7 シェルター
ミリーはコップにある水を見つめながら話しだした。
「あの頃のノルマン公国は今よりもっと保守的で、外の惑星からの旅行者や移住者はおろか、惑星内の外国に対しても、かなり偏った見方をしていた。それは当時の政府が流したプロパガンダの影響もあったけれど、隣国であるザクセン公国との緊張関係もあって、たとえヴァルデ連邦からの『特別な墨付き』があっとしても、アルタリである私の存在は彼らにとってただただ脅威でしか無かった。今でこそ我々アルタリへの差別的な発言や行動は法によってある程度は抑制されているけれど、当時はあからさまに嫌がられたり、怖がられたり、暴力を受けることも少なくなかったわ」
ウェンとケンは彼女の話を黙って聞き続けた。
──62年前、宇宙暦2875
コルドバ アッシュ・ヴァレー・タウン
ミリー・ファイはエタリ(アルタリの母星)がヴァルデ連邦との公約で派遣された30人のうちのひとりだった。ミリーの年齢はまだ2歳だった。彼女は産まれてすぐに人類に興味を持ち、プランテ(人間の世界で彼らとともに生きること)の許可を1年かかって取得した。
だが、派遣されたノルマン公国で受けた数々の理不尽な迫害に、彼女が抱いていた人間に対する科学的な探究心に溢れ、善良で多様性に満ちたイメージはすべて崩れ去った。
もう、諦めてエタリに帰還を要請しようと考えながら、夕方の町をとぼとぼと歩いていたところ、一人の女性が声をかけてきた。
「あなた、ミリー・ファイ? 例の……アルタリよね?」
彼女は20代前半の小柄な黒人女性で紺色の高価なスーツを着ていた。
「ええ」
ミリーはまた心無い言葉を掛けられるのかと、無表情で答えた。
「突然声をかけてごめんなさい。私は、テッサ・ジョーンズといいます。実はあなたが色を不当に解雇されたと噂を聞いたのだけど、事実かしら?」
テッサは非常に上品な態度で、しかし大胆に質問をした。
「事実よ。私はこの場所に居るべきではないのかもしれない」
弱気になっていたミリーはふと本音がこぼれてしまった。
「ひどい目にあったわね。この町の排外主義的な人々には本当にうんざりするわ。ところで、もしよろしければ私の会社で働いてもらえないかしら?」
テッサの言葉にミリーは驚きを隠せなかった。
「私の会社はいわゆる建物の設計やデザインを売る小さな事務所なんだけど、このご時世でしょ? ずっと人手が足りなくてね。私も別の街から来たって言うだけで、あからさまに嫌がられることがあるのだけど、いつかこの小さな町で有名になってやつらを見返してやるわ。ねぇどう? はみ出し者同士で組まない?」
テッサはそう言ってUNIを取り出した。
ミリーは彼女の快活な話しぶりとその目の輝きに圧倒されてしまった。
「ああ、私ったら、またひとりで舞い上がっちゃったわ。無理強いはしたくないの。興味がなければ正直に言ってちょうだい」
「決めた! あなたと組むわ」
ミリーが即答したので、今度はテッサの方が驚いた表情で固まってしまった。
そのあと、ふたりはお互いの顔を見て笑い合った。




