12.メインビジュアル更新!
◇メインビジュアル更新!
「うお、すげぇ……でか!」
「わ、見て見てタルトさん! ショーケースのマント、すっごい豪華!」
「こ、ここ……近衛十字特別隊御用達の武具屋ですよ?! 私も、入っていいのですか?」
「いいに決まってるじゃない。さ、行きましょ!」
胸元にキラリと光るアミュレット。
い、意識してしまう……うへへ。
でも、魔具屋でへんに気合を入れ直してたけど、今は様子に変化はない。
うーん、ホームシックとも違うのかな……?
わからん。
ビステッカに案内されてついたのは、やたら格式高いオペラハウスのような武器屋だった。
入り口すぐから立ち並ぶ、武器防具魔装具の数々。さっきの魔装具屋も品揃えはかなりのものだったが、ここはさらに桁が違う。なんか高級そうなのもいっぱいある。
「いらっしゃい。おうビステッカ、おまえまた胸筋デカくなってねぇか?」
「ちょっとマスター? 会うなりいきなり胸の大きさの話はやめてちょうだい! セクハラよ」
「皆さま、先ほどぶりです。お待ちしてました」
「あ、マドレーヌさん! こんにちは!」
中で待っていたのは筋骨隆々な犬顔……いや狼か? ウェアウルフって言うんだっけかな。
長身の獣人と、ミス残念美人ピアット代表。
しかし……タルトが気後れするのもわかる。ここはメルセデス下さい、と言ったらベンツじゃなくてマイバッハ出してくる店だろ。
今更だけど、俺のも購入するんだよなぁ。
まだ決心がついてるわけじゃないんだけどな。
「さっ、とりあえず……リクトちゃんが問題よね。マスター、鍛冶師用の装備って置いてるかしら?」
「あん? 鍛冶師ぃ? 鍛冶師がいるのか?」
「あ、俺です……」
「マジかぁ……スマン、うちには無いわ」
「まぁ、そうよねぇ」
事前にビステッカから教えて貰った。
まず、鍛冶師の特性としてなんでも装備特性が発動可能。でもこれは裏を返すと装備を選定する基準が無いのと同じ。
更に、鍛冶師は基本的に旅に出たりはしない。普通は自分の才能活かすから、旅なんかに出ずに修行一択。つまり、鍛冶師が旅の装備を調達するケースがとても稀。
そして最後。修行を終えた鍛冶師が旅に出たりすることはある。でもその場合、自分の装備は自分で作ってしまう。汎用品を買う必要がない。
結論、鍛冶師の専用装備は売っていない。
「うーん……前衛がいいとか、後衛がいいとか、くらいわかんねぇか?」
「あ、それなんだけど、気になってることがあって。リクトちゃん……ちょっとそのまま立っていてくれる?」
「お?」
急に伸びてきたビステッカの手が俺の腕だの背中だのをペタペタ触り始めた。
いや、くすぐったいんだが? なんだ?
「リクトちゃん……アナタ、結構いい身体してない? 線が細いから目立たないけど、筋肉結構あるわよね?」
「おん? ああ、鍛えてはいたぞ。オタ芸って結構激しいんだ。セットリスト全部通すんだと、それなりに鍛えてないと終盤動けないからな」
「なにを言ってるのか、全然わからないわ」
「ええっと……このくらいなら、できるんだ」
俺は両手を床に着くと、腕のみを支えにして体を平行に浮かせて見せた。
プランシェっていうんだけどな。
「マスターこの子、前衛寄りの装備で大丈夫だわ。ヘビーメイルは流石に体格に合わないから、フルプレートから合わせていきましょ」
「リクト、そんなことできたんですね。変な人、ってだけじゃなかったんですか」
「タルトさん、現代人でアレできる人って結構変な人枠よ」
やばい、調子に乗りすぎた。
推しの情報を更新してしまった。自重、自重。
「それじゃ、二手に別れましょ。リクトちゃんの方が大変ね……アタシとマドレーヌちゃんとマスターでリクトちゃんをみるわ。タルトちゃん、シオンちゃんを任せていい?」
「はい。お任せください」
「タルトさん、可愛いのにしましょうね!」
「いいえ、性能で判断します」
「……え?」
「あ、そういえば聞きたいことがあったんだった。マドレーヌさん」
「はい?」
旅に出るのが強制な以上、装備を買うこと自体はもうしょうがない。
ただ、買ってもらう以上節度は必要だよな?
「あの、予め予算を教えてください。こっちの相場とか全然わからないですし」
「あら? ふむ……リクト様。先日、ビステッカ隊長がジャイアントボアに投げた破魔結晶を覚えておいでですか?」
「ああ、あのブワーってなるやつ」
「はい。あれ一個使う金額で一般的な二階建住宅が五軒は建ちます」
……へ? あれ、そんなに高価なの?
「シオン様の詠唱歌は破魔結晶より強力で、実質無制限です。つまり……装備を買うくらいなら、予算に上限はありませんよ?」
わーお。
◇
全身を、ずっしりした重さが覆う。でも鎧の前に着た分厚いガンベゾンとやらのおかげで身体に食い込むこともないし、重さが分散してるので動けないこともない。
むしろ、見た目のイメージより動き易い……が、暑いな。
「はい、リクトちゃん。ヘルム」
「ありがとう……うぉ、視界狭っ!」
「そのままあっちの端まで歩いてみて」
言われるがまま足を前に出すと、これまた思ったより動ける。三十キロくらいはあるはずなんだけどな、この全身鎧。
ただ……ヘルムを付けたら中の蒸し暑さが一段上がった。
こんなもんつけてジャイアントボアと戦ってたのか、西門の兵士の人たち。
歩けないこともないし、走れと言われれば走れるけど……あ、ツキシオだ。
タルトと共に装備を選んでいたツキシオが、俺に気づいた。
……あれ?
気づいたはずのツキシオは、一瞬だけ目を見開いた後に視線を逸らし、装備選びに戻ってしまった。
今の反応、どっかで……?
代わりに反応したのはタルトの方だ。
「……びっくりしました。リクトですか?」
「あ、うんそう。あ、そっか。これじゃ誰だかわからないのか」
とりあえずどんなもんかはわかったので、窒息しそうなクソ暑いヘルムを外した。
うーんこれは……ないな。
「フルプレートですか?」
「ああ。でもこれはちょっと無理だな……改めてすごいな、兵士の人って」
「慣れもあると思いますが、そもそも決められた場所を警備するのと、旅に出るのは別物です。無理はしない方がいいと思います」
「そうみたいだな。全身鎧ならツキシオの弾除けくらいにはなれるかと思ったんだけどなぁ」
「……え? そんなこと考えてたんですか?」
「うん? おかしいか?」
「……いいえ。今言っても無駄な気がしますので」
「……?」
しかし、判断基準がないということがこれほど厄介だとは思わなかった。
ただこの後……俺の装備選びは更に難航することになる。
ビステッカたちの元へ戻り、軽量プレートメイル以下の重さで色々試着してみた。
その結果、装備特性だの加護だのも全部発動できてしまうのがまたネックになった。
「マドレーヌちゃん、やっぱり基本は防御力から考えるべきよ。戦闘ジョブ以外の装備だと一発でアウトになるわよ」
「ですが、リクト様はそもそも戦闘要員ではありません。でしたら、こちらの商人装備の方が装備特性も加護も優秀です」
「学者や狩人のフィールドワーク特性も捨てがたいんだよなぁ。シーフもありだが、もういるしな」
「ダメだ……もう俺が口を出せるような話をしていない」
戦闘以外で役立つ装備もありますよね!と、マドレーヌさんが非戦闘系ジョブの装備をいくつか持ってきたのが始まりだった。
決まらん。
俺の装備、方向性すら決まらん。
そしてもう、なんの話をしてるのか俺は置いてきぼりだ。
ええと、装備できるやつで一番硬くて動き易いやつじゃダメなのか?
「私、これがいい! これにします!」
あれ、ツキシオの声だ。
装備、決まったのかな?
◇
声がした方へ向かうと、彼女はなにやら興奮気味にタルトを説得していた。
そのツキシオとタルトの間には可愛らしい、華やかな装備が一式。
「シオンさん、これ本当にかなり上級者向けといいますか……使い勝手のスペックはかなり高いですが、防御することは全然想定してない仕様ですよ?」
「私ぜんぶ避けるもん!」
「でもそもそも、シオンさんはその使い勝手で選んだわけでもないですよね? 見た目で選びましたよね?」
「見た目で選んだ中では一番スペック高いのにしたもん!」
問題のその装備は、布をメイン素材にしたモノトーン基調のシーフ装備だった。パンツスタイルながらミニスカートも付いてる女性用だ。シルエットや装飾も、どことなくツキシオのステージ衣装を彷彿とさせる……なるほど、たしかに見た目を重視してるな。
タルトが言う防御面は、申し訳程度にレザー素材を使っている程度。金属素材に至っては装飾のみ。
「もう……どう思いますか、ビステッカ隊長。シオンさんの運動能力の高さは私も理解していますが、それにしてもあまりにも防御を捨てすぎじゃないですか?」
「うーん……あら、でもこの防具、その恩恵で加護効果がすごいわね。身体能力まで上がるじゃない。なるほど、布素材の方が加護は乗せやすいから……」
ツキシオは二人の話し合いをジッと見つめている。
二人の反対を押しきってまでこの装備にするつもりは無いんだな。
ただ、そうするとダメだった場合の第二候補は……タルトの後ろにある、アレになるのか。
あの、ずんぐりむっくりしたやつ。
着ぐるみ系のツキシオ……それもアリだと思う、俺は。
ただこの様子、本人は全然納得してないな。
「んー……とりあえずシオンちゃん? 是非は置いておいて一度着てみなさいな。装備は着てナンボですもの。着てみたら案外合わない、ってこともあるし」
「や、やた! はい! 着ます、すぐ着てきます!」
よほど着てみたかったのだろうか。ツキシオは一目散に装備をかっさらって隣室へ駆け込んで行った。
はっや。電光石火である。
「……私も、あちらの方が可愛いとは思ってるんですよ?」
「俺は、タルトチョイスのあっちのずんぐりしたのも着てもらいたいが」
「ずんぐり……そうですよね、やっぱりずんぐりしてますよね……」
ずんぐりにはずんぐりの可愛さがあるのだよ、タルト君。
まぁその可愛さはアイドルの可愛さと正面衝突してるがな!
体型維持だったり、ポーズの探求だったりをツキシオがどれだけ追及してきたか、俺は知ってる。
アイドルの矜持としてツキシオが嫌がるのも無理はない……どころの話ではなかったんだな、これが。
「お待たせしました! すごい、調整してないのにぴったり! それにやっぱりかわいい!」
俺とタルトと、ビステッカ。加えてマドレーヌさんとマスター。全員がフリーズしていた。
ヒラヒラ、クルクルとミニスカートをなびかせて装備の着心地を確認しているツキシオ。誰もが新装備を着て出てきた彼女に声をかけられずにいる。
俺は意識が飛びそう。
「あの……シオンさん」
「はい!」
なんとか声をかけるタルト、ご満悦なツキシオ。
全員が想定外だった。
「ズボン……どこやったんですか?!」
ツキシオは、"かわいい"を追及した結果、装備を改造してきた。
アイドルとしての可愛さの探求が、俺たちの想像の右斜め上を爆走していってる。
「ええ……だってタルトさん、こっちには加護なんかついてないって……」
「言いましたよ? 言いましたけど……まさか脱いでくるとは思わないじゃないですか」
「無くてもいいなら、無いほうがかわいいもの!」
あ、ツキシオ……これ、ふざけてないな。ガチのやつだ。
確かに、なにもついてないならただの布だし、防御力には大差ないだろうな。
でもたぶん問題はそこじゃない。
「シオンさん……えっと、外には魔族以外にも野獣とかモンスターもいます。その装備で戦闘だってするんですよ?」
「え、はい。想定してます。だから加護ついてる部分は触らないようにって……」
「そ、そうじゃなくて! 見えちゃいますよ! そのスカート丈じゃ!」
そう、問題はたぶんそこ。俺が致死量なのも間違いなくそこ。
元々が、パンツスタイルの上から着用が想定されたミニスカート。それ単独ではあまりにも防御力が心許ないのだ。
視覚的な意味で。
「あ、なんだそんなことか……えっと、じゃあ見ていてくださいね!」
言うが早いか、その場でいきなりバック宙を決めるツキシオ。続いてロンダートからの宙返り、着地してまたバック宙。着地の時に体重を感じさせない動きは体操選手顔負けだ。
そしてツキシオが宙を舞うたび、当然ながらヒラヒラと踊るミニスカ。
しかし……驚くことに。
「……今、見えました?」
「見えません……でしたね……」
「アイドルですから! どの視線からだって見えないように動くことなんか朝飯前なんです!」
「どういう理屈ですか?! 見えても大丈夫なの履いてます、とかじゃないんですか?!」
「そんなアイドル夢がないじゃないですか! 私、見えたら困るのしか履いてません!」
いかん、目眩がしてきた。そろそろキャパオーバーだ。
確かに、見えてはいない。見えてはいないが……ツキシオ、見えない方が効くんだぞ、それ。
しかもその情報はリークしちゃだめなやつ。
ダメだ、ここは禁足地だ。早々に撤退が必要だ。
「……ビステッカ」
「なぁに」
「俺、自分の装備、選んでくるわ……」
「それがいいと思うわ」
ビステッカが手で合図を送り俺に付き添ってくれるようマスターに促してくれた。
忘れよう、今の出来事は。
でも……ちょっと様子がおかしいかな、と思ってたけどツキシオ元気そうだ。
やっぱりホームシックだったのかな。
「……あれ? マスター。あの装備……あれは売らないんですか? 良さそうなのに」
軽量プレートが置かれているエリア付近。階段の下の空間にその装備は置かれていた。
人体の急所を的確に守る構造の軽量プレートメイル。
ビステッカの銀鎧に比べたら遥かに地味。でも鈍く光る黒鉄になぜか惹かれてしまう。
今日一日で付け焼き刃とはいえ俺も多少武具を見る目が肥えた。あれ、かなり良さそうなんだけど……。
「良さそう、だよなぁ。俺もそう思ったから仕入れたんだけどよ。ありゃハズレだったんだ。鑑定かけても適応ジョブすらわからねぇ……まて、にいちゃんなら装備できるじゃねぇのか? なぁマドレーヌ」
「そうですね。リクト様が装備した状態で私が鑑定すれば、なにかわかるかもしれません」
「マドレーヌさん、そんなことできるんですか?」
「あの、私、一応最高司祭でして……」
いかんな、どうも残念美人のイメージが先行してしまう。
二人に促されるまま装備を手に取る。
なんか……不思議なほど馴染む。
装備してみると調整せずにサイズもぴったりだ。特性は……発動してると思う。
目を閉じたマドレーヌさんがそっと俺の胸のプレートに手を当て、鑑定を始めた。
残念だけど美人でもあるんだよな。ちょっとドキドキする。
「鑑定……できましたけど、これは……」
「マドレーヌでも難しいか?」
「はい。まずジョブですが……読めません。なんらかの上位職ではないかと予想されますが、私では解読できません。次に発動している特性ですが……これは名称だけわかります。”創成の加護”ですね。ただ、効果は同じく読むことができなくて……」
創成の加護……なんだろうか。意味はわからない、でもとてもしっくりくる。
今日色々見せてもらった武具たちの中で、どんな効果が発動しているのかすらわからないこの装備が一番、身体に馴染む。
なんだろう……これ以外はない、そんな気さえする。
「マスター。俺……これがいいです。これじゃだめですか?」
「え? おう……いや、それ売りもんですらねぇぞ? なんせ俺はなんの保証もしてやれねぇからな」
「でも……これがいい。俺、これにします!」
「はは、じゃあ持ってけ。まぁにぃちゃんなら特性も発動できるし、ここでホコリ被ってるよりソイツもいいだろ」
「決まりですね。特性効果もわからないというのは少々不安ですが……でも、最高司祭の勘では、悪いものではないと思います」
マドレーヌさんの勘……あれ? あんまり当てにならない気がするのは黙っておこう。
「さて、プレートメイルだけってわけにはいかねぇから、ソイツに合わせて他も選んでいくか……おう、そっちは終わったのか」
振り返るとそこには、例のミニスカートでVサインしているツキシオ。うわ、可愛い。
どうやら生足全開は止めたようだ。ズボンの代わりにニーハイとブーツを装備している。際どいことに代わりは無いがスカートの丈も少し伸びている。
アミュレット……似合うな。
「もう、負けましたよ……確かにビステッカ隊長の言う通り防御力優先してシオンさんの機動力を殺してしまうより、こっちの方が良い面もありますし。だって実際に避けてしまうんですから。なにより、あのずんぐりを着せたときのシオンさんの表情が……」
「え、あれ着たのか! 見たかったんだが!」
「やだ。あれは着ない。もう着ないもん」
珍しくふくれているツキシオ。これはこれで白米三杯いける。
「ほんと……シオンちゃんの”可愛い”に対する情熱には舌を巻いたわ。アイドルってそういうものなのね。足だって流石にもう少し隠した方が、ってアタシが言い出す前に全開はちょっと下品でかわいくない!って自分でそのソックス探してきたのよ? しかも加護付き。侮れないわ」
「ブーツもよ! ほら見てリクト、こんなにかわいいブーツなのに特性で足音消せるの!」
え、まって……それ一番すごくないか? シーフの足音消せちゃうの? チートじゃないのかそれは?
さて、ただこれで準備が整ってしまったぞ。
旅……行くのか? 俺。
いや、行くらしいんだけど……ここにきて推しの可愛さがグレードアップしてるんだが。
まだ、覚悟決まってないんだが。
次話 夜のバザール~急転直下




