7.アイドル、盗賊になる。一方のオタク、戦力外通知
◇7.アイドル、盗賊になる。一方のオタク、戦力外通知
「説明としてはこんな感じね。うふふ、ドキドキするわね~」
「えーっと、つまり私はコレにただ手をかざして座っていい、ってことですか?」
「そういうこと! まぁ本来は幼少期にやるものだから、複雑な手順なんか踏めないの」
奇跡的に行方不明だったジョブ鑑定の話に流れが戻った。
ジョブとは。その人が持つ生まれ持った性質、らしい。それに合わせて装備も作られているから、この間のツキシオみたいな事が起こる。
つまり、今この瞬間。ツキシオの生まれ持った性質が判明しようとしている。
俺はアイドルだと思う。
俺はアイドルだと思う。
「そうそう、そのまま……もうちょっと……はい! いいわよ、お疲れさま。じゃあ読み取ったシオンちゃんの魔力を羊皮紙に転写しちゃうわ! んーこの瞬間はいつでもドキドキね!」
「はいっ、ワクワクしますね!」
もうツキシオをちゃん付けか……このお母さんのコミュ力も大概だ。
固唾をのんで羊皮紙を見守っていると、スルスルと文字が自動で焼き付いていく。すごいな、機械化された魔術だ。
まぁなんて書いてあるのかは俺には読めないが。この世界、言葉は通じるのだが文字は読めんのだ。
「……鑑定結果、出たわね。へぇ……女の子には珍しいわね」
「なんて書いてあるんですか?! 私、文字は読めなくて」
「そういえばそうだったわね。では発表しまーす! シオンちゃんのジョブは……ドコドコドコドコ……」
「…………緊張してきた」
「じゃーん! "シーフ"でした! すごいわね、これヒーラー並みに珍しいジョブよ。相当のアジリティ(素早さ)素質が必要だもの」
「シーフ……うそっ?! やった! 盗賊だっ!」
な、なんだ……今、何が起きてるんだ……俺は何を見せられている……?
ピョンピョンしてる?! 月ケ瀬詩音が?!
「シーフ……通りで。似通ったジョブなら装備も多少互換性があるのですが、シーフでは魔術師系の装備が一切反応しないのも無理はありませんね」
「ふふふ……それではこのお宝は貰っていくわ!……あーどうしよ! かっこいい!」
どうしようはこっちです。可愛すぎてもう俺が死にそうです。なんだ今のポーズは。
そっか……一応クール担当だもんな。こういうはしゃぎ方はメディアNGだったのか。あー解脱しそう。
しかし、アイドルじゃなかったけど納得といえば納得のジョブでもある。
なんせ彼女は飛んでくる石つぶてを目で見てから全部避けた。
アジリティなんか既に振り切ってるんじゃないか?
「ねぇねぇタルトさん! やっぱり武器は短剣とかレイピアになるのかしら! やだもう、かっこいい! それに防具だって軽装よね?! だって女盗賊だもの! 可愛いのあるかな!」
「ふふ、そうですね。ただこの街には流石にシーフ装備の取り扱いは無いと思いますから、明日にでも城下の街へ行きましょう」
「うー……楽しみ! すっごい楽しみ!」
あ……そろそろ失明しそう。光が、強い。
「はいはーい、それぐらいにして次はリクトくん! はい、こっちいらっしゃーい」
あ、はい。
……失明しそうなのに視線が反らせん。
◇
これ、さっきまでツキシオが座ってた椅子か……なんか恐れ多い。
うう、若干ツキシオの体温が残っているような……やめだ、流石にキモい。
「じゃあシオンちゃんみたいに手を……そうそう。まぁ一回見てたものね。じゃあ、そのままジッとしてー……」
「おお……なんか、不思議な感覚……」
なんか……体温を吸われてる感じか? 心なしか手のひらが冷たくなっていく気がする。
そして待つこと六十秒……二分……五分。あれ?
「あの……なんか、長くないですか? ツキシオの時は二、三分で終わったような?」
「あれ? あれ? おかしいわね……でも正常に動いてるのよ。あんまりこういうことは無いのだけど……」
「あ、もしかしてリクト、なんかすごいレアなジョブだったり?!」
「うーん、私もこういう経験はあまり遭遇したことないですね……可能性はあります」
その時俺は、手、ばっかり見てたんだ。自分の手。
だからその視線をちょっと横に反らした瞬間、心臓が跳ねた。俺の手を見てたのは俺だけじゃ無かったから。
すぐ間近にあったダークブラウンの瞳。長い睫毛に彩られたそれも興味深げに俺の手を見ている。
……許されない距離じゃないのか、これは。
反射的に手を引きそうになる。神聖な神社の禁足地。しめ縄の内側。俺は今、そこにいる。
「はーい、動かなーい。それにしても長いわね……あ、やっと終わったわ」
視線が、俺の手から羊皮紙に映った。
感じていたのは……安堵、かな。ダメだなー、普通に話すどころの話ではない。
「それじゃ、転写しちゃいましょ……えーと、ほい、ほいっと」
「わ、出てきた……読めないけど」
「拝見しますね……えっと……あ、アレ? お母さん、これ……」
「んー……あーーまぁ、そういうこともあるわよねぇ」
おう、なんだ。ツキシオの視線で消耗してるのに追い打ちをかけるようなこの微妙な空気。
村人か? ジョブ村人だったか? いいよ、わかってたよ!
だって俺、ツキシオみたいに突き出た才能ないしな!
「その……リクトはなにかおかしなジョブだったんですか……?」
「あ、シオンちゃんごめんなさい。いえ、おかしくない……どころか、こっちも十分レアジョブよ。むしろシーフやヒーラーより希少なくらいの。えーと、リクトくん!」
「あ、はい!」
喉の奥で生唾がゴクリと沈む。なんなんだ……シーフやヒーラーより希少なのにあの反応になるジョブって……。
「発表するわ! 貴方のジョブは……”鍛冶師”よ。五年も修行すれば大金持ちになれるわ!」
鍛冶……師……?
なるほど、そういうことか。でもそれじゃ俺が旅に出発するの、五年後じゃん。
少なくとも戦闘面では役に立ちそうもない。
ライブでオタ芸を踊りきるために体はそこそこ鍛えているし、タルトも言ってたから戦士は期待してたんだけどな。
壁役くらいにはなれるかもって。
「あの、リクト。でも鍛冶師には特殊特性がありまして。極限まで能力を引き出すことができない代わりにすべての装備の特性を発現可能なんです。このジョブ特性を持っているのは鍛冶師だけなんです。あの、ですから……」
「え、そうなの? ありがとなタルト。そっか、それなら盾役くらいにはなれるな!」
やっぱり根はいい子だよなぁ、タルト。
まぁ持って生まれたものをクヨクヨしてもしょうがないし、なにより曲がりなりにもレアジョブを引けた。
万年平凡だった俺には上出来だろ。
「……よし! じゃあ次は装備を揃えないとだな! えっーっと城下の街、ってとこに行くのか?」
「すごいわね……もう切り替えたの?」
心配してくれていたのか、少し面食らったような面持ちのタルトのお母さん。
ははは、現役営業職を舐めないでいただきたい。負けてなんぼ、数打ちゃ当たるで日銭を稼いでまいりましたよ!
それに……せっかくツキシオは自分のジョブにあんなに喜んでる。俺はそれに水を差したくない。
「実は、元いた世界ではこっちでいう商人みたいなことをしてまして……営業たるもの、切り替えが大事、ってやつです。それに、考えようによってはですよ? 今さら戦士だ! 魔術師だ!ってなったところで俺は実際には戦えないんですよ。ただそのジョブの装備特性を活かせるだけ、なんですよね? だったら全部を装備可能なのって実はものすごくお得じゃないですか?」
「あ! 言われてみれば……たしかにそう……よね。それが本質」
そう。実のところ、仮にここで戦士のジョブを引いたところで今の俺が急に戦えるようになるわけじゃない。
戦士ジョブの硬い装備を身につけて壁役だ。実はできる事が変わらん。
「本質を見抜く……ジョブ特性に依存しない才能……そうよね、タルトの見た目にもこの人は惑わされなかった……ねぇ、リクトくん!」
「は、はい?」
なにやら考え込むようにブツブツと呟いていたタルト母が唐突に声を張り上げた。
思わず怯んでしまうその勢いには”凄み”があった。見た目は少女でも曲がりなりにも一児の母。
「……タルトの夫の枠、まだ空いてるわ! この子、色恋からっきしなの! 彼氏いたこともない!」
「は……ちょっと!? いきなりなに言い出すの、お母さんっ?!」
あー……凄み、だけだった。タルト、ガチでキレてるぞアレ。
うーん、なにがどうしてそういう結論になったのだろうか? あまりに脈絡が無さすぎる。
まぁでもタルトのお母さんだしなぁ、で納得できないこともないのが怖い。
大変だな、タルト。
何はともあれ、これでツキシオと俺のジョブがはっきりした。次は装備か。
俺たちはこの五日間で一番のキレ散らかしを見せるタルトを宥めつつ、ここを後にした。
もうひとつ……実はこの時点で明かされていた重大な事実をなにも知らないまま。
◇
「もう……タルト姫ったらあんなに怒らなくてもいいじゃない。お母さんだって良かれと思って……あら?」
「……」
「あーあ、渡すの忘れちゃってたわ。まぁこれから入学する子供じゃなし、いらないか。それにしても鍛冶師の鑑定書なんて私も初めて見たわね……ん?」
「…………え?」
「鍛冶師……よね? うん、鍛冶師」
「……」
「なんなの、この異様に高い魔力の数値……んー……いや流石におかしいか。これじゃ人間というより攻城兵器ね。桁がおかしいもの。あーあ……やっぱりあの鑑定器具、ちょっとおかしいのかも。やたら時間かかったしなぁ……今度メンテナンス出した方がいいってマドレーヌちゃんに言わなきゃ」
ちなみに。俺たちがこの事実を知るのはこれよりもっとずっとうんと、だいぶ先の話である。
次話 そんな移動手段は聞いてない




