3 初仕事
ジスがUNIを取り出して全員に『設定』のデータを送信した。「各自明日までにその設定をしっかりと読み込んでおいて下さい」
「そうね、無理のない設定だと思うわ。私たちにはリゲルぐらいの子供がいてもおかしくないもの」
エイカは満更でもないという表情で言った。
「けどリゲルはどう見てもアジア系じゃないだろ」
「ウェン、ちゃんと最後まで読んでよ。僕は養子なんだよ」
「ああ、なるほど。じゃあ俺のこと今日から『とーちゃん』って呼ぶんだぞ、ガハハハ!」
「やだ、絶対そんな呼び方しない。普通にパパって呼ぶことにする。それも向こうに着いてから」
リゲルの機嫌が悪くなるのを見てウェンがあからさまに落ち込んだ。
「私たちの任務は音信不通になったESIAのマルコム・ローランド捜査官を探すことですが、住人の失踪事件も同時に調査します」
「ちょっと、2か月で30人以上も行方不明になっているのに警察や政府は何もしていないの?」
エイカはUNIの画面を指で素早くスクロールさせながらそう言った。
「ええ。それもほとんどが旅行者や観光客です」
「だったら俺たちも巻き込まれる可能性があるってことじゃないのか?」
「その可能性もゼロではないですが、ある程度準備して臨みますので」
「でも、リゲルをこれ以上危険な目に合わせるわけには──」
「やれるよ! 僕だっていざとなればニールもいるし。ウェンは心配し過ぎなの!」
リゲルが立ち上がって声を荒げた。
「もう……疲れちゃったから寝る。おやすみなさい!」
そう言って寝室に行ってしまった。
「冗談抜きで、反抗期みたいね」
エイカが驚いた顔でそう言った。
2週間後の『現在』――
惑星ヴァルデリア ノルマン公国
コルドバ・タウン コルドバ警察署
署内は押し寄せる市民とマスコミでごった返していた。リゲル達が到着し何とか受付で連絡を受けた旨を伝えると、制服警官のひとりが奥へと案内してくれた。
広い会議室には坑道に閉じ込められた作業員の家族たちが10数人ほど着席していて、ドアから入ってきたエイカたちを不安に満ちた目で見つめた。別の警官が外から足りない分のパイプ椅子を持ってきてくれたので、壁際のスペースに彼らも着席した。
40代半ばだと言うのに薄く後退した頭部には白毛が混じる茶色の髪が少しだけ残っていて、それでいて顎の周りだけは立派なクマヒゲを蓄え、グレーのややくたびれたスーツを来た大男が会議室にドアを静かに開けて入ってきた。
「私は刑事のルカス・シュタインです。今回の……担当です」
ルカスは少し口籠った。住民がざわつく。
刑事は軽く咳払いをして「失礼。もう皆さんお察しの通り、これは事故ではありません」
会議室がさらにざわつく中、エイカが立ち上がった。
「ごめんなさい、私たちは今さっきここに来たばかりで何の説明も受けていないの。最初から話していただけるかしら」
エイカは冷静だがややきつい表情でルカスに言った。
「分かりました。ええと、今から約2時間半ほど前、モンテ・シルバ鉱山の坑道西口Dライン付近で爆発があり、作業中の作業員22名が坑道内に閉じ込められた状態とのことです。当初は発破用のダイナマイトに何かの拍子で引火した事故だと思われましたが、火薬の成分に鉱山で使用していない物質が検知され、その後直ぐに犯行声明がありました。動画を再生します」
刑事がUNIを操作すると会議室の大型ディスプレイに動画が再生された。
動画に音声は無く、覆面をした人物が数人〈採掘を今直ぐやめろ! さもなくばまた爆破する〉と書かれた旗を掲げているだけの数秒間の短いものだった。動画右下には反体制派がよく使う拳を突き上げたマークがついていた。
「私の夫は無事なの?」「うちの息子は?」「けが人はでているのか?!」
ざわつきが大きくなったので刑事は「みなさん、落ち着いて下さい。鉱石の特殊な成分と爆破に使われた成分が混ざり合って、電波を妨害するカーテンのような網を作り出しているようでして、依然として坑道内部とは連絡が取れない状態です」
ルカスができるだけ落ち着いて説明をして、住民をなだめようとするが火に油状態だった。
そんな中、エイカはすっと席を立ち、会議室を出ようとしたので刑事が声をかけた。
「ええと、ウェン婦人、お待ちください。いったいどちらへ?」
エイカは表情ひとつ変えずに「ここにいても埒が明かないもの。状況に変化があったら報告してもらえるかしら」
そう言って部屋を出ていった。「え? ママ、ちょっと待ってよ」その後ろをリゲルとジスが後を追った。




