無垢なる魔女の気まぐれと、這い寄る肉塊(魔王)の誕生
「あー……飽きた」
薄暗い地下室で、ふと魔女が呟いた。
その言葉に、解剖台の上で四肢をもがれていたタカシ(肉塊)がビクッと反応する。
「もう十分データは取れたし、お前さん、刺激に対する反応が単調になっちゃったねぇ。治りばかり早くてつまんない。はい、お前はもう用済みだよ」
「あ……あが……? まじょ、さま……もっと、こわし……」
「しっしっ。アタシは次のおもしろい素材を探しに行くから、さっさと出ていきな」
魔女はゴミでも払うかのように指先を軽く振ると、空間を歪めてタカシを地上へと放り出した。
彼女の名はアサルトリリー。
遥か古の時代からおとぎ話に語り継がれる『無垢の魔女』。善悪の概念も倫理観も持たず、ただ純粋な(無垢な)知的好奇心だけで国を一つ滅ぼすこともある、永遠を生きる生きた災害。
そんな彼女にとって、タカシを弄り回した日々は、長い長い人生におけるほんの一瞬の暇つぶしでしかなかったのだ。
ベチャァッ!
タカシが放り出されたのは、かつて自分が捨てられた、あの悪臭漂う王都外れのゴミ捨て場だった。
だが、今のタカシにとってここはただの『痛みのない退屈な場所』に過ぎない。
「あ……ああ……魔女様、痛いのが、ない……。さみしい……さみしいよぉ……」
タカシはぐちゃぐちゃになった肉体を這いずらせながら、血の涙を流した。
しかし、その時。彼の体の中で、異常な化学反応が起き始めた。一万回を超える劇薬と魔法薬の投与、そして何より、あの無垢の魔女アサルトリリーの超高濃度の魔力残滓が、タカシのバグりきった魂と完全に融合を果たしたのだ。
ブクブク……ボコォッ!
「ギャ……アァァァァ……!!」
全身の肉が、タカシの意志とは無関係に異常増殖を始める。
痛みはない。ただ、内側から溢れ出す無限の魔力がタカシという矮小な器を食い破り、周囲のヘドロや生ゴミ、かつて自分を噛みちぎった野犬の死骸すらも取り込んで巨大化していく。
「ああ……そうか。魔女様は、もう俺を壊してくれないんだ」
ドス黒い瘴気を放つ巨大な肉の塔へと変貌しながら、タカシのイカれた脳髄にある天啓が閃いた。
「なら、俺がみんなの魔女様になればいいんだ。この世界中のみんなに、あの素晴らしい『痛み』と『再生』の喜び(愛)を、たっぷり分け与えてあげよう……! フヒッ、フヒヒヒヒヒヒ!!」
バキバキと骨を鳴らし、肉が隆起し、タカシは立ち上がった。
もはや人間の形はしていない。無数の腕と触手が生え、ドブと劇薬が混ざったような最悪の猛毒を撒き散らす、天を突くほどの巨大な冒涜的肉塊。
勘違いキモオタが無限の地獄を経て辿り着いた果て。
それは、世界の全てを『愛(という名の解剖と拷問)』で満たそうとする、狂気と汚物の魔王の誕生だった。
「待っててね、レオン、女騎士、シスター、女神……。俺が、みーんな平等に……可愛がって(こわして)やるからな……ッ!」
かつてイケメン勇者やヒロインたちに向けられていたルサンチマンはすでに消え去り、あるのはドロドロに歪みきった慈愛のみ。
世界を終わらせるおぞましい歓喜の咆哮が、平和な王都の空を絶望の漆黒へと染め上げていった。




