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推しアイドルの握手会に参加したら推しアイドルごと異世界へ飛ばされました。異世界でも推しを推してたら、なんか世界を救いそうです! ~推しとラブコメ? それは解釈違い!~  作者: tada
第二章 森林都市シンポジオ編

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35.剣

◇剣(Bistecca POV)


 先の見えない暗闇。

 それが続いてる。

 足元を明るく、照らしてくれる人はいたわ。

 だから、ずっと暗闇の中にいたわけじゃない。アタシは恵まれている。すごく、恵まれている。

 だけど……向かう先だけは、いつも真っ暗だった。

 あの日から、ずっと。

 守るものを得た。責任を背負った。

 でも先は……何も見えない。


「ああ、ロスティな。自殺したよ。お前に復讐されるよりマシだったんじゃないか?」

「……え? 死ん、だ?」

 

 ロスティに襲われ、なにもわからないうちに捕まり、投獄されて。

 そこが……終わりだった。

 その先は無かった。道は途切れていた。


◇


「自殺……? なぜ、だ? 俺は、怪我をさせちまって、それで、ロスティに、謝らないと……え?」

「知るかよ。平民のお前を襲って返り討ちにとか、貴族の面目丸潰れだからじゃねーの?」

「そんな……そんな理由で! ロスティが命を断つわけがないだろう! 何があった! ロスティの身に何があったんだっ!」

「お、おい、暴れるな! し、知らねぇって!」

「……どけ」

「は?」

「そこをどけ! 俺はここを出る!」

「おい、何を……?」

「うぉぉぉおおお! うおぉぉぉおお! うがぁぁぁ!」

「……逃げ……た? 脱走だ! ビステッカが脱走したー!」


 一昨日は……訓練終わりに、一緒に酒を飲んだんだ。

 あいつは武術では俺に及ばなかったから、戦術評価で俺に文句を言って、そして……笑ってたんだ。

 どこだ……ロスティは、どこにいる?

 信じるものか!

 こんなもの、信じられるものか!

 遠くに、警邏隊の呼び笛が聞こえる。防衛軍の警報が響いている。暗闇に包まれた街に、いくつも浮かぶ捜索の光。

 ずっと……一緒だったんだ。

 ロスティ、フロン、ガレット。

 俺とロスティがバカをやって、フロンが巻き込まれて、ガレットのお説教。

 ずっと、そうだった。昨日まで、そうだった。

 一番、大切だった。なによりも守りたかった。

 なぜ……アイツが俺を襲撃した……?

 なぜ、俺は反撃した?

 なぜ?

 なぜ?

 なぜだ?!


「いたぞ、ビステッカだ! 捕らえろ!」

「なぜ……なぜだ?! 邪魔だ、どけぇ! うおぉぉ!」

 

 どけ。どいてくれ。

 知りたい、だけなんだ。

 確かめたいんだ!

 これは、何かの間違いだと。

 明日は、まだ続いていると!


「くそ、強すぎる! 囲い込め! 包囲しろ!」

「どけ……どいてくれ! うぉぉおお! うおぉぉおお!!」


 何が……悪かったんだ?

 どうして、こうなったんだ?

 いったい、誰の……?


『ロスティは、お前が殺した。だから死んだ』


 …………

 ……

 アタシが、殺した。

 アタシが、壊した。

 アタシが強すぎるから、コンフィはアタシを危険視した。

 フロンの気持ちにも、応えることはできない。

 そんなつもりはなかったのに、ロスティは大怪我をした。

 気が付いた時には、街が壊れていた。

 アタシが……全部、殺した?

 先が、見えない。

 明日は、続いていない。

 抱え……きれない。

 アタシには、もう……支えきれ……。


「ビステッカーーーーっ!!」


 声が……聞こえた。

 反射的に、振り返る。

 光が、見えた。

 それは、天高く掲げられた“銀”。

 突き上げられたそれは……鈍色の。

 どこまでも突き抜ける、銀の輝き。


「助けてくれ……リクト!」

 

──パシッ!


≪接続を確認しました。応答。共鳴スキル”コール&レスポンス”による一時的な管理権限の上書きを開始します≫

 

 力が……流れ込んでくる。

 足に、力が入る。踏ん張れる。

 ……ロスティ。

 まだ、先が見えたわけじゃない。

 でも……こんなアタシの手を、離さない人がいる。

 戦えもしないのに、敵のど真ん中までアタシを怒りにきた人がいるの。

 アタシが、アタシを救おうとしない。そんなことを本気で怒る……友人が。

 だから。

 ……だから!

 アタシは……先に、行くわ!


≪上書きを完了。属性付与:詠唱歌≫


 温かい。

 それは確かに、この掌の中に。

 ああ、もう……負ける気が、しない!


『……あれ? 反応が……え?』


 ロスティの影が、縦に分断される。

 アタシの、剣の軌跡によって。

 そのまま、ロスティ……いえ、悪趣味な幻影は無機物に戻り、床に崩れた。


『斬った……? ありえない。ビステッカの絶望はもう学習が補完して……なんで、再生、しない?』


 剣が……淡い極彩色に包まれている。

 まるで破魔結晶……いえ、それ以上の。

 これ、シオンちゃんの……詠唱歌?


『くそ、なんだよこれは! もういい、学習は終わりだ! 死ね、人間ども!』


 床に突き刺さっていた触手が、ドク、ドクと脈打った。

 それに呼応するように、中央広場のいたる場所に出現する、沸騰するぬかるみ。這い出てくる、数多の……兵士?!


「リクト様……世界樹が!」

「くそ、なんだよこの量は……!」


 魔族が呼び出したのは、もう民衆じゃなかった。

 鎧を纏い、剣を、弓を、杖を持った……武装したシンポジオ防衛軍。

 マズい……いくらリクトに強化してもらった剣があっても、これでは……!

 広場にはまだ、膝をつき汚染に蝕まれた民衆がいる。絶望した表情で、魔族を、武装した木の軍隊を見上げている民衆が。

 数が……敵の数も、守るべきものも、多すぎる!


「リクト! これ、アタシはどうしたら……」

「いい加減に……しろ。いつまで、寝てやがる」

「……へ?」

「てめぇら、いい加減にしろ! いつまでボサッとしてんだ……シンポジオ防衛軍っ!」


 リクトの恫喝に、茫然自失していた防衛軍の視線が一斉に集まった。

 コンフィに利用され、あるいは荷担し……コンフィを通して魔族にまで手を貸してしまった、シンポジオの守りの要たち。


「ガレット、第二小隊副隊長のジゴーってのは?」

「あそこのヘルムに羽を付けた全身鎧です!」

「ジゴー! お前が第二小隊を再編して民衆に壁を作れ!」

「え、いやでも、指揮系統が……」

「そんなもん俺が知るかぁ! コンフィに荷担しなかっただけで十分だ! ソテー!」

「は、はい!」

「お前が警邏隊をまとめて、民衆を避難させろ! ガレット、遊撃隊長のフリット!」

「あそこの長槍です!」

「お前は第一小隊まとめて前線を作れ! いいか……俺はお前らにもムカッ腹が立ってるんだ! お前ら、何のために剣を取った?! 自分の目で、よく見ろ! 敵は! どこにいる!」


 ひとり、ふたりと……次々に汚染の呪縛を精神力でねじ伏せ始めた兵士たち。槍で身体を支え、剣を握り直し、声を張り上げ……震える足を抑えて、立ち上がった。

 そして、動き出す。国民を守るために。

 シンポジオの戦力が……蘇った。

 リクトの指揮で?!

 

『くそ、なんなんだ、アイツは! 掃討者の増幅器だったはずじゃ……? やれ、あいつを殺せ!』


 マズいわ! 魔族の軍隊は民衆なんかお構いなしに後方火力を……!


「“プロテクション”! “リフレクション”!」


 上空に打ち上げられた矢も、火球も……すべて、リクトへ届く前に障壁で阻まれ、落とされた。

 す、すごいわね……普通に。展開速度が本職以上じゃない?


「リクト、警邏隊の動きを避難に限定させるのでしたら、ガレット侍女長の方が適任です」

「あ、そうか! 頼めるか、ガレット!」

「お任せください。経路も指示もお手のものです」

「助かる!」

「リクト、あと……あまり前には出過ぎないで欲しいのですが……」

「なるべく、頑張る!」

「もう!」


 コンフィの屋敷を出たときにも、感じた。

 アタシは、一度も、誰にも指示を出してない。だって、その必要が無いから。

 なら……!


「リクト!」

「うん?」

「アタシにも、指示を頂戴」


 アタシが牢に引きこもっている間に、何があったのかしらね?

 今のリクトには……背負う覚悟が芽生えつつあるわ。


「ビステッカ、俺、さっきの攻撃で思ったんだけど……アイツ、この人数をひとりで操りきれてない感じがするんだ」

「……ありえるわね。どうするの?」

「正面から重戦車みたいな戦士が突っ込んできたら……他が全部、疎かにならないかな?」

「それは……イカス作戦だわ!」

「リクト、さっきからものすごい数の矢と魔術に狙われてます! 早く下がってください!」


 タルトちゃん、そう言いながらも全部落としてるわ……ヒーラーってなにかしらね?


「リクト。後ろ……任せるわよ」

「そんなもん俺に任せるな! 出来るだけ頑張ります!」


 あらやだ、自覚はないのね。

 手には、いまだに光を失わない強化された剣。

 避難されていく民衆、前線を食い止める防衛軍。

 力強い……友人たち。

 一分の……不足、無し!


「あの性悪と決着をつけるわよ……ロスティ!」

 

 先へ。

 この先へ。

 防衛軍が、道を切り開いてくれている。

 あの魔族まで、アタシを遮るものはない。

 銀の色が切り裂いた、あの暗闇の、さらに……その先へ!


『くそ! うぁぁ! 来るな! 来るなぁ!!』


 ボコボコと沸き立つ床と、這い出てくる……ロスティを模した人形たち。

 アナタ、まだそこにいるのね?

 こんなものと……一緒にしないで。


「あまり……ロスティをバカにするんじゃないわよ!」

『くそ、なんで……なんで止まらない!』


 アタシが振るう剣閃で、次々と木屑に戻っていく人形たち。

 こんなものじゃ、変わらないのよ。

 こんなものをいくら斬ったところで、アタシの中のロスティはもう揺るがない。

 幼いころから笑いあってきたのもロスティ。

 アタシを襲撃したのも、ロスティ。

 少なくとも……コレじゃないわ!


『なんで……なんでだよ……? 知らない……! 僕は、こんなのは知らない!』

 

 無機物に戻っていく人形たちの向こう……矮小な、魔族がいる。

 そこはもう、アタシの間合い。


『なんなんだ……なんなんだよ、お前は!』


 “俺は……なんなんだ……?”

 あの時から、ずっと問い続けてきた。

 歩き続けてきた。

 “追放者”

 “ピアット近衛十字特別隊、隊長”

 “詠唱歌姫の護衛”

 どれも正解で……探していた答えには、思えなかった。

 振り返らなくても、わかる。

 きっと今も、光る棒を振り回して、タルトちゃんに引っ張られながら……誰かの為に声を張り上げてる。

 さしずめ彼は……詠唱歌姫のオマケ? 武具を打てない鍛冶師?

 どれも、彼を表してなんかいない。

 あの人は、始めからそんな記号は見ていない。

 己は、なんなのか。

 その答えは……自分が、どう在りたいか。

 真っ直ぐ見つめる先で、どう生きたいか。

 でも、あの人……戦えないのよ。

 予感がする。

 きっとこの先……この大切な友人には、なにか強大なものが立ち塞がる。ベルサや、ここでの戦いみたいに。

 なら、アタシは……!


「アタシは、リクトの剣よ」

『知らない……そんなの……』

「そう……アナタ、勉強不足なのね」


 柄を握りなおす。

 温かい。そして……熱い。

 ロスティ……幕を、降ろすわ。

 これで、終幕。


「さようなら」


 力いっぱい振るった一刀のもと。

 アタシの剣と共に魔族は、粉々に砕けた。


次話 激戦の後は宴会と相場が決まっている

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