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推しアイドルの握手会に参加したら推しアイドルごと異世界へ飛ばされました。異世界でも推しを推してたら、なんか世界を救いそうです! ~推しとラブコメ? それは解釈違い!~  作者: tada
第二章 森林都市シンポジオ編

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33/39

33.勝利の先

◇勝利の先


「ゲヒィあっ?!」


 タイヤが破裂したかのような音と共に、コンフィの胴体が上半分からひしゃげるように折れ曲がった。

 状況を掴めていない顔でビステッカを見上げるコンフィ。

 静かに見下ろすビステッカ。

 な、殴った……?!


「ぐ、ウァ……いた、イ……ビステッカ、きさマぁ!」


 激昂に任せて振り上げようとしたコンフィの腕を、ビステッカが無造作に踏んだ。

 それで身動きができず、マジマジと踏まれた腕を見つめるコンフィ。


「きさマ、われをアシげに……ゲハァ!」


 がら空きの顔面に、ビステッカの拳が突き刺さる。


「ぐ、いちドならズ、にどマデも……ビステッ……グハァ!」


 恨みがましくビステッカを睨み付けながら、コンフィはゆっくりと起き上がり……再び地面に転がされた。

 なにを……やってるんだ、コンフィは?

 初撃は、圧倒的だった。

 現代兵器さながらの一撃は、たった一発で何人もの軍人に致命傷を負わせた。

 なのに……ビステッカに、手も足も出ない。


「な、ナゼだ……? なぜ、なぜダ……ナゼ! ビステッカ! シねぇ!…………アレ?」


 横薙ぎに振るった腕は、簡単に盾で上へといなされる。

 ビステッカ……ほとんど動いてない。


「ェ……? ゴぶぁっ!?」


 首から上が消し飛ぶような一撃をもらい、顔から地面に叩きつけられるコンフィ。

 それは、何度やっても同じだった。

 攻撃しようとしてもそれは攻撃にすらならず、その度にビステッカの拳がコンフィの顔面に突き刺さる。

 何度でも。

 そしてついに……コンフィは、立ち上がることしか、しなくなった。


「ナゼだ……なぜ、なぜ……?」

「何が不思議なの……? アナタは、偉そうに命令するだけ。前線に立ったことなんかないでしょう?」

「ダメだ、みとめヌ! ダメだダメだダメだ! おまえサエ、おまえサエ、ころセば……! ヒギャア!?」


 棒立ちのままわめき散らし、床に叩きつけられるコンフィ。

 もう、勝負にすらなっていない。


「アタシ、さえ? まだ戻れるつもり? 自分の身体を……手を、よく見なさい」

「……え?」

「アナタ……いつから人間辞めてたの?」

「へ……? あ、え……なんだ、コレ、は……?」


 今の今まで、気付いてもいなかったのか……?

 自分の手を見つめ、震え出すコンフィ。

 そしてそれに呼応するかのように、身体が……崩れ始めた。まるで、枯れ木が朽ちていくみたいに……ボロボロと。

 残ったのは、痩せこけた老人よりも更に細い、針金のような身体。


「限界……です。人間の身体は、そもそも世界樹の魔力を受け入れるほどの器ではありません」

「タルト」


 振り返ると、治療を終えた兵士が他の兵士に運び出されていた。

 良かった、間に合ったか。


「コンフィは……どうなるんだ?」

「どうも、なりません。世界樹が枯れ始めるほどの魔力を使い、存在そのものを書き換えています。もうコンフィは一生……あのままです」


 枝のように細くなった手を見つめ、ひきつったように笑い続けるコンフィ。


「もう……殴る価値もないわ。リクトちゃん、フロンのところへ向かいましょ! まだ貴族連中が片付いてないんでしょ?」

「ああ! ツキシオの援護しなきゃだ! でも……少し、腑に落ちないな」


 コンフィに残った人らしい部分は、ビステッカに殴られて腫れ上がった顔だけ。

 オールバックだった髪を、笑いながら掻き毟ってるが……因果応報だろう。

 ただ……これ、本当にコンフィの単独犯か?

 

「私もです。そもそも……コンフィはどうやって、世界樹の魔力など取り込めたのでしょうか? しかも存在の書き換えなど、心象具現化と同レベルの禁忌です」

『ああ、それは僕がやったんだ。でも結果は予想外だったな。君はすごいね、リクト!』


 その声には、聞き覚えがあった。

 ゾクリとしたものが背筋を走り、全身の毛穴が、一斉に泡立つ。

 思い起こされるのは……あの、激闘の奪還戦。


——思えば随分と退屈で、くだらない歌だったな。お前たちの歌は。


 同じ……声だ。


『あーあ、せっかく女神の枷を外して、世界樹の力まで注いだのに……まぁ、役には立ったほうかな?』


 それは、コンフィが最初にいたステージ……防衛軍の更に後ろにいた。

 ベルサ砦のやつと比べると随分と小さい。顔に穴も空いてない。半透明で濃紫な身体。

 枯れ木のような体躯には細長い腕が何本も生え、頭ばかりが不釣り合いにデカい。

 見た目は、全然違う……でも間違いない。


「異常個体の……アヴァンツィ!」

『やぁ、リクト、タルト、ビステッカ。ひさしぶり……そして、はじめまして』


 多すぎる腕を引きずり、蜘蛛か蟻を思わせる頭部をゆらゆらと揺らしながら……ソイツは、ゆっくりとこちらを見た。

 さすがに……これは想定してない。

 マズい……今、魔族が出てくるのはマズい!

 今は……ツキシオがいねぇ!


『驚かされたよ。特にキミだ、リクト。不確定要素だったシオンを考慮しても、コンフィとビステッカの相性なら、コンフィの勝ちだったんだけどな』

 

 ザリ、ザリ、ザリ……。

 魔族が歩く度、無数の腕が床を引っ掻き、耳障りな音を立てる。

 こっちに……来る。

 まて……なんで、ツキシオの名前を知っている?


「きゃぁーーーーーっ!!」

『んん? なんだい?』


 ……しまった!

 コンフィの変貌に、凍り付いていたシンポジオの人々。

 その止まっていた時が、魔族の出現で一斉に動き出した。

 一人の悲鳴をきっかけに、パニックに陥る中央広場。

 それは、警邏隊と防衛軍も一緒だった。

 人垣を押しのけて逃げようとする人、尻もちをついて祈りを始める人、狂ったように叫ぶ人。

 待ってくれ、こんなの……戦うどころじゃ……!


『なんだよ、ヒドイなぁ……ずっと一緒に暮らしてたのに、まるでバケモノみたいじゃないか、僕が。静かにしろ』

「ぐ、あ!」


 足元から這い上がってきた怖気に、腰から下の力が抜ける。どす黒い吐き気が込み上げてくる。

 これは……魔族の、汚染!

 それは、民衆も一様に同じようだった。中央広場を包んでいたパニックの悲鳴が、急に苦しそうな呻き声に変わる。

 だが、そんな戦時下の病院のような広場を横切り、魔族が向かった先は……コンフィだった。


『あーあ、ヒドイ有様だ。君は僕のお気に入りだったのに、顔もこんなに腫らして……ヒドイことをするね、ビステッカは』

「くひっ……くひひ……だ、ダレ、だ?」

『僕だよ、僕! 毎晩寝てるキミを改造して、ビステッカが帰ってきた時には世界樹の力まであげたじゃないか!』

「……ダレ、だ?」

『まぁキミは力に酔って、僕のことなんか気づいてなかったけどね。最高の学習素材だったんだけどなぁ』


 寝てるコンフィを……改造していた?

 なにを言ってるんだ、コイツは?!

 

『君はよく動いてくれたよ! 人間の痛み……憎しみ、妬み、悲しみ、恐怖……キミほど僕の学習に貢献した素材はいなかった! そして……掃討者を殺す機会までくれた』

「……ソ、ザイ?」

『お、反応した! そうだよ、キミは最高の素材なんだ。まだ使えるかな……?』

「待ちなさい……アナタ、ここで何をしていたの……?」

『あれ? ふーん、ビステッカ、キミは動けるんだねぇ。流石だね、すごいや!』

「答えなさい!」


 魔族の一番近くにいるにも関わらず、ビステッカは汚染を振り切って腰の剣を抜いた。

 ようやくコンフィから視線を上げ、異様な頭だけをぐるりとこちらに向ける魔族。


『それを知って、どうするのさ? すぐ死ぬのに……いや、待てよ? こういうパターンは、今まで無かったな……? うん、教えてあげるよ、ビステッカ。シンポジオはね、僕の実験場なんだ』

「は……? なにを……言っているの? 実験場……?」

『そうだよ。世界樹を通せば、ここは見るも聞くも、思いのままなんだ。だから人間を観察し、学習し、滅ぼす。そのための、実験場』

「魔族が……実験をしていた?」

『あ、勘違いしないでよ? 僕はちょっと手伝いをしただけで、権力も、金も、女も、欲しがったのはコンフィさ。僕は……見てた。ずっとね』


 昆虫のような感情の読めない目が、ジッとこちらを見ている。

 まるで新しい玩具を与えられた、子供のように。

 

『でももっと……面白いものが! 見られるんじゃないかなぁ? ねぇ……ビステッカ、タルト、リクト!』


 もうコンフィには興味がなくなったのか、魔族は完全にこちらへ向き直った。

 マズい……腹に力を入れろ。足を奮い立たせろ。

 魔族の意識は……もう、俺たちに移ってる。


『今さぁ……シオンがいないんだよねぇ?! ねぇ、どんな顔するかな? 詠唱歌姫は! 到着したら護衛が全員、死んでました! それでも戦うのかな? それとも泣き崩れる? どうするんだろう、あの掃討者は!』


 ……あ?


「そんなこと……させるわけねぇだろうが!」

『あははは! 立った! キミはシオンのことになると本当に人が変わるんだねぇ、リクト!』

 

 足元まで垂れ下がっていたいくつもの細い腕が、ズブリ、と床に埋まった。セメントにでも突っ込んだみたいに。


『強度テストをしようか! ちょっと付き合ってよ! それから殺す』


 じくじくと、広場のいたる場所が沸騰を始めた。

 跪く民衆の隣に、防衛軍のど真ん中に。

 やがて沼のようにぬかるんだそこから、何かが這い出てくる。

 どろり、ずぶり……ぐちゃ。

 鼻につく、甘酸っぱい酒のような匂いを放つそれは、人の手だった。木でできた、人間の手。

 這い出てくる、人の形をした木の人形たち。


『コンフィのおかげで、世界樹の魔力を直に使う危険性はわかったからね。僕は違う使い方をさせてもらうよ』


 次々に這い出てくる木の人形。広場が酔いそうな匂いに満たされていく。

 にもかかわらず、この場が再びパニックに陥ることはなかった。それどころか、呻き声に交じり聞こえる、“おふくろ”や“あなた”の声。

 まさか、この人形は……!


『……キミにはあまり時間を与えない方が良さそうだね、リクト。踊れ、僕の木偶たち!』

「リクトちゃん、下がって! 来るわよ!」


 武器も持たず、一斉に襲いかかってくる木の人形たち。

 いや、これ……武器も持たずというか……!


「ビステッカ、この人たち……!」

「リクトちゃん、これは人じゃないわ、人形よ! 余計なことは考えない!」


 でも今、ビステッカが斬り伏せた人形……街の人にしか見えなかった。雑貨屋か八百屋にでもいそうな、エルフのおばちゃんにしか。

 武器も持たずに、じゃない。

 元々武器なんか持っていない、普通の人にしか見えない!


「悪趣味です! “ホワイト・アロー!”」


 タルトの光弾に貫かれ、いくつかの人形が崩れるも……その崩れた箇所を、触手のようなものが塞いでいく。


「……っ! 再生します!」

「でも、魔術も剣も通るわ! ただ、数が……!」


 さっきビステッカが斬り伏せた人形も、徐々に元の形を取り戻していく。

 本格的に、マズい。

 再生する物量は、実力差がどうの、とかいう次元の話じゃない。


『あはは、ヒドイな! 誰かの恋人とか、親とかじゃないのか、この人たちは』

「どの口が……うぉりゃー!」

『おお、一撃。さすがに強いね、ビステッカ』


 ビステッカが一体一体を倒す速度は、再生よりも早い。でも、その穴を物量で埋められる。

 タルトの魔術も連発には向かないし、そもそも前衛がビステッカ一人じゃタルトが危険になる。


「リクト、前に出過ぎないでください! く……っ! “ホワイト・アロー”!」

「タルトも、無茶するな!」

「そうも言っていられません!」


 考えろ……なにか、手を……くそ!

 なんで、ビステッカとタルトだけが戦ってるんだよ!?

 

『本当に粘るね……時間の問題だけど、シオンが戻ってきたら厄介かな。やっぱり、ビステッカをなんとかしなきゃダメかぁ』


 一斉に人形たちが動きを止め、下がった。

 そして人形たちを代表するかのように、他より精巧な人形が床から這い出てくる。


「な……に、を……」


 その人形を目にした途端、ビステッカは凍りついた。


『あははは、どうしたの、ビステッカ! キミが言うように、これはただの人形だけど?』

「や、め……なんで……!」


 剣を持つ手が、震えてる。

 少しずつ、後退りするビステッカ。

 あの剣士を模した木の人形……まさか!


「ガレット、あの人形!」

「はい、あれは……ロスティです! この……下衆野郎……!」


 ビステッカは、動けないでいた。


次話 応援の先

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