6 避難所
「おい、なんだ?」「爆発か?」「地震だろ?!」「クソッ!ドアが開かねぇ!!おーい!だれか!」
作業員のひとりが避難所のドアをガンガンと叩いている。
ウェンはUNIを取り出すがオフライン状態だった。
ダリオ・ゴンザレスの顔色が青ざめているのを見て、ウェンが気がついた。
「おい、あんた。その顔はなにか知ってたのか?」
「ダリオ、どういうことだ?」
あっという間に彼は取り囲まれてしまった。
「違う。俺は、時間になったら作業員を避難所に移動させろと言われただけだ」
「誰にだ?」「それは……わからねぇ。俺は金をもらったからやっただけだ。だが、まさかこんな事が起きるなんて」ダリオが頭を抱えてうずくまった。
「てめぇ──」ドアを叩いていた作業員が彼に掴みかかろうとした。
「おい、やめろって! こいつを痛めつけても解決しないだろ? な、とりあえず落ち着けって」
そう言ってウェンが間に入った。男はウェンを一瞬睨みつけたが「チッ」と舌打ちして両手を挙げて椅子に座った。
「UNIが繋がらないのは変だ。坑道内には一定間隔でルーターが設置されている。それがすべてオフラインになるなんてありえない」
ケンがそう言った。「何かで妨害されているのか?」
「爆発の際に発生した粉塵に、電波干渉する物質が含まれていたりするのかもしれないわ」
部屋の角に座っていた20代の黒人の小柄で痩せ型の女性作業員がそう言った。彼女はゆっくり立ち上がると先ほど男が叩いていたドアに近づいた。そして、ドアの隙間に鼻を近づけてから「ここの鉱石の臭いじゃないわね。良くはわからないけどたぶんマグネタイト(磁鉄鉱)ね。やはりそれが障害になっているの」
「よう、俺はカーマイン、あんたは?」
「ミリー」
ウェンが握手をしようと出した手を無視して彼女はまた部屋の隅に戻っていった。ウェンが出した手をぶらぶらさせているのをケンが見て苦笑いした。
「なぁダリオ、ここは避難所っていうくらいだから、外と連絡できる設備はないのか?」
「どうだろう。俺もここに来てまだ半年だからな。どっかにマニュアルがあったはずだが」ダリオは小さなキッチンの下にある棚を調べ始めた。
「なあ、この奥に別の部屋があるぞ」
作業員のひとりが自動販売機の裏に扉を見つけて、中に入った。ウェンとケンもあとに続く。人感センサーで天井の照明がオンになり部屋全体が見えるようになった。
「これって避難所って言うよりも──」
「シェルターよ」
ミリーも部屋に入ってきた。
部屋は避難所の倍以上の広さで、30人分の二段ベッドがあり、左右にはそれぞれ男性用と女性用のシャワー室まである。
「なんで避難所なんかにシェルターがあるんだ?」
ウェンが言った。
「逆よ。シェルターが最初にあって、そこに避難所を作ったの」
ミリーは驚きもせず落ち着いた様子で奥に設置されたキッチンのシンクの蛇口をひねって水を出した。「少なくとも救助が来るまでは全員快適に過ごせるわね」そう言って彼女は慣れたような手つきで棚からコップを出して水を汲んで飲み干した。
「大丈夫、浄水装置も機能しているわ」
作業員たちはシャワーや冷蔵庫にあるビールや食べ物を見つけてまるでお祭り騒ぎになっていた。いつの間にかそのなかにダリオも混じっていた。
「やけに落ち着いているし、このシェルターの事にも前から知っていたみたいだけど、あんた何者だ?」
ウェンは疑いの表情でミリーに話しかけた。
「昔、友達がこのシェルターを作ったの」「昔?」「50年前にノルマンではザクセンと戦争があったでしょ? ここはその時代に建てられたのよ」
そばで聞き耳を立てていたケンが「なんだって? しかも50年前って……」声を荒げて話に入ってきた。
「なるほどな、あんたアルタリなのか。どうりで」
ウェンはそう言って腑に落ちたような表情になった。一方でケンは眉間にシワを寄せている。
「アルタリがなんでこんなところで働いているんだよ。もっとこう、なんつーか頭使うような職場で、つまり引く手あまたってやつだろうに」
ウェンが不思議そうな表情でそう言った。
ミリーはしばらく黙り込んだあと
「償い、なのよ」
そう言って、近くの丸テーブルの椅子に座った。
ウェンとケンも彼女の向かい側に座った。




