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原因調査(2)

「あの事件は、誰のミスのせいでもなかった」――


「どういうことだ?」


「意味が分からんぞ!」


「すまないが、データではまどろっこしい。ひとまず結論を簡潔に示してもらえないかね?」



「結論は――」


 研究員は少し考えてから、答えを述べた。


「結論を簡潔に申し上げると、No.2523の変異は遺伝子や組織の損傷ではなく、むしろドールの生来的な機能であるということです。」


 生来的な、機能…………?


 研究員は続けて、自分たちが実施した実験について詳細に解説を行った。

 オットーは生化学的な知識はほとんど持っていない。……だがそれにしても、その結論が突飛なものであることは明らかだった。

 この場にいるほぼ全員も同じように考えているらしく、困惑して黙り込んだ。だが一部の重役たちは、なぜかはっとした顔をしている。


「——以上の実験結果が示唆することは、ドールはある特定の条件の下では、感情パターン訓練の結果引き起こされる極端な感情の高ぶりにより、同様の変異を起こす可能性を有するということです。」


 再び会議室がざわめく。それが意味することはつまり――現状運用されている全てのドールが、同じような変異を起こしうるということではないか。


 あの愛らしく美しいドール達が。人間の文化性を凝縮した、人間よりも人間らしいと言われるドールたちが——


 感情の高ぶりにより変異し、他個体を虐殺する――それが、「生来的な機能」だと?


 人間が人間のために、人間の女性を模して緻密に設計したドールたちが……なぜそんなものを?


 ドールって一体、なんなんだ……?


 オットーもとうぜん混乱していたが、同席している同僚たちは、もっとショックを受けているだろう。彼らはドールを崇拝しているのだから。

 だがアルフォンソは、さっきから何を聞いているのかわからない、と言う顔できょとんとしている。……きっと彼は、ドールを貶める不都合な事実は、耳に入って来ないのだろう。


 事件直後の対応に関しては、当然ジオフロンティアも大混乱に陥っていた。


 何が原因なのか、誰に責任があるのか、いやそもそも何が起きたのかすら誰もわかっていなかったのだ。半ば奴当たりや見せしめとして多くの人員が解雇され、酷い時は「廃棄」もされた。

 当時もう既に、部門長たちは既得権益層の二世にすぎず、顎でデブリたちを使う無能ばかりだった。その代わりに副部門長や秘書の薔薇の子(アドン)達が各現場を牛耳り、独断的かつ強引な処理が横行した。


 そしてその結果のうち、最近明らかになった最大の問題が――


「――いずれにせよ、誠に申し訳ありませんが、我々は当該の個体に起きた事については、実験と理論から推測するしかない訳であります。……なぜならご存じの通り、あのドールは事件直後、廃棄されてしまったからです。」


 その場にいる全員の視線が、円卓の端に座るアルフォンソに向かう。


「そもそも今回、われわれがこの場所に参上したのも、廃棄過程に関する調査のためです。――廃棄部門長。この際率直にお答えいただきたいと思います。一体なぜ、あの個体を処分してしまったのですか?」


「しょ、ぶん…………?」


 アルフォンソは言葉の意味が分からないらしい。


 ――ダメだこいつ、とその場にいる全員が思った。


「部門長、代わりにわたくしがお答えします。」


 またしても代わりに、副部門長の薔薇の子(アドン)が前に出てはきはきと話し始める。

 曰く、事件当時、当該個体及び事件で犠牲となった個体たちの死骸は学園から輸送用のハイパーライン(高速移動トンネル)に載せられ、一直線に廃棄部門に送られてきた。

 廃棄部門は特に何の通告も受けていなかったので、通常通りラインを稼働させていた。なので送られてきたモノは他の素材と同じように自動的にパッケージに詰められ、天使の箱に飲み込まれていった――


「——な、何を言うんですか!?確かに私たちは学園側に、直ちに死骸をサルベージし、こちらのセンターの中央本部に送るよう通告したんですよ!?」


 研究員は怒声を上げながら立ち上がる。


「誠に申し訳ありませんが、その件については我々廃棄部門は一切関知しておりません。おそらく学園側の情報系統・指揮系統の乱れにより、その情報はどこかでロストしたものと思われます。」


 研究員達はそれを聞いて、すさまじい顔で「学園側」の職員たち――すなわち監視員たちを睨みつける。


「監視員諸君、それは事実なのかね?一体誰の元で情報が止まっていたのか、わかっているのかね?」


 重役の一人が低い声でゆっくりと問う。


 当時、ライデンシャフト及び当該個体周辺の人間関係を管轄していたガブリイルが、矢面に立たされることになった。


「わ、我々監視員のログにも、そのような伝令を受けた記録は一切ございません。し、したがって、その……どこで情報が止まっていたかも、不明、と言うことになります……恐らく、当時の監督者のみが確かめることができるものと思われますが――」


「その監督者はこの場にいないのかね!?」


「っ……副部門長は、本日は多忙のため、欠席ということで…………。」


 ガブリイルは全身に嫌な汗をかきながら、歯切れ悪く答える。

 この場にいる他職種の者たち全員が、これまでの会話で溜まったストレスの全てを、ガブリエルへの視線に込めているようだった。

 監視員達のせいではないのだが、原因に最も近い所にいる以上、怒りを向けやすくなるのも当然だった。


 ブォエン、あの野郎…………!何で僕が身代わりにならなきゃいけないんだよ……!


「はぁ……仕方あるまい。だがいずれ責任の所在は是非とも明らかにしてもらわねばならんな!監視員諸君、その副部門長とやらに、この新たな事実についての再調査と報告を求めておけ!」


「は、はい……。」


 なんとか、助かった…………。


 ガブリイルは席に着くとともに、全身から力が抜けていくのを感じた。

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