36.激戦の後は宴会と相場が決まっている
◇激戦の後は宴会と相場が決まっている
見上げれば、街の灯りに照らされた枝葉が風に揺れる。その隙間から覗く星たち。空が近い。
街の喧騒を聞きつけ、小動物は逃げるどころか集まってきているようだ。
彼らが体を休める木々。その肌は帯びた魔力で淡く光り、立ち並ぶ様は月明かりのよう。
「すげー綺麗だな……そういえば俺、ここに来てからちゃんと景色見ていないな……徹夜で籠ってたりして」
そういえば、来たばっかりの時は神秘的な場所だな、と思ったっけ。
そして視線を下げれば。
激戦があった中央広場には、その周りの木々たちを結んで、提灯のように張り巡らされた魔術灯。
傷だらけの広場に臨時で設置されたテーブルには、色とりどりの料理や果物が並び、メイド服の侍女エルフや包帯を巻いた防衛軍と思わしきエルフがせっせと準備を進めている。
異彩を放つのは、中央で丸焼きにされているジャイアントボアだ。
この街……全体的に草食なはずだよな?
「……あれ? タルトだ」
その丸焼きを見上げてる、見覚えのある特徴的なしましま尻尾と丸いミミ。
広場から一段高い階層にいた俺は、降りてタルトのところへ行くことにした。
まぁ、今日くらいは出歩いても怒られないだろ。
「おーい、タルト!」
「私が、お肉が食べたいですって言ったばっかりに……あ、リクト!」
俺に気づいたタルトがふわりと微笑む。
よし、怒られないな。
「歩いて大丈夫なのですか?」
「ああ。というより、終わったあとに倒れたのは極度の寝不足と疲労であって、ベルサの時とは……」
「リクト」
静かに……でも鋭く。俺の胸元あたりの位置から俺を見下ろすタルト。
あ……やべ。
「座ってください」
「……はい」
正しく見下ろされる位置になったな。
「いいですか、自分の限界もわからず動き回るのは、子供と一緒です。今回の件で、そういった方面での貴方の信頼はゼロになりました」
「はい、反省しています」
「もう……多少の疲労回復なら、私も魔術で出来るんですよ? 本当に、どれだけ心配したと……」
「面目次第もございません」
何も言い返せない。
あの時……ビステッカが魔族を粉砕した時。
気が抜けた瞬間に、意識まで抜けた。
ただ、これは感覚なので説明が難しいが、今回はガチで寝不足と疲労だ。
これだけ心配かけておいて、なんの言い訳にもならないのだが。
「あら……この国の英雄がまた叱られてるわ」
「あ、ビステッカ!」
顔を上げると、銀鎧を脱いだピッチリTシャツなビステッカが立っていた。
ただ、目を引くのはそのピチピチ筋肉ではない。
担いでいる大槍だ。
「び、び、ビステッカ! そ、それ! それは?!」
「え……これ?」
ドン、という振動が柄を立てた床を揺らす。
狩猟槍や十字槍などとは趣の異なる騎士槍。巨大な円柱を思わせる重装槍だ。
「か、かっけぇ……!」
「あらアナタ……イケる口?」
ビステッカとガッツポーズを合わせる。重装備は男のロマンだ。
「なんで男の人って……あ、ビステッカ隊長。そういえば相談があったんです。今後の進路なのですが」
「あら? ここの解放を終えたらピアットに戻るんじゃないの?」
「それなのですが……ビステッカ隊長、その槍で旅を続けるわけじゃないですよね?」
「ええ。これはボアちゃん狩る用だし……」
「先の戦闘で隊長の剣が砕けているのは確認してます。ピアットにあれを越える剣、ありますか?」
今、さらっとこの槍でジャイアントボア狩ったって言ったか?
こいつか? この丸焼きになってるやつ。
……は? 槍で狩った?
「無いわ。一番いいやつ、かっぱらったもの」
「そういえば、借り物って言ってたっけ」
「ええ、元々のはベルサ砦で折られちゃってたし」
「ですよね。つまり、ビステッカ隊長の力量に耐えられる剣がもう無いんです。提案なのですが、ピアットには戻らず、このまま次の目的地に行くのはどうでしょうか?」
「次……あ、なるほど! 火の国!」
「火の国?」
自慢では無いが、一、二回聞いたくらいじゃ覚えてないぞ、俺は。
「確かに剣を調達するにはいい選択よ。しかもリクト、アナタにも意味があるわ!」
「え、俺?」
「はい。火の国は……鍛冶師が治める鍛冶師の街ですから」
「おお!」
鍛冶師。俺のジョブだ。確かに、俺は鍛冶師なのに鍛冶師のことなんもわからんしな!
「では決定ですね。シオンさんには共有しておきます」
「お願いね。タルトちゃんは、宴会どうするの?」
「宴会……フロランタン女王は慰労会と言っていたはずですが……私は、部屋に戻ります。お肉は後で取りにきますから」
「一番美味しいとこ残しておくわ」
「ありがとうございます。では」
ぺこりとお辞儀をしたタルトは尻尾をゆらゆらと揺らしながら部屋に戻っていった。
機嫌が悪いわけでは無いらしい。
「ホントに苦手なんだな、宴会」
「それもあるけど……今日はちょっと飲みたいんじゃないかしら? あの子、酔うと無防備になる自覚があるから人前ではまず飲まないのよ」
「ふーん……で、どう?」
「なによ、どう、って」
察しろよ。いや、察してるな、この男は。
しらばっくれてやがる。そういうとこだぞ。
他のエルフが話しかけてるのは見かけたし、今もへんな視線は感じない。
でもなぁ……このオネェ言葉め。読めん。
「なによ?」
「いーや、なんでも。そういえばツキシオは? 見かけないんだけど」
「シオンちゃん? なんか"せっかくなんで歌いたいです"って、特設ステージの準備してるわよ」
……は?
なん……だと?!
なぜだ? なぜそんな最重要事項を今出した?! 枕詞だぞそれは!
こうしては、おれん!
「えっ、ちょっとリクト?! もう始まるわよ?」
「ばかやろう! 今の俺は汚いおっさんだぞ?! 許されるか? 許されねぇよなぁ? まず身を清める! 髭を剃り、下着は無論新品だ! あ、肉は取っておいてくれ!」
「え、ええ……行っちゃったわね」
◇
最高だ。最っ高の時間だった。
いつもは後方最後尾だったが、ここは異世界。前も後ろもないから最前線で盛り上げまくってきた。
惜しむらくは伴奏が無いことだが、そこは流石のツキシオ。彼女にそんなことは関係なかった。
始め、俺一人の悪目立ち感は否めなかったと思う。だが最後はどうだ? 幾人ものエルフが俺と共に躍り狂っていた。フロランタンがコールしていた。
芯を通った美しいターン、リズムを作るステップ。そして夜空に染み込む歌声ときたらもう……。
「……感無量でござる」
火照った頬を夜の風が抜ける。
熱を冷ますのにちょうどいい。
みんな……必死なんだな。楽しそうにするのも。
多数の逮捕者が出た。資料を洗えば洗うほど、コンフィが残した爪痕は大きかった。
まだ、解決してることの方が少ない。
「だから……この宴会なのかな。解決したの、ビステッカの冤罪くらいだもんな……」
「リクト、ここにいたのですね」
「ん、あれ……タルト。どうしたんだ?」
手に持ってるのは切り分けた肉と……あれ、酒か?!
次話 後夜祭
現在投稿中の
「推しと始める異世界冒険譚 ~推しとのラブコメ? それは解釈違いです!~」
ですが、今の段階で一章の全面改稿を行うことにしたため、一度連載を休止します。
現在5章を執筆中ですが、二章以降に比べ一章を書いていた時点での私の設計が拙く、まだ読者さんが少ない現時点での改稿を決めました。
三章以降につきましては、一章改稿し次第連載を再開しますので、どうぞよろしくお願い致します。




