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推しアイドルの握手会に参加したら推しアイドルごと異世界へ飛ばされました。異世界でも推しを推してたら、なんか世界を救いそうです! ~推しとラブコメ? それは解釈違い!~  作者: tada
第二章 森林都市シンポジオ編

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23.女王フロランタン

◇女王フロランタン


 これは流石に面食らったのか、ツキシオが真顔のまま小首を傾げている。

 面食らったのは、俺もだが。

 ビステッカをハメた親玉……には見えんな?


「あ、ああ……すまぬ取り乱した。わらわがこの国を統治してるフロランタンじゃ。遠路遥々、大義であった」

「フロランタン様。詠唱歌姫はこの世界のために旅をしてくれているのです。大義であった、はちょっと……」

「そうじゃな! 誰のせいでこんなに混乱してるのじゃろうな? ガレット!」

「職務は全うしていますよ。ちゃんとお伝えしたじゃないですか。詠唱歌姫御一行がご面会を申し込まれています、と」

「そうじゃな! 悪いのは全部わらわじゃな!」


 なぜコントをしているんだ、こいつらは?

 外のエルフと空気の温度がまるで違う。女王の隣にいるエルフ……ガレット、が名前だな。

 黒をベースとしたエプロンドレスに綺麗に肩で切りそろえた黒髪。エルフは見た目で実年齢が分かりづらいが女王よりは年上に見える。


「フロン。話が進まないわ。詠唱歌姫一行、シンポジオの封印武具解放のため馳せ参じました。世界樹への立ち入り許可を」

「あ……そ、そうじゃな。すまぬ」


 調子を崩さない……どころか少し固いビステッカと、怯えたような表情を見せる女王。

 なんだ……?

 どういう立場なんだ、この人。

 でも、ビステッカの今の状況を知らない、という訳ではなさそうだ。

 味方と決まったわけじゃない。

 

「もちろん、世界樹への立ち入りは許可する。もうそんな時期なのじゃな……ピアットの方は大事ないか?」

「え……? ピアットの状況を知らないのか?」

「……お主は?」

「彼はリクト。詠唱歌姫のシオンちゃんと一緒に、こちらに召喚された異世界の民よ」

「……詠唱歌姫と一緒に、じゃと?」


 待て。そこから? そこから知らないのか?

 マドレーヌさんが情報共有していない……?

 いや、マドレーヌさんは残念ではあるが、有能でもある。

 情報共有という大事なことが抜けるのは考えづらいよな……?


「リクト。私達はシンポジオ訪問決定からほとんど最速で行動を開始しています。文を打っても、私達の到着の方が早いですよ?」

「え……? この世界って……魔術とかでこう、パパっと隣の国の人と話せたりとか……できないのか?」

「そんな魔術はないですよ。あれば便利だとは思いますが……」


 無い……?

 いや、それなら納得できるけど……自動書記があるくらい魔術で発展してるのに?


「リクト……と言ったかの。質問に答えると、詠唱歌姫の召喚とわらわの国への訪問を知ったのはついさっきじゃ。記録が残っておるのでそろそろじゃな、とは考えておったが」

「……そうか。すいません、話の腰を折った」

「かまわぬ。長旅で疲れておろう。封印武具の解放は明日にして今日はもう休むが良いじゃろうな。ガレット」

「街の方に宿を手配済です。食事はどうされますか?」

「……待ってください」

「いや、ちょっと待て」


 俺とツキシオが同時に女王の話を遮った。

 なに勝手に締めてんだ。

 真っ直ぐ、女王を射貫くようなダークブラウンの瞳。それはツキシオも、ひとつも納得なんかしてないことを雄弁に語ってる。


「フロランタン女王……ご挨拶が遅れました、詠唱歌姫の詩音です。お伺いしたいことがあります。ここまで来る道中……私の護衛であるビステッカさんは、随分と冷たい視線に晒されているように感じました。あなたはここの統治者で、ビステッカさんの幼馴染。間違いはありませんか?」

「……うむ。相違ない」

「私は、フロランタン女王からは……同じような視線は感じません。尚更、不信感があります。あなたは、それを止められる立場ではないのですか? それとも、止める気がないのですか?」


 女王は……苦虫を嚙み潰したように表情を曇らせた。

 俺が言いたかったことは、今ツキシオが全部言ってくれた。ここに来るまで、ビステッカは針のむしろだった。

 知らない訳じゃないなら、想像できるだろうが、それくらい!


「……それは……そうじゃな。ビステッカは事情を言わなんだか……いや、言いたくもなかろう。街の者は、何か言っておったか?」

「ビステッカさんを、同族殺しの追放者、と」

「そうか……」


 頼りなげに女王が視線を投げかけるも、ビステッカは取り合わなかった。

 彼は静かに目を閉じ、微動だにしない。

 反応がないビステッカに諦めたのか、俯く女王。

 

「ビステッカは……同族殺しなどしておらぬ」


 ……は?


「そんなことは知ってますっ!!」

「そんなことは当たり前だろうがっ!!」


 跳ね上がった瞳が、大きく開かれている。

 今さら……なに驚いた顔してんだ?

 周回遅れもいいとこだ。

 そんな当たり前のこと、確認するまでもないだろうが!


「ふふふ……あははは! はー……もう十分よ、二人とも。フロン、またね」

「あ、おい! ビステッカ!」


 気まずそうな女王を残して、ビステッカは踵を返してしまった。

 仕方なしに、俺とツキシオも彼の背を追う。


「本当に……もう……ここに未練は……少しも無いのじゃな……お前は……」


 去り際、女王の悲しそうな声が、妙に耳に残った。


◇


 テーブルに所狭しと並ぶ料理の数々。

 まぁ、現代とは違うのでまったく同じではない、と前置きはしておいて。

 根野菜の煮物。ホウレン草のサラダ。白菜となにかの揚げびたし。トマトとナスのチーズ焼き。たぶん豆腐。

 肉、少ないな……。


「それにしても……なんであそこで出てっちゃったんだよ、ビステッカ。俺、全然納得してないぞ」

「あら? アタシはもう満足よ? そんなことより食べましょ。冷めるわ」


 そんなこと、では無いんだけどなぁ……。

 でも、本人がこれだ。

 ここにしてもそう、ガレットが手配してくれた宿に併設してる飯屋。宿泊する人がそもそも少ないようで、どちらかというと普通の飯屋に宿が併設されてる感じか。

 めちゃめちゃ普通の客がいる。ビステッカ、めちゃめちゃ避けられてる。結構混んでるのに、俺たちの周りだけテーブルがガラガラ。ツキシオがいるから料理だけは出てくる。


「食べごたえがないわねぇ、相変わらず。シオンちゃんにはいいかしら」

「ビステッカさん……私も納得した訳じゃないですよ? ただ……うーん……」

「あらら。えっと、タルトちゃん?」

「お肉を食べて、気分を晴らそうと考えていました」

「なんかごめんなさい? 草食なのよ、エルフって……」 


 ツキシオは、女王の面会の後から考え込むことが多くなった。俺は……不完全燃焼だ。結局、ビステッカが笑い飛ばしてしまったからなにもわからなかったし。

 まぁ……食うか、とりあえず。


「え、あ、コンフィ様?!」

「ここに、犯罪者がいると通報が入った。失礼する!」


 突然、幾重ものガシャガシャと金属をぶつけ合う音が入り口からなだれ込んできた。

 黒を基調とした物々しい全身鎧。

 有無を言わさぬその圧力がぐるりと俺たちを取り囲む。

 なんだ……こいつら?


「食事中に失礼。少しお時間頂けますかな」


 その黒鎧の後ろから、他のエルフに比べると少し小柄な体躯のエルフが前に出る。小柄ながら軍人を思わせる芯の通った姿勢に張りのある声。後ろに流してガッチリと黒髪を固め、髭を短く切り揃えている。

 一人だけ鎧ではなく軍服を纏っていたそいつは、ビステッカを睨みつけていた。


「流石に詠唱歌姫に対して不敬が過ぎるわね。この事を女王は知っているの? コンフィ」

「どの口が。無論、陛下に御報告は差し上げるが……治安維持に関しては俺が全権を任されている。つまり、国外追放した犯罪人がこんなところで呑気に飯を食ってる。それを見逃す道理などない、ということだ」


 黒鎧たちが一斉に身構えた。

 静まり返った店内から、巻き込まれたくないエルフたちが散り散りに逃げていく。

 ビステッカは……動かない。動じてもいない。

 床に落とした針の音すら聞き取れそうな空気の中……その軍服が号令を発した。


「ビステッカを捕らえろ」


 黒鎧たちが、一斉に動き出した。


次話 囚われビステッカ

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