女神の鉄槌、そして狂気のモルモットへ
「どうして……どうして俺ばっかりこんな目に……ッ! 全部、全部あいつらのせいだ……!」
再びゴミ捨て場の最奥に投棄されたタカシは、ヘドロの海で体育座りをしながら涙と鼻水を流していた。
もう三日何も食べていない。
その時、ゴミ山の上に神々しい光の柱が降り注いだ。
光の中から現れたのは、純白のドレスを身に纏い、背中に後光を背負った絶世の美女――女神だった。
「おお……っ! め、女神様! やっと迎えに来てくれたんだな! チュートリアル長すぎだろ! さっさと俺のチート能力と、あのクソ勇者を処刑する権利を……」
タカシは歓喜の涙を流し、すがりつこうと手を伸ばす。
しかし、女神は信じられないものを見るような目でタカシを上から下まで舐め回し、そして――。
「……うっわ。本気で引くわ。なにその臭い、マジで無理なんですけど」
「……へ?」
神聖な口調など微塵もない、ドン引きのギャルギャルしい声が響いた。
「いやさー、手違いでゴミ魂が紛れ込んだってアラート出たから処理しに来たんだけど。あんた前世でもキモかったけど、今もっとキモいよ? 存在自体が環境破壊レベルなんだけど。てか私に近寄んないで、マジで浄化するよ?」
「な、なんで……俺は選ばれた勇者じゃ……」
「は? あんたみたいな手違いのバグデータが勇者なわけないじゃん。レオンきゅんの足元にも及ばないゴミクズに割くリソースはないから。じゃ、そういうことで。二度と私の視界に入んないでね。バイバーイ」
女神はペッ、と唾を吐き捨てるような視線を残し、あっという間に天へと帰っていった。
希望の光は、完膚なきまでにタカシを全否定して消え去った。
「あ……ああ……あああああああッ!!」
幼馴染、女騎士、シスター、そして頼みの綱の女神にまで「生理的に無理」と見捨てられたタカシの心は、ついに完全に折れた。
俺は悪くない。世界が狂ってるんだ。こんなクソゲー、もうやってられるか。
タカシはフラフラと立ち上がり、ゴミ捨て場の端にある切り立った崖へと向かった。
ここから飛び降りて、リセマラするしかない。
タカシが目を閉じ、奈落の底へ身を投げようとした――その瞬間。
「おや、捨てる命なら、アタシがもらってもいいかい?」
背後からヌルリとした声が響き、タカシの体は見えない力で宙に拘束された。
振り返ると、そこには漆黒のローブを目深に被り、不気味に微笑む魔女が立っていた。
「な、なんだお前! 離せ! 俺は死ぬんだ!」
「ひっひっひ。ちょうど、新作の『骨まで溶けて自己再生を繰り返す地獄の劇薬』の被験者を探しててねぇ。屈強な戦士だと結果がブレるし、かといってすぐ死なれても困る。お前さんのような『生命力だけは無駄にゴキブリ並みのゴミ』は、まさに理想の実験体だよ」
「は……? げ、劇薬……? モルモット……?」
魔女のローブの奥で、狂気に満ちた目がギラリと光る。
チートも、ハーレムも、さらにはリセマラの自由すら奪われた。
「さぁ、素晴らしい地獄の始まりだ。泣いて喚いて、アタシに極上のデータを見せておくれ!」
「いやだ……いやだあぁぁぁぁ! 誰か、誰か助けろ! 幼馴染ぃ! レオン! 女神ィィィィィッッ!!」
薄暗い地下研究室へと引きずり込まれていくタカシの絶叫は、誰の耳にも届くことはなかった。
これにて、タカシの短い異世界転生(勘違いチュートリアル編)は終了し、終わりの見えない人体実験(無限地獄編)がひっそりと幕を開けたのである。




