10 夜
モンテ・シルヴァ鉱山
坑道西口Dライン シェルター
「テッサ・ジョーンズが私に遺したもの。それが、このモンテ・シルヴァに作られてたシェルターだったの」
「要するに、このシェルターを隠すために避難所をここに建てたのか?」
「そうね。でもこれで、彼にバレてしまうから、きっとここもなくなるわね」
「それは……なんというか残念だな」
ウェンが言った。
「でも、もういいのよ。長い間ここで働いたけど良い区切りになるわ」
ミリー・ファイがそう言って水の入ったコップに触れようとした時、何かに気がついて天井を見つめた。
「どうした? 大丈夫か?」
ウェンが話しかけるが彼女は目を細めて首を傾げている。
「ミリー?」「照明、変じゃない?」ウェンも照明を見つめるが、特に異常を見つけられない。
「電圧が不安定なのかしら。人間にはわからないかもしれないけど、揺らぎがあるのよ」
ミリーは天井を見上げたままそう言った。
「そうなのか? まあマグネタイトだっけ? それの影響じゃないのか?」とケン。
「いいえ、さっきまで異常はなかったもの。それにパターンがあるわ。こんな感じよ」
ミリーはそう言って、UNIを取り出して長さの違う2種類の線を書いた。
「それって、モールス信号じゃねぇか?」
ダリオ・ゴンザレスの顔がぬっと近づいた。
「おお、ダリオ! やるじゃねーか。それだ! ってことはだな、ツートンツートンで『C』だろ……だから」
ウェンがUNIに書き込む。
「はあ、俺も大昔のアカデミーの試験、よく覚えてたわ。ほら、できた」
「『COMM PTL』ってどういう意味だ?」とダリオ。
「なるほど、Communicate Power Transmission Lines(送電線で通信)ってことか!」
ケンが指をパチンと鳴らした。
それを聞いてミリーは奥の小さな部屋へ向かった。そこには外部との通信機があるが電波障害のために機能していない。
ミリーは目を細めて壁を舐めるように見つめて何かを見つけると、そこに手を触れた。その瞬間に通信装置がオンラインになる。
「おお、こいつはすごいな」
ダリオが目を丸くした。
「外の事務所の端末を呼び出すわ」
ミリーがそう言って端末の前に座った。
約1時間後──
崩れた瓦礫の撤去作業がおわり、作業員たちは無事に帰宅した。
「ただいま、今帰ったぞ……あれ? なんだよ、その顔」
そう言って家に帰ってきたウェンを待っていたジスとエイカは、不機嫌そうな表情で彼を見つめている。エイカが立ち上がってウェンに近づいて匂いを嗅いだ。
「なんで臭くなってないの? それに、なんでそんなこざっぱりしているのよ」
「それはだな、シェルターでシャワー浴びてきたからだ」
ウェンが上機嫌で答えた。
「私たちは現場まで連絡手段を伝えに向かったのに、モールス信号のアイデアだけ聞いて門前払いされたんですよ」
ジスが疲れ切った声で言った。
「あれは、いいアイデアだったな。シェルターには食料も十二分にあったし、救助隊が来るまでのんびり備蓄用の食料をみんなで飲み食いしててお祭り騒ぎだったぜ、ガハハハハ!」
ウェンはいつもの脳天気なバカ笑いを披露した。
「心配して損したわ。おやすみ……」
エイカは大きくため息をついて寝室へ向かった。
「それにしても妙な事件でしたね」
ジスとウェンはお互いの情報を交換した。
「そのシュタイン刑事にしろ、ダリオにしろ、そんな簡単に買収されるもんかね。コルドバ・タウンは一見するとのどかな田舎町だけど、今回の事件といい、どうやら一枚岩じゃなさそうだな」
「ええ。それはさておき、ウェン。エイカは本当にあなたのことを心配していましたよ」
「ああ、そうみたいだな。わかってるって、ちゃんとあとから謝っておくさ」
ウェンは苦笑いしながらそう言った。
同時刻――
ヘッドライトを消したトラックが家の前に停まった。それと同時にその付近の街灯が消えた。
トラックの後部の貨物コンテナ部分から暗視ゴーグルとガスマスクをつけた部隊が数人降りてくると、足音を忍ばせながら庭を進む。
ドアの前でひとりの男がUNIを取り出し操作をすると、その家のセキュリティがオフラインになった。彼らは無言で手際よく家に侵入した。
ひとりの男がハンドサインで「上に行け」と指示を出し、2階の寝室へ上がる。
寝室のドアを少しだけ開けると、手に持っていた装置から伸びる細いホースをその隙間に差し込んだ。まもなくシューッとガスが流れる音がして、男はUNIで時間を図っていた。
ディスプレイの表示が30秒を過ぎたところで、寝室のドアを開ける。20代後半の若い夫婦が眠るベッドに近づき意識がないことを確認すると一緒にいた仲間に「いいぞ、連れて行け」と指示を出した。廊下に出ると、子供部屋にいた仲間が同じようにガスで意識を失った少女を抱えて階段を下りていった。
「確か、犬がいるはずだが?」と部隊のひとりが呟くが「いないなら、かまわん。気にするな」
部隊のリーダーがそう言って、男を急がせた。夫婦と少女を貨物用コンテナに乗せ、トラックが静かに走り去ると、付近の街灯が何事も無かったかのように点灯した。




