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監視員《オブザーバー》(2)

ブォエン――ドール総合文化センター第4支部副センター長。新人類の第一世代らしく、その秀でた美貌と青みがかかった美しい黒髪が特徴的だ。年齢は不明。常にポーカーフェイスで、優しく慇懃な話し方を崩さない。

 何もかもが、この上なく好青年と言った印象を与える。……だがガブリイルを含め多くの職員は、彼のことを快くは思っていない。

 彼が慇懃無礼にして、無理な注文ばかりを課してくるということもあるが、それ以前に、彼が薔薇の子(アドン)であることが大きな理由だ。


 薔薇の子(アドン)と呼ばれる美少年たち――上層部たちの中に一定数存在する同性愛者・小児性愛者の寵愛を利用して成り上がった者たちだ。

 まるでドールのように美しく、個性的で、特別に愛される存在――「名誉ドール」とでもいうべきか。ジオフロンティア中のあらゆる施設で、ここ最近権力を増している連中だ。


 こんな薄汚い奴が、僕たちの「上」だなんて……!


 ガブリイルはいつもその美しい顔を見るたびに、反吐が出るほどの敵意を感じていた。彼らはガブリイルたちが努力して狙っている地位を、卑怯な方法でやすやすと手に入れたのだ。それ故多くの職員たちに妬まれ、影で蔑まれている。

 ……ガブリイル自身も、比較的童顔でハンサムな方だ。だが、同じ方法を使うことは死んでもしたくない。


 今に見てろよ、いつか実力で蹴落としてやる……!


 副部門長への道は遠い。だがガブリイルは、就職からわずか一年で班長になった才のだ。不可能な夢ではないと自負している。


「……ガブリイル。そう言えば、ライデンシャフトの生徒たちの様子はどうですか?」


「……今のところ、特に問題ありません。ただ、以前も申し上げたように、今の投薬量ですと、未知の副作用が現れる可能性があります。」


「ええ、ですからあなた方には、それが起こらないようにしていただきたいのです。あなた達のような優秀な監視員なら、大丈夫だと信じていますよ。……特にあなたの観察力と連携力は素晴らしい。――だからこそ、あなたにスイレンを任せたのですよ。」


 ブォエンはにこりと微笑む。


「……お褒めに与り光栄です。しかし、誤解を恐れずに申し上げれば、投薬に関する詳細な問題は、むしろ生体管理部門に大きな責任があるかと。未知のリスクについては、そちらに再度お聞きいただきたく存じます。」


 そう言いながらもガブリエルは、心の中で歯軋りをしていた。

 ブォエンの言っていることは要するに、このリスクの高い無茶ぶりの責任は、全てガブリイルたちに負わされる、と言うことだった。


 ふざけんなよ!そもそもお前の指示だろうが!


 一年前に起きたとある事件のために、当時多くの監視員が責任を負って解雇させられた。その事件の発端もそもそも、ブォエンのミスだったのではないかと言う噂がある。だがそれだけではなく、彼はとつぜん事後処理の指揮権を握り、監視員たちを含め更なる混乱に陥れた。

 部門長は彼に絶大な信頼を置いており、彼がミスなどするはずはないと盲信している。そのため何があったとしても末端が責任を取ることになり、彼自身の立場は無傷でいられるという訳だ。

 もっとも、ガブリイルを班長に昇格させたのもブォエンなので、文句は言えない。 


 ガブリイルの成果は、事件当時に命令を従順に遂行し事態を収束させたこと、それに加えて——


「ええ、その点は心配しないでください。生体管理部門は新しい処方箋のリスクは最小限に抑えたことを確認済みだそうです。例の件も『問題はない』とのことで、快く承諾してくれましたよ。」


「えっ…………。そう、ですか……。」


 何考えてんだあいつら……本当に大丈夫なのか!?


 だが、ブォエンがそう言っている以上、ガブリイルはもはや抵抗することはできない。


 もしこれで、何かあったら…………確実に自分は解雇される。いや、解雇で済むのか?

 確かにスイレンは今期一番の()()であり、ショーの中心であり続けてもらわねばならない。

 だが、ここまで無理をして取り繕った結果、かえってリスクを高めているではないか……もう上層部も、後には引けないということか。


「スイレンとコハルの距離がだいぶ縮まってきていますからね……よろしくお願いしますよ。スイレンがこれからもみんなの――そして、あなた達7班の星であり続けるためにも。」


「はい…………。」


 如何にも他人事と言った調子で言うブォエンに対し、ガブリイルはしぶしぶ首肯した。


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