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推しアイドルの握手会に参加したら推しアイドルごと異世界へ飛ばされました。異世界でも推しを推してたら、なんか世界を救いそうです! ~推しとラブコメ? それは解釈違い!~  作者: tada
第二章 森林都市シンポジオ編

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22.文句言ってやる!

◇文句言ってやる!


——クソ、同族殺しの追放者が

 

 なんだ……今の?

 しかもわざと、俺たちへ聞こえるように言ったように感じた。ビステッカ本人じゃなく……詠唱歌姫に。


「……はぁ。まぁ隠しておくつもりもなかったのだけど……ごめんなさいね、あまりいい気分じゃないわよね」

「ビステッカさん……今の……?」

「気にしないで……というのも無理な話よね。でも、巡礼には影響ないと思うわ」

「えっと、あの……」


 ビステッカは声色こそ普段と変わらないものの視線はリフトの先から動かさなかった。

 ツキシオが何度も話しかけようとして、俯き言い澱む。

 俺も、なんと声をかけたらいいのかわからなかった。

 ビステッカと同族殺し。

 この二つがどうやっても結びつかない。

 ゴウンゴウンというリフトの音だけが重い沈黙に響く。

 そうしているうちに、リフトの先に街並みが見えてきた。


「……この国では……アタシはそういう事になってるのよ。もう出てから随分と経ったけど、変わらないわねぇ、ここは」

「ビステッカさんの故郷……なんですよね?」

「そうよ。さ……着いたわね」


 タイミング……計ってたな、ビステッカ。

 到着したリフトから降りると、そこは下からの印象とはまた違った景色だった。

 巨大な枝同士を板や梁で繋ぎ、かなり複雑ながら平地と同じような機能を得ている。そしてその基盤の上に作られた道や建物。街灯なんかは金属製だが、やはり建物はほとんど木製だ。驚くのはその立体構造。上に伸びる枝を使い、街が何層も積み重なっている。まるで天然の違法改築物件だ。

 ツキシオが喜びそうな景色ではあるんだが……彼女から感嘆の声は上がらない。

 確認するまでもなかったが、案の定、ツキシオの口は完全にへの字になっていた。

 それも、無理のない話だ。

 リフトが到着した時、この街の何人かが俺たち……というより、ビステッカを見て、驚くように店の奥に引っ込んだ。あからさますぎる。

 なんかムカついてきた。


「さて……とりあえず女王へ会いに行きましょ。封印武具の様子も気になるし」


 そして、当の本人がこれである。

 まったく気にしている様子がない。いや、本当に気にしてないのかは知らん。ただこの態度は、"隠すつもりはないけど、別にわざわざ言うつもりもない"というやつだ。

 聞きづらい雰囲気だしやがって。


「リクト、シオンさん。お二人の気持ちは顔を見ればわかりますが……とりあえずビステッカ隊長の言うとおり女王へ会いに行きましょう」

「なっ……でもさ、タルト」

「いえ、そちらの方がお二人も少しは気が晴れるかと。女王はビステッカ隊長の幼馴染みなんですよね?」

「タルトちゃんは事情を知ってたわね……そうね。会ってみればわかるわ」


 女王が……幼馴染み?!

 女王……ここの統治者か。

 わかった。

 文句言ってやる!


◇


 ビステッカが言うには、女王がいるのは今見えている中でも一番デカい巨木——遠目で見てもその巨大さがわかるひと際大きな大樹だった。他の建物が巨大樹木の”うろ”を使ってるのに対して、その大樹は木そのものが塔のような造りになっていた。内部まではわからないが、木と塔が融合しているような感じだ。窓やバルコニーが木に直接ついてる。

 つまり、そこに元凶がいると考えていいだろう。

 そこに向かう道中は散々だが。

 ビステッカを見て眉をひそめる者。露骨に嫌そうな顔をする者。ひそひそと耳打ちする者。知らん顔のビステッカ。

 なんなんだかなぁ、もう!


「……私、先頭を歩きます」

「シオンちゃん?」

「私、経緯は知りませんから。ビステッカさん、教えてくれないですし。でも……私、この街を好きになれないです、まだ!」

「はぁ……これ、ビステッカ隊長の態度も悪いと思います」

「そうは言ってもねぇ……もう終わったことだし、アタシはホントに気にはしてないのだけど……」

「問題ない、で、す、よ、ね? 行くわよ、リクト!」

「おう!」

 

 ずんずんと大股で先頭をいくツキシオ。

 すごいな……”まだ”なのか、ツキシオは。俺はもう、すっかりエルフの株価大暴落なんだが。

 だって、俺は見てきた。

 部下や街のみんなに慕われているビステッカを。

 軍の先頭に立ち、誰よりも真っ先に危険を引き受けていたビステッカを。

 一番の大怪我を負っていたのに、ベルサ砦の民間人救出のため、一番最初に立ち上がったビステッカを。

 もう、俺は経緯とか過去とかどうでも良かった。

 ビステッカがないがしろにされている。その事実だけで十分だ。

 ムカついてる理由なんか、それで十分だ。

 入る前に聞いた通り、この国はピアットと違って多種多様な人種が入り混じるダイバーシティとは趣が異なるらしい。

 すれ違う人の殆どがエルフだった。

 もうすっかりエルフ=陰険なイメージだぞ。


「……なんでリクトとシオンさんが怒ってるか、わかってますか? ビステッカ隊長」

「ありがたくはあるのよ。でも……どうしていいかわからないわ。だってどうしようもないもの。フロンがご機嫌取ってくれるのをお祈りね」

「私も……事情知らなかったら、怒ってましたよ」

「……そうね。ありがと」

 

 でも……ここまで怒っているツキシオも初めて見た。

 ツキシオは歴代詠唱歌姫みたいな魔術師の格好はしていないし、ここでは珍しいエルフ以外の人種。彼女が詠唱歌姫だと理解している人はいないと思う。

 それでも、ツキシオが一瞥するとエルフたちは道を開けた。

 元々備わってる存在感が段違いだ。

 ただ、いくらツキシオが注目を浴びていようがビステッカの扱いが軽くなるわけでもなく。


「ここが女王様のいる塔ね……すいません、女王への面会をお願いしたいのですけど」

「なんだ、貴様は……なっ? ビステッカ?!」

「私、詠唱歌姫です。面会! できますか?!」

「え……は? 詠唱歌姫……様、ですか?」

「女王に取り次いでください。それとも、出直した方がいいですか?!」

「お、お待ちください! ただいま、取り次いで参ります!」


 塔の入口ですらこの調子だ。

 もうこうなってくると格式高い内装も、歴史のありそうな調度品もすべてが気に障る。

 しかもこのエルフども。

 ビステッカだけ、持ち物検査。俺のショートソードもツキシオの短剣も不問。ビステッカだけ剣を取り上げられる。

 案内人、ビステッカにだけ一言も話しかけない。


「いい加減……マジでイラついてきた」

「リクト、まだなにも事情は聴いてないわよ。女王にいきなり噛みつかないで」

「ツキシオは……冷静なんだな」

「冷静に見える? 結構っ!」

「……未だかつて、解放巡礼でここまで怒った詠唱歌姫と面会した統治者っているのでしょうか……?」

「頑張ってね、フロン」


 侍女らしき人に案内され、通されたのは豪華な意匠に縁取られた重厚な扉。

 ここにこの国の親玉がいるわけか。

 ビステッカのこの境遇の親玉が。

 俺は、現実世界では褒められたような人間関係は構築できていない。むしろ、推し以外はないがしろにしてきた。

 それでも、ビステッカは、彼の背中は。

 後ろ指を指されるようなものじゃなかったぞ、絶対に!

 文句言わないと、気が済まねぇ!

 

「よくぞ参った。其方が此度の詠唱歌姫じゃな。我が名はフロランタン。このシンポジオを統治……え?」


 開け放たれた扉の先。

 ビステッカと対を為すような鈍色の銀髪。足元まで伸びたそれは灯りに透けキラキラと輝き、白銀の瞳に、エルフらしい尖った耳。

 シースルーを幾重にも重ねたような不思議なドレスを纏った姿はガラス細工を思わせる小柄な女性。

 現実離れした美貌を湛えたその顔が……みるみる紅く染まっていく。

 ……紅く、染まっていく?


「び……ビステッカ? なぜお主がおるのじゃ? ガレットはなにも……ガレット! 謀りおったな?! わらわは聞いておらぬ! 聞いておらぬぞ?!」

「取り乱しすぎよ、フロン。そうね……ただいま」

「お、おおおお……あ、あの……その……け、健勝であったか? び……ビステッカ」


 あれ?

 ……文句言う気満々だったんだが……なんか雰囲気違うな?


次話 女王フロランタン

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