6.タルト姫?
◇ 6.タルト姫?
「ごめん、ちょっと待たせちゃったかな?! あ、リクトがなんかすっきりしてる!」
「はい! ツキシオにおかれましては本日はお日柄も良く、その節は大変失礼を致しまして!」
「はぁ、今日もダメダメなんですね。また私が通訳か……」
「タルトさんもこんにちは! 今日は案内ありがとうございます!」
「シオンさんこんにちは。歌姫のお役に立てるのでしたらこの程度のことなんでもないです」
待ち合わせ場所の噴水前、今日も正真正銘の超絶美少女である我らがツキシオと呆れ顔のタルト、直立不動で挙動不審の俺。
ごめん、タルト、今日もダメみたいだ……。
俺も流石にわかってはいるのだ。これはダメだと。ツキシオは普通にしてくれているのだから。
だが、わかって欲しい。キリスト教徒がキリスト本人を目の前にして普通にしていられるか? 仏陀でもいい。無理だろ、それは……。
「まぁ、リクトもそのうち慣れると思いますので……あのタルトさん、タルトさんは"ヒーラー"なんですよね?」
「はい。これでも結構希少なジョブなんですよ、えへへ」
「へぇ、カッコいいなぁ……その白のケープも可愛くてすごく素敵です!」
「あ、ありがとうございます……えへ」
「あー私はなんのジョブなんだろ! 可愛い装備が着られるジョブだといいなぁ!」
おおすげぇ……流石はツキシオ、俺とは違う。
タルトの種族は”獣人としては小柄で力が弱い種族、だから警戒心がとても強い。強めに当たられても気にしないのよ?”とビステッカに教えて貰った。だから塩対応されようが気にはならない……が、ツキシオ相手だとこうである。
懐いた。ツキシオに。
たった数日なんだがな。うーん、同志に引き込めないだろうか?
「リクトはー……なにかな? 踊り子?」
「あ……えっと……あ……」
「踊り子というジョブは無いですね。祈祷師になりますが……どちらかというとリクトは戦士向けの体格に思います。戦士にしては少し線が細いですが」
タルトのおかげで俺がコケシみたいになっていても問題なく会話が進んでいく。
今夜のおかず、タルトが好きなやつを一品献上せねばなるまい。
「さて、着きましたよ。ここが"ジョブ鑑定所"です。ごめんください」
「おー……雰囲気あるわね、リクト」
「あ……はい……」
ちなみに、どうせ行くのだからと俺も鑑定してもらう予定だ。
ジョブがわかってるとなにかと便利らしい。
「はいはーい! お待ちしてましたタルト姫! 詠唱歌姫、シオン様とリクト様ですね? ようこそ、ジョブ鑑定所へ!」
かなり年期の入った……いや、どう言い繕ってもこれはボロ小屋だな。見た目は大変ボロい、ただの民家。その扉からあまりに似つかわしくない小綺麗な少女が出迎えてくれた。まんまるのケモミミとレッサーパンダのようなシマシマの……ってあれ?
それに……姫?
「もう、姫はやめてってあれだけ言ってるのに……お母さん、なんでいるの?」
「お母さん?!」
もはやどれに驚いていいのかわからねぇ。
◇
揺れる尻尾についていくと、外からの見た目に反して中はかなり綺麗に整頓されていた。パッと見雑貨屋みたいな造りだ。棚に薬品らしきものや小箱がズラリと並んでいる。
鑑定所、という名前には少し似つかわしくないように思えるが。
さて……何から聞いたらいいのやら。
「改めまして……タルトの母です。娘がお世話になっておりま……なによタルト姫、その顔」
「……よそゆきのお母さんが、ちょっと怖い。ていうか、お母さんが鑑定操者だなんて聞いてなかったし」
「ふふふーサプライズよ! だってねぇ……見た?! さっきのシオン様とリクト様のあの顔……あーもう、あの瞬間がたまらないのよねぇ! い、えーーーい! こう見えて人妻でーす!!」
「……タルト。なんかその……中々に個性的なお母さん、だな」
「十分に言葉を選んでくれてありがとうございます、リクト。一族の恥なんです」
「なによ、恥って! 小さい頃はあんなにお母さん、大好きって!」
「今も大好きよ。でも恥は恥」
「娘がひどい!」
なんというか……似てないな。いや、見た目に関してはしっかりタルトの面影もあった。まぁ面影だけ。
見た目が若すぎてただでさえ幼く見えるタルトと同い年にしか見えない。二卵性の双子の姉でも通ったと思う。
「えっと、タルトさんの種族ってみんなこんな感じなのかしら? その、性格の話じゃなくて」
「いいえ、お母さんがちょっと特殊なんです。他のみんなも幼く見られがちとはいえ、ちゃんと歳はとります」
「あら? 私だって歳はちゃんととってるわよ? 最近は肌の張りも昔ほどじゃないし……まぁ、ダーはそんな君も素敵だよって言ってくれるからいいけど……」
待て……いったい何の話してんだ、この人?
今、公衆の面前、しかも娘の前で惚気だしたか?
「ちょっと……お母さん?!」
「あによぅ? あ、大丈夫よ。タルト姫だって十分素敵だもの。きっといい人が見つかるわ! そしたら、タルト姫だってきっと将来ナイスバディよ! だって私の血を引いてるんですもの」
「そういうことが言いたいわけじゃない!! それに、私だってちょっとくらいあるもん!」
タルト……苦労してんだな。
傍目には面白い人だが、これが自分の母親だと思うと、ちょっと思うところがある。
話題……変えよ。
「タルト、その……あーなんだ、そう! 姫、ってのは?」
「え? ちょっとタルト姫! あなた何も話してないの?! 自分は種族長の一人娘だぞー、って! 姫なのよ、この子! そして私は妻! つまり妃よ!」
やたらド派手なポーズだな……だが、作戦成功。
しかし……そうか、種族長の娘……ね。
「そんなに大げさに言うほど大きな種族じゃないでしょ、うちは……」
「あーなるほど、それでか」
ぎゅん、と擬音がつく勢いで振り向き、俺を睨みつけるタルト。あれ、なんか空気変わっちゃったけど……俺なにか失言したか今……?
「……そ、れ、で、か? へぇ、リクトもそう思ってたんですか。私が甘やかされて育った世間知らずの子供だって。ええ、無理もない話ですよね、私のこの見た目じゃ……」
「え? いや細かい所作に気品があるから、多分すごいしっかりした教育受けてきたんだろうな、って……」
「へ? 所作……ですか? 気品?」
タルトの吊り上がった眉が急にへにょ、と下がった。
あぶね、今地雷踏んだのか、俺は。
そもそも、俺はタルトを子供扱いなどしてない。
確かに彼女は俺より年下だ。だが、俺はその年下にツキシオとの通訳を任せっきりなのだ。俺とタルト、どっちかしっかりしているのかなど考えたこともないぞ。
「うん。ほら、ただ立ってるだけの今だってタルトの背筋はまっすぐ少しもブレてないだろ。重心がまっすぐのまま動かない。それ、幼いころから相当努力しないと身につかないと思うんだけど……」
「ふぇ……ぁ、うん……その……努力……しました、から……」
「すごい……タルト姫が照れてるわ……私ですら最近じゃ数えるほどしかお目にかかったことないのに!」
「もう、茶化さないでよ、お母さん。リクト……その、ごめん。早とちりだった」
おお……なんかちょっとだけ、タルトとの距離が縮まった気がする。いけるか? ツキシオファンクラブへの勧誘。
「へぇ。リクト、ちょっと見直しちゃった。私は気づけなかったなぁ」
「へあ?!」
突然の落雷が、脳天からつま先へ。
ビリビリと駆け抜ける電撃が脊髄をまんべんなく焦がしていく。ミナオシタ? ツキシオが、俺を?
ようやく……ようやくだ。ようやくツキシオに名前を呼ばれることに、なんとか慣れてきたというのに。
み、ミナオシチャッタ……??
「……しまったわ。タイミング間違えたみたい。リクト、固まっちゃった」
「タルト姫……なんか面白い子ね?」
「面白いことは、否定しない」
また気絶してビステッカに運ばれなかったことを褒めて頂きたい。
次話 アイドル、盗賊になる。一方のオタク、戦力外通知




