34.応援の先
◇応援の先
『あはははは! 本当に人間には、この手が有効だね! どうしたの、ビステッカ! キミ、自分で言っていたじゃないか。その通り、これは人形だよ?』
「ハァ……ハァ……わ、わかってるわ……!」
ロスティ。
ビステッカの、一番……深い傷。
それを、こいつ……!
『なら、斬りなよ。殺したらいい。他の木偶みたいにさ! キミなら一撃だよ、こんな木偶! 斬り殺せばいいんだよ! あ……違ったか』
「なに、を……」
『ごめんごめん、間違えた。コイツは……自分で死んだことになってるんだったね。こんな風に』
突然、ロスティの人形が腹を刺した。
自分の、腹を。
ビステッカの目の前で、軋んだ音を出しながら口から液体を吐き、その場に倒れるロスティの人形。
「ぅ……ぁ……!」
『あははは、面白い反応! 瞳孔が開いてるね……呼吸が浅くて早い。肩から上には力が入ってるのに、手足は冷たいのかな? 足元、覚束ないけど大丈夫? あ、口の中もカラカラなんだね、舌が乾いてるじゃないか!』
「……ビステッカ隊長! ここは私が……!」
「今、いいとこなんだよ! 動くなタルトっ!!」
初めて、魔族が声を張り上げた。
それと同時に、棒立ちだった人形が一斉に広場にいた民衆の方へ向き直る。
“邪魔をすれば、民衆を殺す”
『ああ、すごいな……もっと近くで……いやいや、ダメだ。舐めるのはダメだね、ピアットみたいになる。そうだ! ビステッカ、ビステッカ、聞いておくれよ! キミは大事なロスティに襲われて、返り討ちにしたよね? キミは浅い切り傷程度で済んだけど、ロスティは腕と顔に大怪我を負った!』
「え……?」
『実力差があり過ぎたんだから、仕方がないよ! キミが強すぎたんだ。だけどさぁ…………もしロスティが、本当はコンフィの策略に乗ったフリして、キミに警告をしようとしていたとしたら……どうなんだろうね?』
「……なにを……言っている?」
『もし、だよ、もーし! そんな可能性もあるかも知れないじゃないか。キミを守りたくて、策略に乗ったフリしてさ……! それでもしかして……潜伏していたアヴァンツィに、操られた、とか!』
操り人形の如く、再び立ち上がるロスティ人形。
その虚ろな目が、ビステッカを見つめる。
「……は?」
『あはははは! すごい心拍数!』
この……クソ野郎……!
でも、動くことが出来ない。この状況を一手でひっくり返す手が思い付かない。
コイツはコンフィとは違う。あの脅しは、ブラフじゃない。
『だとしたら、最高だよね?! 関わったやつが全員、不幸だ! キミは疫病神なのかい? ああでも……その線は無しにしよう。ロスティを殺したのはキミだ、ビステッカ』
「アタシ……が」
『そうだ、キミが殺した』
ロスティの人形が、今度は自分の首を跳ねた。
ドサッ、という気持ち悪い音がビステッカの足元に転がる。
ハラワタが……煮えくり返る。
『キミは、それを望んでいるだろう? 真実なんかキミにはどうでもいいんだ。ロスティは、お前が殺した。だから死んだ』
「ハァ……ハァ……ア、タシが……」
ビステッカの剣を持つ手が、ガタガタと震えている。
ジリジリと一歩ずつ下がるたびに、一歩ずつ近づくロスティの人形。
握った拳の感覚なんか、もうとっくに無くなった。
砕ける寸前の奥歯が悲鳴をあげている。
許せねぇ。
コイツだけは……許せねぇ。
この魔族だけは、絶対に……!
「ダメ、です……!」
不意に、怒りで震えるほど握りこんだ拳が、温かいものに包まれた。
優しく包み込むそれが、必死に俺を引っ張っている。
「タル……ト?」
「リクト……ダメです。何をしようとしているのか、私にはわかりません。ですが……それは、使ってはダメ、です!」
泣きそうになりながらも、必死に訴えかけようとするタルト。
ひどい、耳鳴りがしている。頭が割れそうに……痛い。
あ、あれ……?
俺、今……なに、しようと……?
「リクトの気持ちは痛いほどわかります。私も、アイツには吐き気がします。でも……嫌、だ。それは……ダメです!」
「……あ」
頬が、痛んだ気がした。
それは、俺が忘れてはいけない痛みだ。
そうか……そうだった。
これじゃ、ない。
俺が出来ることは、これじゃないだろ!
「……リクト?」
「ごめん、ありがとう、タルト。そうだ……俺が出来ることなんか、ひとつしか無かった」
魔族は……心の底からムカつく。
ぶっ飛ばしてやりたい。
だけど……違う。感情のままに叩きつけるのは、俺の……役目、じゃない!
≪発動条件を達成しました。特殊スキル"おうえん"が進化します≫
ずっと、これだけをやってきたんだ。だから、わかる。
力の、使い方がわかる。
俺の行くべき方向が、わかる。
タルトの手をそっと外し、握った拳を……開いた。
「……り、リクト?」
「大丈夫だ、タルト。もう……間違えない!」
今、友達がひとりになってる。
たったひとりで、暗闇の中で、それでも必死に立っている。
俺の手を取ってくれた友達が、今、ひとりだ!
——サイリウム……オン。カラー指定……”シルバー”。
だから掲げろ、高く。
高く!
俺の役割なんか、それだけだ!
それで、十分。
こいつを……このクソ野郎を、ぶちのめすのは!
ビステッカだ!
「ビステッカーーーーっ!!」
俺は……ここにいる!
≪進化スキル"コール&レスポンス"、発動します≫
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