱し、あられもない姿で横たわる少女の横顔が映る――確かにそれは、生命力を感じる肉の塊だった。


 オットーはその無様さが、むしろ人間らしさを担保しているように思ってしまう。


 ドールも人間《自分たち》のように醜くあって欲しい。そうすれば安堵できる。この劣等感が少しは埋め合わせられる――


 っ……!何を考えてるんだ、俺は…………!


 オットーは頭に浮かんだ自分の考えを嫌悪した。


 だがその一方で、彼女の顔面に埋め込まれているのは、紫紺の宝石のように透き通った、二つの眼球――あまりにも美しく、あまりにも無機質。


 やはり、人間とは、違う。


 …………オットーの中での、最大の疑問。


 なあ、ドール(おまえたち)って、いったい何なんだよ……?


 紫紺の瞳は何も答えないまま、映像は途切れた。

この後、第2章と第3章の間に「これまでのあらすじと登場人物紹介」を挿入します。登場人物も多いことですし、何を覚えておけばいいのかわからない方も多いかと思うので、参考にしてください。

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