2 帰還
8日前――
ヴァスタヴァ・クタンバ星域 第二惑星ヴァルナ
ヴァルナ・オービタルⅠ 宇宙ステーション
ザイオン・フガシは深く窪だ濃いまつげの目に涙をにじませながら、リゲルたちを迎えた。
「んもぉ! あなたたち。ほんっとうに、大変な目に遭ったのね。アタシ、話を聞いてもう心配で心配で……」
「ザイオンったらもう、大丈夫だよ。みんな無事だったし」
リゲルの小さな手をザイオンの大きな手がしっかりと捕まえて離さない。
「でも、怖いわねぇ。犯人がHIMoDって本当なの?」
「ええ。ただし極秘事項ですから──」
ジスが釘を差す前に、ザイオンが話しだした。
「ちょっと、やーねぇ、ちゃんとわかってるわよ。アタシこれでも以前はアポロスのレンジャーにいたのよ」
そう言ってザイオンが腕をまくり、巨大な肩にあるハープとAの文字が重なったアポロス軍のタトゥーを見せた。
「アポロスって『プロメテイオン』のアレか? 超法規的活動を許可されたおっそろしい部隊だろ? しかもレンジャーって……」
「あーん、ダメよ、それ以上深くは訊かないで。知りすぎちゃうとアナタの命が危ないわよ? ウフフフン」
ザイオンがそう言ってウェンにウィンクした。ウェンの顔が引きつる。
「勿怪の幸いとでも言うのかしら、宮殿がロックダウンしていたおかげで情報の漏洩も最小限で食い止められた格好になったわね」
エイカが小綺麗にまとめた。
「素敵な街だったね。また来られるかな」
リゲルがあどけない表情で言った。
「どうでしょう。今回のことでヴァルナのセキュリティは一層厳しくなるでしょうし……」
「来年ジスがまた、生誕記念パーティーの招待状を王女様からもらえればいいんじゃねえの?」
ウェンが何食わぬ表情で言った。
「あら、出港の準備が整ったみたい。そろそろお別れね。まあ来年までアタシがここにいるとは限らないし、これもなにかの縁だ・か・ら」
そう言ってザイオンはUNIでイシュマール号宛に自分の連絡先を送信した。リゲルたちはザイオンの熱烈なお見送りダンスを受けて乗船した。
イシュマール号はステーションのドックを離れ、ゆっくりと発進する。
「2、3日のはずが1週間もドームシティに滞在してしまいましたね。テラのCUBEの状態がどうなっているのか、報告も含めて本部に問い合わせてきます」
ラウンジの階段を降りてきたジスはそう言うと、再び操舵室に戻って行った。
「うまいもん沢山あったのにドームシティから一切持ち出し禁止ってどんだけ厳しいんだよ~。腹減ったぜ」
ウェンがソファにどかっと腰を下ろして言った。
「あなたあれだけたくさん食べてまだ物足りないの? よくメディカルチェックをパスしたわね」
エイカがウェンの膨らんだお腹を指さしていった。
「リギーはえらく静かだな。どうした、疲れたのか?」
「うん……あの、変な話をするけど笑わないで聞いて欲しいんだ」
リゲルは真面目な表情でそう言った。エイカがやさしくリゲルの隣りに座った。ウェンも姿勢を整えた。
「いいわよ、話して」
リゲルはアヤとの出会いについて話した。ウェンとエイカは黙ってリゲルの話に耳を傾けた。
「それで、アヤは自分のことを調べてほしいって……途中で途切れちゃったけど」
「それって全然変な話じゃないぞ。よく話してくれたな」
ウェンが真面目な表情で言った。
「ええ、とても重要だし、これで辻褄が合うわね。あの例のラボであなたの命を救ったのが彼女、アヤ・ヒビノ・ファーガソンだったのよ」
エイカもリゲルの目をじっと見つめて言った。「でも、どうやって調べれば」ウェンがそう言いかけた時、操舵室からジスが降りてきた。
「おまたせしました。お話があります」とジス。
「その前にジス、リゲルの話を聞いたほうがいいと思うわ」
エイカがそう言うと、先程ふたりに話したのと同じことを話した。
「なるほど。わかりました。後ほど本部の人間に調べさせましょう。ひとまずそれでいいですか?」
「うん。アヤも何かあったらまた出てくると思うから」リゲルは苦笑いした。
ジスはゆっくりと息を吐いてから話しだした。「テラ側はまだ通行禁止状態です。貨物船の事故……というか事件ですね。それ以外でもいくつかの遮蔽された機雷がCUBE周辺で見つかりました。直ぐ撤去されましたが、まだ予断を許さない状態ですね」
「そうね、何としてもリゲルを地球に行かせたくない連中がいるのは確かだし」
「んじゃ、また寄り道すんのか?」
「ええ、今回は正式な任務としてヴァルデマール連邦国へ入国します。しかも秘密裏に」




