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推しと始める異世界冒険譚 ~推しとのラブコメ? それは解釈違いです!~  作者: tada
第一章 推しと冒険編

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10.古来より伝わる伝統的なアレ

◇10.古来より伝わる伝統的なアレ


「……それは、なにしてるの? リクトちゃん」

「土下座だ。これは俺が元いた世界では最上級の謝罪の所作だ」

「……なにがあったのかしら、タルトちゃん?」

「は、恥ずかしいから言いません! でも、私はもういいですって言ってるんです」

「うん……なにひとつわからないわ。とりあえずリクトちゃん、ここ往来よ。それ止めた方がいいわ。そろそろヒスイと戯れてるシオンちゃんも帰ってくるわよ」

「いや、ビステッカ。これはケジメだ」


 タルトは怒らないでくれたが、それとこれとは話が別だ。

 怖かったから、などというのは免罪符にもならん。

 年下の子に思いっきりしがみついておいて、ヘラヘラ笑って流すなど大人のすべき事ではない。

 タルトのお母さんにも顔向けできん。


「……タルト。すまない。同じようなことはないよう、以後は……」

「なんか……私ばっかり意識してたみたいで、ちょっとムカついてきました。リクト、立ってください」

「……え? はい」

「……歯を食いしばれ、です!」

「お? へぶん?!」


 それは綺麗なフルスイングだった。

 右から左へと駆け抜ける衝撃で首がもげる。


「気が済みましたか? これでこの話はおしまいです! まだ続けるなら怒りますからね! もう! シオンさん! シオンさーん!」


 タルトは、珍しく大股でズンズンとツキシオ方へ行ってしまった。

 右頬がヒリヒリと痛む。


「ビステッカ……今のは、怒ってないのか?」

「……アタシ、たまにアナタは本当にバカなんじゃないかと思うわ」

「必要だろ、ケジメは」

「アナタはケジメより乙女心を勉強なさい。さて……着いたわ」


 ビステッカに促されて視線を先へ。

 

 フランス凱旋門さながらの巨大な城壁と城門、そしてその向こうにそびえ立つ巨大な城。

 城壁の上には旗がひしめき、城の天辺は飛ぶ鳥たちより高い。そして門の入口には溢れんばかりの人、人、人に大量の馬車や荷車。獣人からエルフまでなんでもござれだ。

 明らかに大聖堂の街とは趣が違う。活気も、規模も、なにもかも。

 俺たちが飛竜を停泊したのはその門の麓にある飛竜発着場だ。


「ようこそ、ピアット国の中心地、城下の街へ。と言っても、アタシはここの出身じゃないのだけどね。でもここがアタシの街で、元々の職場。さ、案内するわ」


 ヒスイとの戯れは気が済んだのか、ツキシオとタルトも戻ってきた。

 俺の顔を見るなり、ジト目を送りつけてくるタルト。

 乙女心か……そんなもんどう勉強すればいいんだ、ビステッカ。


 ピアット。

 俺たちが召喚された世界で最初に訪れた国。

 その中心都市は俺の想像なんか遥かに超えた大都市だった。


 

「お疲れさまです! ビステッカ隊長!」

「お疲れさま。通っていいかしら?」

「もちろんです! 後ろは……お連れ様ですか?」

「詠唱歌姫と護衛よ」

「失礼しました! ようこそ、城下の街へ!」


 すげぇ。顔パス。

 隣で検問を受けている商人たちと違い、俺たちは持ち物検査なし、身分確認なし、即、ようこそ!


「……なに? アタシの顔になにかついてる?」

「いや、こんな普通に話しかけてるけど、やっぱビステッカって偉い人なんだなぁって」

「やーね、ちょっと顔が利くだけよ」

「リクト。その人が偉い人、という認識自体は合ってますからね」

 

 城門の影に入り、一瞬周りが暗くなる。

 そしてそれが再び開けた時、目の前に街並みが広がった。


「うわー……すごい人……タルトさん! あれ! 屋台ですか?」

「そうですね。あのへん一帯はメイン通りとグルメ通りの接続ですね。あの屋台の先からずっと飲食店ですよ」


 城門から真っ直ぐ伸びた街道、その両サイドに連なる商店。ごった返す人。


「ここが……メイン通り?」

「そうね。他にバザールなんかもあるけど、ここは間違いなく主要な商業区画のひとつよ」

「へぇ……あれ? ツキシオとタルトがいない?」

「あっちよ」


 ビステッカが指差す先。

 そこには見失っていたツキシオとタルトがいた。雑踏がうるさくて声までは聞こえないが……。 

 ”あ、あれ! あれはなにかしらタルトさん!”

 ”あれはですね……”

 ”こっち! こっちのは?!”

 こんな感じだろうか。

 エモい。姉妹かな?


「……すごいわね。タルトちゃんがリラックスしてるわ」

「ん……? そうか? いつもとあんな感じじゃないか?」


 むしろツキシオに色々聞かれてなんか嬉しそうだぞ?

 

「その"いつも通り"がすごいのよ。あの子、警戒心の強い種族だって説明したでしょう? こういう人が多い街は苦手なのよ。でもほら見て、今だって尻尾の力を抜いてユラユラ揺らしてるわ」


 尻尾……確かに、気持ち良さそうに左へ右へと揺れる尻尾からは警戒や緊張などは感じない。

 ツキシオ、すっごいモフモフだって言ってたなぁ。興味はあるんだが……まぁダメだろうな流石に。


「まぁ、緊張しなくて済むならいいことだよな。やっぱすごいな、ツキシオは……ん?」


 なにか視線を感じるな?と思ったらビステッカと思いっきり目が合った。

 いや、美形のガン見、火力つよ!

 な、なんだ?


「まぁ……そういうことにしておきましょうかしらね。さて、でもあの様子ならアタシはもう席を外しても良さそうね」

「え? ビステッカは一緒には行かないのか?」


 てっきり一緒に行くものかと思っていた。

 俺、自分の装備はビステッカ頼みだったんだが……。


「もちろん行くわよ。でも当初とは色々と予定が変わっちゃったじゃない? 今の状況で最高品質のものを揃えようとするなら、先に商工会へ話を通す必要があるのよ。まぁ、この国のトップも同行するし形式上のものだけど」

「こ、この国の、トップ? え……王様?!」


 なんかいきなり話がデカくなったな?!

 思わず見上げるとそこにはそびえる巨大な城。

 そうか、そうだよな……この世界の人たちにとってツキシオは世界を救う救世主みたいなもんだもんな。王様だって出てくるよな……あれ?


「あに笑ってんのさ?」

「あはは、ごめんなさいね。そうよね、あんな城があったら王様かと思うわよね……残念ながらこの国が王政だったのはずいぶんと昔なの。今は議会制だから王様はいないわ。議会の最高責任者ってところかしら。でもアナタ、もう会ってるわよ? というか、ここで待ち合わせてるし、なんならそこにいるわ。まったく……お腹空いてたのかしらね?」


 ビステッカが指差す先。

 ピコピコ動くネコミミに流れるブロンド。真っ白な神官服のその人は確かに知った人だ。

 ……やたら美しい姿勢で焼きそばみたいなの食ってるけど。


「え……マドレーヌさん?」

「えっ…………はふっ! はれ、皆さんもう着いてたんれふか?!」


 いや、確かに大聖堂の最高司祭だとは聞いてたけど……アンタこの国のトップだったんかい!

 やべぇ、勝手に残念美人枠にしちゃってたな……。



 勢いよく焼きそばモドキを食べきったマドレーヌさんは「また後で!」と口端に青のりみたいなの付けたままビステッカと商工会に行った。

 やっぱり残念美人枠である。

 

 そして、残されたのがツキシオ、タルト、俺と……お小遣いの入った布財布。


「ビステッカ隊長も言っていましたがバザールの方には行かない方がいいと思います。複雑ですし、治安が良くないエリアもあります。その上で……どうしましょうか」


 二時間ほどの待ち時間。街ブラしといで、とのことだが俺とツキシオには地の利がない。作戦タイムだ。


「私、さっき見かけたお店ですごく気になるところがあって! もしタルトさんとリクトも行きたい店があるなら、待ち合わせ場所決めて……」

「あ、あの……ツキシオ!」

「うん?」


 俺は、この街ブラ二時間の間に成し遂げるべしと心に誓った事があった。

 これは不退転の決意である。

 

「お、俺は行きたい店も特に無いので……い、一緒に行ってもよろしいでしょうか?!」


 それはツキシオと"普通の会話"ができるようになることだ。

 緊張するな、いうのは無理だ。未達目標になる。だがこのまま録に意志疎通すら図れない、ではビステッカやタルトに迷惑でしかない。

 ただでさえ俺は戦力外。足まで引っ張ってはお話しにならない。


「ええ、いいわよ! じゃあ一緒に行こっか!」

「お願いします!」


 よし! よーし! 許可が降りた!

 

「ふむ。でしたら私は別々に……」


 よ……ん? まて。まってくれタルト。

 これ、みんなで一緒に~って流れじゃねーの?

 俺はタルトに視線で必死の"ヘルプ"を送る。

 無理だから。まだ二人っきりとか、無理。助けてくださいタルトさん。


「ええ、何でですか! せっかく気を使ったのに……!」

「いやいやいや、いきなり二人っきりはハードル高いっすタルトさん! 間が! 持ちません! 沈黙にゴリゴリ押し潰されてガラスのハートがカキ氷!」

「あのー……変にコソコソされるよりはいいのだけど、それにしてもその会話は私に丸聞こえで大丈夫なのかしら?」

「はいっ! 挙動不審ですいません! でももう、めいっぱいです! 割れる寸前の風船みたいになってます!」

「……たしかに。これはちょっとダメそうですね……」


 タルトさんもついてきてくれることになった。

 よーし、なんとか普通に話せるように、だ! がんばるぞ!


次話 狙ってできるから天才アイドル

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