1 学校
ヴァルデマール連邦国
惑星ヴァルデリア ノルマン公国 コルドバ・タウン
エルドラ中等学校の教室は、レトロな木造建築を思わせる開放的なデザインだった。大きめの窓から自然な陽の光がたっぷりと入り、明るいベージュの壁紙が清潔感と人間味のある雰囲気を演出している。生徒数は少なく200名ほどで、一つのクラスで複数の学年の生徒が一緒に授業を受けている。
担任のタダシ・ムベンガは190㎝の長身の黒人男性で、30代前半の清潔感のあるスキンヘッドに黒縁のメガネをかけ、いつもシワのない明るい色のスーツを着ていた。それが彼の律儀で几帳面な性格を表している。
「我々が当たり前のように呼吸をして陽の光を存分に浴びることができるのも、惑星が絶妙な距離と位置を維持した状態で太陽の周りを公転しているから。しかもそれがこの銀河系だけで7つも存在している。これは偶然と言う言葉では説明ができないほどの確率なんだ」
彼が宇宙について語る時、ややロマンチスト傾向になることを生徒たちは子供ながらに察知していて、「また始まった」という顔をしている。
「では、先週の復習だ。我が惑星ヴァルデリアの公転速度を時速で答えてもらおうか。そうだな、転校生のリゲル・ウェン君!」
リゲルは少し恥ずかしそうに立ち上がった。
「ええと、時速約10万7千㎞です」
「素晴らしい!!」
ムベンガの大きな声とともに、授業終了のチャイムが鳴った。
生徒たちがぞろぞろと帰宅するためにスクールバスに乗り込んでいく。リゲルがゆっくりとシートに座ると、隣に同い年くらいの赤毛の少年が座った。
「やあリゲル。どう? この学校には慣れた?」
「ロニー。なんとかね。ムベンガ先生、さっきはいきなり僕を当てるからびっくりしちゃったよ」
ロニー・グリムはアハハハと高い声で笑った。
「でも、すぐに答えてたから凄いよ。僕は地学は苦手なんだよね」
「あれ? ロニーが苦手なのは地学だけ?」
リゲルが意地悪く返すと、ロニーが「ウソウソ、勉強は全部苦手。体育だったらリゲルに勝てるんだけどな」と笑った。
前の席にいたガッシリとした体格の男子生徒が振り返った。
「よう、オチビサンたち! 明日はバスケがあるよな、ロニー。今度こそ勝負だぞ」
「ヨナスは背が高いからズルいよ」
リゲルが顔をしかめると、「ヨナス、覚悟しなよ。スピードは僕のほうが上だからね」
ロニーが不敵に笑った。ヨナスも「ヘヘッ」と笑って顔を前に戻した。
バスがゆっくりと減速して停車した場所は、ハーゲン・タウンという住宅地だった。リゲルはロニーとヨナスに手を振ってバスを降りると、何件も並ぶ同じような家屋の一つに入っていった。
玄関のドアを開けて中に入ると、エプロンを着たエイカが笑顔で出迎えた。
「ただいま! ドク……じゃなかった、ママ」
「おかえりなさい。まだ慣れないわね。まぁ私もだけど」エイカが苦笑いを見せた。
「あれ? ウェン……じゃなかったパパはまだ仕事?」
「家の中にいる時は無理して言わなくてもいいのよ」
「エヘヘヘ」
「ウェンはたぶん遅くなるんじゃないかしら。今日から現場の鉱山に入るって言っていたから」
ふたりが話していると二階からジスが降りてきた。
「リゲル、おかえりなさい。学校は楽しかったですか?」
「うん、友達もできたし、勉強も楽しいよ」
「来てまだ1週間なのにもう友だちができたの?」
エイカが驚いた顔で言った。
「うん、2つ年上のロニーとヨナスって子。ふたりともお父さんが『モンテ・シルバ鉱山』で働いているんだって」
「ああ、ウェンと同じところですね」
ジスが頷いた。
「それで、例の行方不明のESIAの情報は何かわかったの?」
「いいえ。ここの警察は事件について何も調べていません。そもそもただの事故扱いになっていて、捜査すらしていませんね」
ジスは目を細めて話した。
「ただの事故って……30人以上がある日突然消えてしまったのよ? それのどこが事故なのよ。やっぱり組織的に隠蔽しようとしてるんじゃないの?」
エイカが声を荒げてそう言ったとき、彼女のUNIに通話の呼び出し音が鳴った。
「私はコルドバ警察のルカス・シュタインです。実はつい先程モンテ・シルバ鉱山にて爆破事故がありまして……」




