4.第一異世界人とご対面……!?
——ふむ。
ここは旅館という宿らしい。そして、私は客として泊まっている。
異世界の文明はかなり発展していて、スマートフォンというものがあるそうだ。それが私の手元にある。遠くにいても話ができる、写真というのが撮れ、遊ぶことも出来るらしい。手で触れて、なんとなく理解出来た。我ながら順応が早いが、順応しないと戻るまでの間に死んでしまう。……魔物はいないようだが。あとは慣れたほうが早そうだ。
とりあえず、現地人と交流した方がよさそうだ。言語スキルを試用し、確認しないといけない。
自分の部屋のドアを開けようとしたが、おかしい。開かない。閉じ込めら……、いや待て、構造を見た方が良いか。
そこまでせっかちでもない性格でよかった。溝がドアの横にあるということは…ドアはスライドすることで開いた。一安心し、廊下へと出る。人は、いないな。隣の人にでも話しかけてみるか。隣のドアを叩いてみる。
「はーい」
良かった、不在ではないようだ。
「はい、お待たせしました!」
「すまない、と」
「探偵先生ですね!どうぞどうぞ部屋の中に!」
「あ、いや、と」
「大丈夫です、わかってます、お金ならちゃんと振り込むので!」
「ちが」
「まぁまぁまぁ、取材しながらゆっくり、そう、ゆっくーり話しましょう!」
話す隙が無い。困った……。
入ってから人違いと言おう。相手も自分で入れた手前、私を不審者のように扱いはしないだろう。
「失礼。」
「ちょうどよかった、さっきお茶を入れたところなんです。
ティーバッグの緑茶なんですけどね、これがすごく美味しくて、探偵先生にもぜひご賞味頂きたいですね。」
話しかけられている間、相手を観察する。
黒髪を真ん中で分けている同年代くらいの男性だ。
服も、私の荷物にあったものと似ている。
「あ、失礼しました、ご挨拶が遅れましたね。改めて、波木幸一です。」
「ああ、いやこちらも失敬、私は騎士ウィリアムだ。」
……いつもの癖で騎士とつけてしまった。どう言い訳をするかと考えていると相手はぱぁっと顔が明るくなる。
「探偵先生は外国の方なんですね、日本語がお上手ですね。編集が話をつけた方なのでこちらの情報が少なくて、時間も有限なので事件の話や探偵先生が解決の際にどのようなことを意識しているかなどお聞きしたいですね。
ああ、でもペンがない……すみません、少しお待ちください。」
相手方が勘違いしたおかげで、言い訳を述べなくてよくなった。嘘は苦手なのでうつむいてからホッと息をついた。
こちらも本題に移ろう探偵先生ではないと伝えなくては、と前を向いた時には別室へ向かってしまっていた。
その際に服の袖が黒く汚れているのが見えた。
あたりを見回してみたが汚れさせるものが緑色の飲み物しかない。
別室にてなにかしているのだろうか。
そういえば取材だと言っていたな。本来なら私ではなく探偵先生とやらが来るはずだった、そして事件とか言っていた。記者か作家のどちらかか。納得がいった。ならば別室にインクでもあるのだろう。一人で納得している間に波木が戻ってくる。
すみませんという彼の手には、見慣れないペンのような物が握られている。インクがないが、忘れたのだろうか。
「インクがないようですが。」
「え、ボールペンなので。」
つい気になり、彼に問いかける。
ボールペン……異世界の専用道具なのか、俺の問いかけに彼の顔は疑問でいっぱいになっている。
「……君の服の袖にインクがついていたから、別途インクを使用しているかと思ってしまった。失礼した。」
「…………」
自分の袖の汚れと私の顔を交互に見て、しまいには俯いてしまった。
波木の反応が気になるが、今伝えてもいいだろうか。
「話が変わるが、人ち」
「さすが、さすがです。」
波木の様子がおかしくなってきた、私が伝えようとすると同時に言葉を被せ、なにも面白いことはないのに、俯いたまま肩を震わせ、ふふふと笑い始めた。
「私が作家だという事前情報があったにしても、私がこの便利な時代に古風を演出するためにインクを使って、わざわざ原稿用紙に書いていると推理したことを遠回しに伝えてくるなんて……ふふ、ふふふ…………
探偵先生……ミステリー作家になれると思いますよ………ふふ…ふふふ…うら゙や゙ま゙しぃぃぃ……!!!!!!」
「え、いや。」
「天は二物を与えずなのに……こんな顔が良いお方に……、俺はこんな平凡なのに……とことん不評なのに…かなし、悲しい…むなしい……。」
異世界生活初歩で選択を間違えたことを確信した、おかしい人間だ、関わっちゃいけない。
脳の危険信号とは裏腹に、目の前でハンカチを噛みしめ、おいおいと泣き始めた波木に話しかける。
「あの、私は探偵先生ではなく…。」
「いえ、謙遜なんてしないでください、より惨めに、うっ、ううぅ…に、なるので……。」
今度はボロボロと泣き始めた、背中をさすり、落ち着かせようとするが背中がだんだん丸まり、床に伏せる形になった。
不安を超えて、逆に心配になってきた。
「くそぅ、顔が良くて、推理も出来て、目の前で奇行に走る相手にも優しくできる…逆になにが出来ないんだ……。」
伏せたまま、ぶつぶつとなにかを言い始めた。
若干聞こえはしてる、褒めてくれるのは良いが、自身の奇行を認識は出来ているのだな…。
こちらが困っているのを察したのか、奇行を止めることが出来たのか、波木は伏せた状態から座り直す。
「すみません、最近上手くいってなくて…、感想サイト見ててもミステリーは抜けとかほざいてくる輩がいて……確かにトリックとかないミステリー風になってる自覚はあるんですよ、でもでも作者の自由じゃないですか、もし俺の作品が問題として作者の気持ちを答えなさいとか出てきたら、俺の好きにさせろしか出てこないくらいでぇ……。」
しょぼくれた犬のような顔で話し始める、半分程度は異世界用語で言われたため理解出来なかった。
がしかし、批評に精神をやられているということは理解出来た。
「どのような作品を書いているか存じ得ないが、貴公の努力は笑われるべきものではない。自分を貫き通してこそ、至高の作品が出来ると私は考える。努力はいつか報われる、その時に貴公の作品に批判をした者の鼻をへし折って、高みから見下ろせばいい。」
「……」
そう、努力は笑われるべきではない、ノアに伝えた時のように伝えると、相手はぽかんと口を開けたままこちらを見つめた。
そうして波木が一つ息を吸って、言葉を紡ごうとした瞬間、ドアがバンッと開く。




